墓石に添えたラベンダー

@cima2355

紫香

私にとって紫煙とは、お線香から出る煙だった。


多分、実家で使っていたお線香の香りがラベンダーみたいだったからとか、パッケージが紫色だったからとか、そんな理由。おまけに花瓶まで紫色で、そんな紫づくしな仏壇だったから、そこから漂ってくる煙までそう感じたんだと思う。


小さいころからほぼ毎日、仏壇に向かって挨拶をしていた。普段は学校に行く前に。寝坊した日は、家に帰ってすぐ。どんなに眠くても、どんなに疲れていても。ライターで蝋燭に火をつける。お線香を箱から一本取り出す。火に近づける。先端が赤白くなったそれを、灰の溜まった香炉に差す。右手で火を扇ぐ。なかなか消えない日は、たくさん扇ぐ。一歩下がる。二礼、二拍手、一礼。いつもの、変わらない動きと変わらない香り。


正面に並ぶ位牌を見つめる。それらは白い木でできている。墓石に似た、それよりも単純な形。のっぺりした長方形の正面。その上部には小さな穴が一つだけ開けられている。ちょうど鉛筆の先端部分が入りそうな大きさで、それが目であることを以前祖母から教えられた。この穴から私たちのことを見守ってくれているんだよ、と。


私は。見られていたんだな、と思った。


人と話すときは目を見ながら。でも彼らに口はないから。喋れないから。

私は安心して話すことができる。

今日学校でしたこと。明日までの宿題。来月の運動会。


そういった先々のことを、話す。過去に目を瞑って。口を噤んで。


では、失礼します。一言添えて、また日常に戻る。

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