2つの欠陥
「お前達!? 無事か!?」
「どうした、イーグル? そんな血相を変えて」
「俺たちはアンドロイドに追われている。直ちに逃げるぞ!」
「インクは? インクはどうしたの?」
「あいつは……」
イーグルの悲痛な表情が全てを物語っていた。
「……そう」
「しかし逃げるなんてどうすればいいんだ?」
「タイムマシンで次の時代に……あれ?」
「どうした?」
「タイムマシン……あと2回しか起動しない……」
「なに!? 最終的には2123年には行かなくてはいけない。次にどこかに飛んだらもう戻れないのか……」
「ごめんなさい、私が2023年に二度も行ったから……」
「……そうか……でも待て、ミライはこの時代から来た。この時代ならミライのお父さん……タイムマシンを作った人物がいるんじゃないか?」
「死んでいると思う。でも何か手がかりがあるかも。探す価値はあると思うわ」
俺たちはミライの父親を探すことになった。
ミライの父親ならタイムマシンの作動回数を増やす方法を知っているかもしれない。
いや、この世界をどうすれば救えるのかも。
そんな淡い期待を抱いて。
「イーグル、悪いけど人探しを手伝ってもらっていいかしら?」
「ただでさえピンチなのに……まあいいけどよ」
「百瀬文雄って人なんだけど」
「俺の内部コンピューターにアクセスする……百瀬文雄……もっと情報無いのか?」
「物理学者。年齢は40くらい」
イーグルは頭に眠るコンピューターでネットワークに接続し、検索する。
「物理学者か……やたら論文書いてるな。『時間非線形性:時間逆行と加速に対する理論的枠組み』、『レトロカーザリティの倫理と量子力学:タイムトラベルを再考する』……」
「そう、その人。生きているか分かる?」
「……駄目だ、分からん。だが学者はアンドロイドも重要視していて安易には殺さないはずだ」
「そう……とりあえず私の家に行ってみましょうか」
ミライの家は池袋にあるという。
ここも変わり果ててはいるものの池袋であるとのことだった。
それからも途中、アンドロイドが現れ、狙われる。
「イーグル、てめえ裏切ったのか!」
イーグルはすかさず左膝からナイフを取り出しつつ投げる。
「ぐあっ!」
ナイフは胸部を貫いた。
「裏切りではない。ただ俺は自分が正しいと思ったことをやろうとしてるんだ」
イーグルはナイフを拾う。
「この通り今はアンドロイド全てが敵だと言っていい。一刻も早くミライの家に辿り着くぞ」
「了解」
俺とミライも銃を構え、落ちている瓦礫に身を隠しつつ、慎重に、時には大胆に進んでいく。
「あとどのくらいある?」
「1kmくらい」
「隠れながらだとしんどい距離だし、増援を呼ばれかねん。一気に距離を詰めるぞ!」
俺とミライはイーグルの考えに頷いた。
しかし300mほど進んだところで──
「イーグル! この裏切り者め!」
アンドロイドは即座に銃を向けるも、イーグルは目にもとまらぬ速さでナイフを投げる。
それはアンドロイドの喉に命中する。
「ここで銃声が響いたらまずいんだ、すまない、イルム」
次に遭遇したのは700m付近だった。
「イーグル、お前とはやり合ってみたかったんだ。銃声が響くと不都合だろう? お互い素手でやろう」
「……しょうがねえ、かかってきな」
アンドロイドはすかさず距離を詰め、左ジャブを放つ。
イーグルが反撃の蹴りを繰り出した頃には舞うように射程から逃れる。
(ボクシング……それもアウトボクサー……やりづらいな)
下手に攻めるとカウンターを喰らう。
しかし攻めなければ時間が足りない。
イーグルはミドルキックを放つ。
それをアンドロイドは回避、隙を尽き一瞬で距離を詰め左ジャブ、右ストレートを放つ。
「ぐっ……」
「どうした! 足りんぞ! お前の実力はそんな物か!」
イーグルはたまらずガードを上げるも、そのがら空きになった腹部に強烈なボディブローが叩き込まれる。
「ごほっ!」
ガードが自ずと下がり、とどめと言わんばかり右ストレートが顎に向けて放たれる。
それをイーグルは紙一重で弾く。
だが弾くのが精一杯。
追撃のストレートの連打には絶えられない。
かに見えたが、イーグルは腕を捕らえた。
「ふん!」
そしてアンドロイドの腕をへし折った。
「ぐぅうう……! やはりお前には勝てんか……」
「すまんな、エルム……」
イーグルも仲間と闘うのは不本意だろうに……
「見えた、あそこよ!」
遂にミライの家に辿り着いた。
その家は原型をとどめているが、ドアを空けようとするも施錠されていた。
ミライはノックする力を強めるも、まるで反応がなかった。
「しゃあねぇ、蹴破るぞ」
イーグルが扉を力強く蹴り、無理やり中に入ることに成功した。
暗がりの中、俺たちは誰もいない部屋に立っていた。
モニターだけが光を放っており、そのモニターに映像が表示された。
「ミライ。またこの時代に来たようだな」
「お父さん!」
「何故この時代に来た? 革命の経緯を知るためか? 私に会うためか?」
「私たちはタイムマシンの作動回数を増やしに来たの! でもまた会えてうれし……」
しかし、予め録画されたメッセージのようで、男は語りかけるのみで、対話が成立することはなかった。
「まあいい。アンドロイドはタイムマシンを危険視している。私は殺されていることだろう。だからもしタイムマシンの作動回数を増やすことを期待して来たのなら応えることは出来ない」
「……そんな……」
「だが、助言は出来る。次は2103年、E言語が生まれる時代に飛ぶんだ。私はタイムマシンを応用して、2123年の世界までは観測できた。2123年はE言語という言語が主流になっていた」
「私はプログラミングは詳しくないが、E言語には人間側から見た欠陥とアンドロイド側から見た欠陥があるらしい。その欠陥になにかしらヒントがあるはずだ」
「ミライ、すまないな。だがディストピアを阻止できるのはミライだけなんだ……あとは託した」
そして映像は切れてしまった。ミライはその場で言葉を失い、立ち尽くしていたが俺の頭の中にはある疑問が浮かんでいた。
「欠陥……? どういうことだ?」
E言語なら俺も学んだが特に欠陥なんてあるようには見えなかった。
それなのに欠陥が2つもあるという。
だがE言語はC言語とJavaとPythonとあと未知の物を足して2で割った感じだと前に思ったが、その未知の部分はまだ謎に包まれている。
そしてその未知の物は前の世界、2053年でプリントした感情を持ったAIの作り方にある可能性を感じた。
ミライは涙を拭いながら落ち着きを取り戻し、強い表情を見せてくれた。
俺は彼女の背中を優しく撫でる。
「……私はもう大丈夫。ごめん」
それよりこの時代からは早々に去らねばならない。
次の目的地、2103年へ向かうためにも。
「いつまでもこの時代には長居出来ないな……ミライ、2103年に行こう」
「でも、そうしたら2123年に行ったら帰ってこれないのよ?」
「2123年で上手くいけば恐らく世界は作り替えられ、俺たちは戻れると思う」
「……そう、分かったわ」
「お前たち、未来に行くのか」
「イーグルも来るでしょ?」
「そうだな……人間とアンドロイドが平和的に共存する世界を見たい。なによりお尋ね者だからな。俺も連れて行ってくれ」
「分かったわ!」
イーグルは両脛にあるホルスターから銃を取り出し、俺たちにも1挺ずつ手渡す。
「イーグルって名前だが俺の獲物はデザートイーグルじゃなくベレッタだ。ベレッタならお前らでも扱いやすいと思う」
デザートイーグル、と聞いて今となっては懐かしい顔が浮かぶ。威圧的な風貌の、鋭い目。
ベレッタという銃について詳しいことは知らないが、デザートイーグルより扱いやすい小型拳銃なのだろう。
「2103年……E言語が作られている時代。一体どんな世界なんだ……?」
俺の問いかけに答える者はおらず、ミライが空中に光を浮かばせると、3人でその中へ足を進めた。
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