十月半ばの金木犀

十月半ばの金木犀

やわらかい陽気につつまれて

金木犀は花を咲かせる

フェノロジーの狂うなか

金木犀は秋を報せる


十月半ばの金木犀

皺の刻まれた深緑に

十字対生のゴツい葉で

今日まで生き延びてきた

俺にだって歴史があるんだ


十月半ばの金木犀

匂いが強いから

雄株おれは選ばれた

匂いが弱いから

雌株あいつは選ばれなかった

ヒトは俺らに鼻を近づけ

口々にいい匂いと言う

なぜ

なぜ俺なんかが


十月半ばの金木犀

生きている理由は与えられた

俺のものではない理由を

どうすればよいのかわからないまま

十月は来る

双六の目を一つ進める

何も起こらない

双六の目を一つ進める


十月半ばの金木犀

生命の繋がる音のなか

金木犀は輪に入れない

落とす雄蕊は怨嗟にくすむ

早く

もう早く

終わってしまえ

何もかも

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