第6話

 小学三年生の秋、今日は休みに家族で温水プールにやってきている。

レジャー施設にもなっているので、流れるプールやウォータースライダー等もあり子供に人気の施設だ。


「おおお、中々混んでいるね。」


「秋とは言え温水だからな。冷たい想いをせずに済むから皆娯楽目的で足を運んでいるんだろう。」


 着替え終わった皇真と父親が中に入った感想をお互いに述べている。

様々な遊び要素のある施設があるので人の入りは良い。


「お!おい皇真、あの子可愛くないか?」


 父親の言う方向を見ると、なんとも小学生には刺激の強い水着を着たスタイルの良い女性がいる。

周りの男どももチラチラと見ているのが丸分かりだ。


「そんな事言ってると母さんに睨まれるよ?」


 仲の良い夫婦だとは思うが他の女性に目移りしていては母親も怒ると思う。


「母さんはまだ来てないんだから少しくらいいいだろ?」


「まだ来てないと何がいいのかしら?」


 後ろから聞こえてきた声に思わずビクッと肩を振るわせる父親。

皇真は何も後ろめたい事をした覚えは無いのに連られて少しだけビクッとしてしまう。


「い、いや、なんでもないよ?」


 父親が振り向いて笑顔で言うが言葉が途切れ途切れでとても怪しい感じになっている。


「ふーん、まあいいわ。それじゃあ早速いきましょうか。」


 母親はそう言って父親の腕を抱き寄せる。

それにより豊満な二つの胸が形を変えており、スタイルの良い母親に見惚れていた周囲の男共の視線がより一層強くなった様に感じられ、若干前屈みになっている者もいる様だ。


「えっ?子供達はどうするんだ?」


「この子達はしっかりしているから大丈夫よ。貴方を一人にする方が危険だわ。」


 先程他の女性に見惚れていたのをしっかりと見られていた様だ。

それを聞かされては父親は何も反論出来無くなる。


「それじゃあ皆も自由に遊んできてもいいわよ。姫月ちゃん、姐月ちゃん、二人の事頼むわね?」


「「はーい!」」


 母親の言葉に元気良く姉達が返事をすると満足した様に頷いてから父親と共に泳ぎにいった。

父親は仕事で帰らない日も多いのでたまには夫婦水入らずで過ごしたいのだろう。


「皇ちゃん皇ちゃん。」


 親達の後ろ姿が人混みに消えると姫月姉さんが肩をちょんちょんと叩いてくる。


「どうしたの?」


「私達を見て何か言う事があるんじゃないかしら?」


 姫月姉さんがそう言ってその場でクルッと回って見せる。

これは今までにも何度か経験した事があるので分かる。

要は水着をきた自分達を褒めろと言う事だ。


「皆とっても似合ってるよ。」


 皇真は当たり障りの無い言葉で三人を褒める。

実際に良く似合っているのでこれは心からの言葉である。

ワンピースタイプの水着の色違いを着ているのだが、三人共が子供水着の雑誌に掲載されてもおかしくない程に可愛らしい見た目だ。


 これは身内贔屓無しでの感想である。

実際にこの場には子供も多く、三人を見て頬を赤らめている者も少なく無い。


「うふふ、ありがとう皇ちゃん。」


「ふふん、そうでしょうとも。」


「す、少し恥ずかしい。」


 三人は皇真の言葉に三者三様の反応を見せる。

姫月姉さんは嬉しそうに姐月姉さんは当然だと言った様子である。


 双子の姉達は皇真よりも一つ年上の小学四年生となって、身体付きも少し女性らしくなってきた。

胸は母親に似たのか小学生ながら既に頭角を表してきているので自身があるのも納得だ。


 そして篠妹は姉達と違って水着姿を恥ずかしがっている様子だ。

妹のそんな一面を可愛らしく思いつつ、是非その恥じらいを姉達とは違って保ってほしいと思った。


「ほらほら、せっかくきたんだから遊ぶわよ皇真!」


 姐月姉さんが皇真の腕にくっ付いて近くにあるウォータースライダーを指差しながら言う。

成長途中ではあるが確かな膨らみが腕に当たっているので少し自重してほしいところだ。

心無しか周囲の子供達から殺気を感じる気がする。


「篠妹も皇真兄と乗りたい。」


 反対側の手を取って篠妹が上目遣いにお願いしてくる。

シスコンのつもりは無いが妹の破壊力のある仕草に若干頬が緩む。

そして周りの殺気がより一層増した気がする。


「それじゃあ向かいましょうか。ママ達も楽しんでいるでしょうから私達も楽しまなければ損ですし。」


 姫月姉さんが皇真の背中を押しながら言う。

そのままウォータースライダーの方に向かっていくが、家族とは言え三人の美少女に囲まれている皇真に向けられる殺気はどんどん数を増していっている気がした。


「あら、随分と空いているわね。」


 アトラクションの数が多いからかもしれないがウォータースライダーに列は無い。

直ぐにでも乗る事が出来る様で係員もどうぞどうぞと言わんばかりに入り口を示している。


「皇真、早速乗りにいくわよ。」


「姐月ちゃん、これ二人乗りなんですって。先ずはお姉ちゃんに譲る気はない?」


 ウォータースライダーに乗ろうと皇真の手を引こうとする姐月姉さんの肩に手を置いて姫月姉さんが止める。


「無い!姫月、姉だからって何でも優先されるとは思わない事ね。」


 姐月姉さんがビシッと姫月姉さんを指差して言う。


「それなら公平にじゃんけんで決めましょう?」


「望むところよ。」


 二人はどちらが先に皇真と乗るかでじゃんけんを始めた。

こうなると二人は長い。

双子だからか似ている部分が多く、相手が何を出すかしっかりと予想しているのに同じものを出す事が多いのだ。


 なので毎回じゃんけんのあいこ率がとんでもない事になっている。

勝負が付くまでに数分掛かる事もあるくらいだ。


「ん?」


 二人のじゃんけんを見守っていると、突然隣りにいた篠妹が静かにジルの手を引いて歩き出した。

向かったのはウォータースライダーの方である。

係員に話さないでと口に人差し指を当てて篠妹が指示すると空気を読んでくれたのか苦笑して頷いていた。


 篠妹は何も言わずに皇真を入り口に座らせると、皇真の足の間に座ってきて、腕を前に持ってこさせて自分を抱き抱える様な体制にしてきた。

側からは安全に滑れる様に兄が妹の身体を支えている仲の良い兄妹に見えている事だろう。


「それではいってらっしゃいませ。」


 係員が空気を読んで小声で手を振りながら言ってくれる。

皇真と篠妹はウォータースライダーの中に入る。

思ったよりもスピードが出て少し驚く。


「篠妹、大丈夫か?」


「うん、皇真兄と一緒だから怖くないし楽しい。」


 声のトーンが弾んでいる事からも楽しんでくれているのは伝わってくる。

妹が楽しんでくれているのであれば皇真としても言う事は無い。


 中々に作り込まれたウォータースライダーを滑り終えてプールの中にダイブする。

爽快感があって楽しかったと感じた。


「面白かったな。」


「うん。あっ、皇真兄。」


 篠妹が何かに気付いて指を差している。

その方を見るとお姉さんズが早く戻ってこいとばかりに手招きしたり手を上げて怒っている様子である。


「流れるプールに流されて辿り着けないかもしれないな。」


「皇真兄、ここ流れないプール。」


 流されたフリをしていると妹からの冷静なツッコミが入り、渋々プールを上がってウォータースライダーの上に戻った。

じゃんけんをしている間に勝手に篠妹といくなんてと何故か皇真が怒られて理不尽だなと思った。


「じゃんけんは私が勝ったから、ほらいくわよ。」


 姐月姉さんに手を引かれて早速二度目のウォータースライダーへ。

自分は篠妹と滑ったのだから姉同士でいけばいいのではと思ったが口に出すと怒られそうなので黙って滑った。


 滑り終えると姐月姉さんは面白かったと満足してくれたが、当然満足していないお姉さんがこちらに手招きしているのが見える。


「気の使える弟をもってお姉ちゃんは幸せ者です。」


 ウォータースライダーの上に戻ると姫月姉さんが嬉しそうにそう言って入り口に引っ張られる。

係員の人から憐れみの視線を感じたがいつもの事なので気にせず滑っていく。


 こんな事で怖がりそうも無い姫月姉さんがわざとらしく悲鳴を上げて抱き付いてくるが余計な事は言わずにされるがままにしておく。

姉の機嫌を損ねると後が大変なのは生きてきた中で学んでいるのだ。


「面白かったですね。」


「次はどのアトラクションに乗る?」


「あれ乗ってみたい。」


 姉妹達が周りを見回して次のアトラクションを選んでいる。

当然その後も皇真は様々なアトラクションに付き合わされ、人数制限があるものはしっかり全員と乗せられた。


 そんなハードな一日を過ごしたので、親達と合流する頃には皇真はクタクタに疲れてしまい、帰りの車に乗り込むと直ぐに夢の中に入っていった。

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