第14話 フルーツは最高級品
「んなっ!」
「なんですかこれは!」
「うん?マンゴーみたいな・・果実みたいな・・」
「嘘でしょう!これが幻と言われたくだもの(・・・・)って奴ですか!」
「皮ごと食うな!皮ごと食うな!」
果物、それは高級すぎて見たこともないもの。
果物、それは、幻の食べ物。
一個当たり幾らするかも分からないようなものを前にして、誰かに奪われる前に、即座に腹の中に収めようと考えたアリーセがすぐさま齧り付こうとすると、リンが驚くほどの力でアリーセを羽交い締めにした。
「待て!皮ごといくな!勿体無い!美味しい果実は、最低限のマナーをもって最大限味わい尽くせ!」
「果物ナイフありますよ〜!こちら如何ですか〜」
「えええ?」
アリーセとコリンナはギョッとした表情を浮かべながら、リン隊長の後ろに居る、恐ろしいほどのイケメンを前にして固まった。
紺碧の髪に菫色の瞳を持つその男は、何故かエプロンをつけていて、果物の皮を剥きながらニコニコ笑っている。背が高く、引き締まった体をしているのに、平民のような衣服を身につけて、料理人のように果物の皮をあっという間に剥くと、食べやすいサイズに切りながら、アリーセとコリンナの前に差し出した。
思わず指で摘んで自分の口の中に放り込むと、今まで体験したことがないジューシーな果実の甘みに脳みそが蕩けそうになる。
「お・・美味しい!」
「これがくだもの!初めて食べた!」
アリーセとコリンナがうっとりとしながら果物を味わっていると、目の前でリン隊長が、イケメンにアーンして果物を食べさせてもらっている。
「「えええ?あーんてなに?あーんて!そんなサービスありなんですか!隊長!」」
リンは、口をもぐもぐさせながら言い出した。
「今回のキャンプはパトリック様の伝手で、皇国に本店を置く商会の方が食料を用意してくださったんだ。皇国から運ばれて来た品だから、フィルデルンでは最高級品となる果物も沢山運んでくださったんだが」
「いや、それはその・・もの凄く有り難い話なんですけど、皇国の商会と、隊長がアーンしてもらうこととの因果関係は?」
「これは隊長職に対するサービスだろ?」
「えええ?」
「イヴァンナ様も度々、パトリック様にアーンしてもらっているじゃないか?」
「いや、あれは夫婦だからであって」
エプロン姿の紺碧の髪の男は、寄り添うようにしてリン隊長の隣に立ってニコニコ笑っている。部下としては、隊長と商人との距離感がおかしいようにも感じるのだが、
「こちら、皇国式サービスのアーンでございます」
「こちらの果物は如何ですか〜」
フォーク片手に、食べ物を運んできた商会の人たちが果物の試食を始めたので、アリーセもコリンナも、ありえないリン隊長のアーン姿のことなど、どうでも良くなってしまったのだった。
◇◇◇
『ハインツ様はキャンプ二日目から参加されることが決定したのね!だから、初日はリンの代わりに責任管理者となったコリンナちゃんのサポートをしてもらいたいの〜。食料は皇国の商会の人が運んでくれるから、分配は差別なく忖度なく、過不足なく行ってね!』
というイヴァンナ様のお言葉に従って家での準備を終えた私が、キャンプの設営のためのサポートメンバーの元へと向かおうとしていると、勢いとノリだけで家へと連れ込んだウィルさんが、何故だか私の後からついてくる。
「そういえば、ウィルさん、皇国の商人でしたよね?」
「そうだよ?」
「というと、キャンプの輜重を用意してくれたのも?」
「うん!そう!うちの商会になるんだよね!」
ええーっと・・・
「それじゃあ、食料を積み込むのをお手伝い頂く感じで」
「もちろんキャンプとやらにもついて行くよ!」
「え?何故?」
「それは、皇国のお偉いさんたちが、フィルデルン王国の少子化対策事業に興味を持っているからだよ」
「はい?」
「遺伝子レベルでのカップリング、そんなことは皇国でも簡単に出来ることなんだけど、強制的にペアを作ったってフィルデルン王国ほど上手くなんかいかない。選ぶ権利とか、産む権利とか、文句と非難が溢れかえらんばかりになるわけだけど、何故だかフィルデルン、それもここ、ローフォーテン領ではそれが上手くはまっている。どうしてここだけ上手くいっているのか知りたいし、皇国相手にレポートとしてまとめて提出しなければいけないんだよね」
ええーっと・・
「それじゃあ、ウィルさんたちはキャンプの見学をされるってことですか?」
「ことですね」
ええっと、超気まずいんだけど〜。
いつもなら、キャンプの取りまとめするだけだから、他国の人への説明とか案内とか、全然!平気でやれちゃうよ!
だけど、今回は私も参加しろとか言っていたんだよね?それも、ペアの相手はハインツクソ野郎とか言われているんだよね?
子供を産むのは女性側だから、女性に選択権があるとは言われているんだけど、果たしてそれはお貴族様相手にも言える事なのだろうか?
「リン、浮気はダメだよ〜」
「はい?」
「見てるからね〜」
「はあああい?」
怖い、怖い、怖い、怖い。酔った勢いだけで家に連れ込んでしまった人なんだけど、まさかの職場関係者。前世で言うなら、取引先の相手と一晩、いや、二晩共にしちゃったって感じな上で、強制的に社員旅行に突入するみたいな?
ハインツ様は、向こうの世界で言うところの社長の息子みたいな感じで、下っ端社員である私は、酔った勢いによる過ちに震え上がっている感じ?一応、ウィルさん、未婚だから不倫ということにはならないみたいだけど、気まずい、メチャクチャ気まずい。
「リン隊長、アーンして」
「あーん」
キャンプに参加したウィルさんは、商会の人たちと一緒に厨房みたいなものを作り出し、臨時の食堂天幕まで作り出し、皇国の料理を並べて、キャンプ参加者たちを大いに喜ばせたのは言うまでもないんだけど、隊長への接待だとか言ってアーンするのをやめて欲しい。
「はい、アーン!」
「あーんどうぞ!」
商会の人がサービスとして、サポートメンバーにアーンしているから、私のアーンが薄まっているけども!この混沌具合!なんとかしてくれー!
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