ラストダンジョンの大魔王、世界中へ配信されていると気付かずに戦いたくない宣言で大炎上してしまう。〜え? 勇者ちゃん? 菓子折り持ってどうしたの?〜

ナガワ ヒイロ

第1話 大魔王、長々と語る




「ぐっ、我々ではまだ勝てないと言うのか!!」


「ふははははははッ!!!! 軟弱ッ!! 脆弱ッ!! 弱い弱いッ!! この程度で我に勝とうなど千年は早いッ!! 究極終焉魔法・カタストロフゲイザーッ!!!!」



 俺の必殺魔法が炸裂し、勇者アリアとその仲間達を吹き飛ばす。


 しかし、勇者アリアは俺が使う魔法の軌道を予測していたのか、見事なステップで死の光線を回避した。


 おお、よ、避けやがった!?


 以前に使った時は一気に瀕死まで追い込んだってのに……。いや、仲間の方はもろに俺の魔法を食らってるから、彼女が凄いんだろうな。


 流石は勇者アリア。魔王を六人も倒した女だ。



「よし!! 避け切った!!」


「見事ッ!! だが、この程度で油断するとは所詮は小娘よなぁ!!」



 俺は異空間から魔剣を抜いて、勇者アリアの持つ聖剣と切り結ぶ。



「くっ、なんという剣技っ!! 魔王は剣も扱えたのか!?」


「間違えるな小娘ッ!! 我は大魔王ッ!! そんじょそこらの魔王と一緒にするなッ!!」


「ぐ、きゃあっ!!」



 勇者アリアの腹に蹴りを入れる。


 剣と剣をぶつけ合うだけのお行儀の良い戦い方をする勇者アリアには中々効く一撃だろう。


 俺は勇者アリアの意識を刈り取ろうと、魔剣の平たいところで頭を殴ろうとして――



「ぐっ、アリア様っ!! 危ないっ!!」


「メルト!?」



 うっかり間に入ってきた仲間の魔法使いの女の子をバッサリ斬ってしまった。



「そんな、メルト、貴方何をやって……」


「え、えへへ、最後の最後でお役に立てて、良かったです……」


「メルト!! しっかりして!! メルト!!」



 勇者を庇って致命傷を負った仲間と、それを看取る勇者の絵面。


 それを前にして、俺は内心絶叫していた。




 や、やっちまったーッ!!




 俺の名はシュトラール。大魔王だ。


 まあ、王と言っても政治はからっきし。

 魔物を統べる能力を生まれながらにして持ってるだけの人型の魔物。


 容姿は人間に限り無く近い。異なるのは角が生えていることだろうか。


 魔王は基本、好戦的で人間を憎んでいる。


 だから自らの城であるダンジョンから魔物を送り出して、人類を攻撃するのだが……。


 俺は例外中の例外。

 本当は戦うなんて真っ平ゴメンだ。というのも、俺には前世の記憶があるから。


 平和な世界、平和な国で育った青年の記憶。


 こちらの世界で生きると決めてから早数百年が経過し、元の世界での出来事は殆ど覚えていないが、それでもその記憶は俺の方針に影響を与えている。


 即ち。



『戦争、殺し合い、ダメ絶対!!』



 である。


 とどのつまり、俺は人間を殺したいという魔王としての本能を捨て去り、少ない配下と共に自分のダンジョンに引きこもっていた。


 しかし、ここ数十年でそんな甘っちょろいことを言ってられなくなってしまった。


 人類の魔法文明が発展し、勇者たちによって各地の魔王が少しずつ駆逐され始めたからだ。


 その駆逐対象には、当然俺も入っている。だって魔王だもん。俺だけ例外ってわけには行かないわな。


 でも、俺は配下を戦わせる気は無かった。


 俺みたいな腰抜けを王様って慕ってくれる連中なんだぜ? 戦わせるとか無理。考えただけでも吐き気がしてくる。


 だからアリアのように、ダンジョンを襲撃してくる勇者を自ら撃退しているのだ。


 まあ、理由は他にもあるんだが……。



「ふぃー。今日もなんとかなったか」


「お疲れ様です、魔王様」



 勇者アリアとその仲間たちが気絶したのを確認し終えると、俺の背後にメイド服を着た人型の魔物が姿を現した。



「皆さん、ダンジョンの修繕を始めてください」


「「「「「応ッ!!!!」」」」」



 そして、遅れて現れたゴブリンやオークたちが道具を片手に勇者との戦闘の余波で壊れたダンジョンの修繕を始める。



「クラウディア。大を付けろ、大を。俺は地上で最後の魔王なんだぞ?」


「何百年も引きこもっていて、気付いたら他のダンジョンが攻略されていただけじゃないですか」


「ぐっ、痛いところを突いてくる……」



 魔王である俺に生意気な口を利くこのメイドの名前は、クラウディア。


 俺の配下の一人であり、もう何百年も生きている大魔族である。


 あ、魔族ってのは人型の魔物の総称な。俺も一応魔族っていうことになる。



「っと、いかんいかん!! それより早く魔法使いちゃんを治療しないと!!」


「……必要ですか? 大魔王様の命を狙った下等生物共ですよ?」


「バッカお前!! バーカバーカ!! 俺は人なんか殺したくないんだよ!!」



 俺は回復魔法でうっかり斬ってしまった魔法使いちゃんを治療する。


 先に言っておくと、俺以外の魔物は基本的に人間を見下している。良くて中立だろうか。



「あとな、クラウディア。人間を見下すな。人間は怖いぞ。頭が良くて数も多い」


「でも弱いじゃないですか。今、我ら・・のダンジョンにいる総戦力を投じれば、人間どもの国を滅ぼすなど――」


「クラウディア」



 クラウディアがビクッと身体を震わせる。否、震わせるというレベルではない。


 全身ガックガクだ。



「我らのダンジョン? お前はいつから愚物に成り下がった? ここは俺の・・ダンジョン。我が迷宮。我が領域であり、我が城。それをさも己の物と言わんばかりに……」


「も、申し訳ありません!! ど、どうか、お許しを!!」


「……二度は無い」



 クラウディアがしっかり謝ったので、許す。


 魔王からすると、ダンジョンは自分の分身と言っても過言ではない。

 そのダンジョンを誰かのもの、みたいな言い方をされると我慢が出来ないくらい怒ってしまうのだ。


 こればっかりは魔王としての本能なので許してほしい。



「クラウディア。俺は人間と本当は戦いたくないんだ。ぶっちゃけあの一人称が『我』のクソダサ魔王ムーブもしたくない」


「いえ、あれはカッコイイかと……」


「魔族の感性ではな。人間にとっちゃ少し痛いというか、まあ、恥ずかしいもんなんだ」


「そう、ですか」


「とにもかくにも、俺は人間と戦いたくない。争いたくない。だから配下の魔物をダンジョンの外に出す気は無いし、人間と戦争なんて以っての外だ」


「……戦いたくないのであれば、魔王様は何故勇者を毎度迎え討つのです? 他の者に任せればいいのでは?」


「む」



 クラウディアの質問に俺は言葉を詰まらせる。



「だってお前ら、加減しないじゃん」


「え?」


「一回でも相手を殺せば、止まらないんだよ。負の連鎖ってのかな? だから俺が直接出て、勇者を死なない程度にボコって近くの街に魔法で転送する。また来たらまたボコす。自慢じゃないが、俺はそこら辺の加減バッチリだからな」



 人間を一人でも殺したら、連中は躍起になって大軍で攻めてくる。


 そうなったら俺も俺の配下もおしまいだ。



「そういうわけだから、俺は人間を殺したくないし、殺さない。お前らを守りたいからな。一番の理由は自分の命が惜しいからだが」


「……最後の本音さえ言わなければ、私は涙を流して感激しました」


「そう? あ、勇者ちゃんたち、街まで転送しといてね」


「……承知しました。では、勇者とその仲間たちを街へ転送します」


「ん、あとはよろしくな」



 そうして自分の部屋で惰眠を貪ろうとした矢先に、修繕作業を勧めていたゴブリンが俺を呼び止めてきた。



「シュトラール様、コンナモノが落ちてたんデスガ……」


「ん?」


「なんですか、それ」


「あー、最近勇者の周りに浮いてるカメラみたいな奴だな」


「「かめら?」」



 ゴブリンとクラウディアが首を傾げる。


 最近、勇者アリアが戦う時に近くをふよふよ浮いているのだ。

 浮いてる原理は知らん。そこら辺は完全にファンタジーである。


 どうも人間の間では、ダンジョンを攻略する様を動画として販売するのが流行っているらしい。


 新米冒険者にとっちゃあ、先輩冒険者の戦い方を学ぶにはうってつけだし、娯楽としても人気なのだとか。



「勇者ちゃんと一緒に送り返してやれ。噂じゃかなり高いものらしいし、失くしたらショックだろうからな」


「了解デス!!」



 ゴブリンが作業に戻る。


 俺も眠たいし、そろそろ寝よう。てわけでお休みなさい。






 この時、俺は知らなかった。


 まさかカメラの電源がオンになっていて、録画設定ではなく、配信設定になっていることなど。

 最近の主流が撮影ではなく、配信になっていることを、知らなかったのだ。


 ましてや勇者アリアの配信を、世界中の人間が見ているなど、想像もしていなかったのである。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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