恋する手紙

@nikaidou365

第1話

俺はいつも2番目である。小学校のかけっこも2番、中学校でのスポーツの大会も2番、高校のテストの順位も2番、人生で一度も1番を取ったことがない。

そんな俺の名前は長谷川準一郎、中学のあだ名は準優勝だった。当時は何も思わなかったが今思えば、よく自分の自尊心は傷つかなかったなと感心する。恐らく自分には自尊心というものがないのだろう。これまでもこれからも。



高校では、テストの順位は2番目であったため成績優秀と教師には言われ、ある程度期待されていた。俺の横にいる奴の方が期待されているが。

「いやー、今日も疲れたね」

横にいた橘卓郎が持っている手提げバックを振り回しながら言う。

「今日半日授業だっただろ、そんな疲れてないだろ」

「いやー、人って不思議だね。確かに疲れてないはずなんだけど、疲れたって言っちゃうよね、これって実は脳は疲れてないけど、疲れたーって言わせて脳に本気を出させないためのトリックなのでは?」

橘が興奮気味に喋る。

「何を言ってるのかよくわからん…」

橘は、成績は俺よりは少し下だが、性格や顔が良く、運動もでき、何をさせてもある程度できてしまう万能人間だ。俺みたいに成績はある程度良いが、それ以外はからっきしの特化型ではないのだ。さらに橘は生徒会にも入っており、他にも部活の助っ人としても呼ばれることがある。それ故に周りからの信頼も厚い。どうして俺とつるんでいるのか分からないくらいに。そんな俺は橘を心底信頼している。橘のためなら…なんて出来るほどに。

なんて考えながら橘と一緒に昼ご飯を学校近くの場所で食べるために歩いている。



喫茶店に入って、メニューをある程度見ているとすると突然橘が

「実は、最近高田桜のことが気になっているんだよね」

「は?」

一瞬時が止まる。橘のことを気に入る女の子はたくさんいた。しかし、橘本人は恋愛なんて興味ないと言って告白されても付き合うことの無かった奴だ。そいつがなんで急に、しかもなんで高田なのだろう。そのようなことを考えているうちに橘が続ける。

「いやね、最近生徒会の仕事が多くて、高田とよく話すようになって、それでね、まあ、いろいろあってね、いや、別に好きかって言われると、わかんないけど」

少し早口で俺に橘が言う。ほとんど好きなようなものじゃないのか、なんて思いながら。

「で、なにが言いたいの?」

橘が何と言うかは分かっているが、あえて話の流れから聞く。

「お前って、高田と幼馴染だよな、なんか色々知らないの?高田の好きなものとか…好きな人とか」

やはり、というのも高田桜は俺の幼馴染で小学校から高校ずっと同じだった。そのようなこともあり、高田とは結構仲は良かった。高校1年のときは同じクラスで、同じ中学だったため高田含めて複数で遊びに行ったり、話もよくしたりしていた。しかし、高校2年に上がると、高田は生徒会長になり、クラスも別れて、学校であったらおはよう、じゃあねくらいの会話をする程度だった。

「あいつは、ケーキに目がないんだよ、特にフルーツがたくさんのってるやつ」

「まじか、意外と女の子らしい一面もあるんだな、ますます興味が出てきた」

高田は結構かわいいというか、美人系で凛としている所が女の子たちの間でも人気なくらいだ。ちなみに高田は頭もよく自分の成績より上だ。圧倒的に。

それにしても橘がこんなに女の子対して興味があるのは意外だ。それもあるのか分からなかったが、なぜだか自分は、

「分かったよ、とりあえず聞いてみるよ」

と言ってしまった。思えばこの時、適当に流せばよかったのだろうか。





「ねえ、準一郎。どうしたの」

と高田は俺に聞く。

「いや、別になんでもない」

「ふふっ、変な準一郎」

そう言って俺の腕に高田の腕が絡めてくる。高田は幸せそうに俺を見ている。いつも高田がお気に入りのケーキ屋に入り。いつものフルーツがたくさんのっているケーキを頬張る。

「ねえ、桜、俺のこと好き?」

「どしたの急に、そりゃあ好きだよ」

「…」

何も言えなかった。橘に嘘をついている。


俺と高田は付き合っている。1年位前から。

きっかけとしては高校に上がる時くらいに告白された。俺は驚いたが、当然快諾した。

俺はあまりコミュニケーションがうまくないため、あまり彼女がいるということで、煽られるのがあまり得意ではない。このことを高田は知っていたので、気を遣って付き合っていることを言わなかった。このようなことが裏目に出るとは思わなかった。

「じゃあね、準一郎」

「うん、また」

別れ際に俺は高田にキスをした。高田は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに嬉しそうな表情に変わる。

「珍しいね、準一郎からしてくれるなんて」

幸せいっぱいの表情で俺を見る。

「うん、まあ何となく」

「何それ、でも嬉しかった。またしてね、準一」

手を振りながら別れた。高田は学校ではああ振舞っているが、実際の高田は子供のように甘えてきていた。学校の振る舞いは少し疲れると言っていたので、本当はこっちが素なのだろうと思った。

「またしてね…か」

そう呟き、俺はもうないだろうと思いながら暗くなってきた空を見上げた。いつも俺の上にある空、当然のことだが、今日はその空が憎く思えた。






「なあ!準一郎!」

焦ったようにこちらに来る橘

「どうしたの」

「それがな、生徒会行ったら、高田がすごく落ち込んでいて、何のことで落ち込んでるかは分からないけど、とりあえず励ましてあげたらすごく喜んでてよ、お前にも見せたかったぜ、あの笑顔」

「よかったな」

俺はとても嬉しかった。そして

「橘、高田の近くで居てやりなよ、彼女もそれが今は嬉しいだろうし」

「お、おうそうだな!よしまた相談に乗りに行くわ!」

こんなに嬉しそうな橘久しぶりに見たな。

「そのまま告白して付き合ったちゃえば?」

「ま、まだ早いだろ!でもまあ、機会があれば、遊びにも誘ってみよう…かな…」

「いいじゃん、誘っとけよ」

俺は笑顔でそう言った。



その後、橘は高田と仲良くなり、晴れて付き合えることになった。そのことにすごく喜んでいた橘を見て自分も嬉しくなる。一緒に遊びに行った話や、どんな話をするかなど、事細かに教えてくれた。俺も実際に高田と橘が2人で仲良く手を繋いで帰っている所を見た。すごく幸せそうな高田と橘。俺は2人が歩いている方向の反対側に歩いて行った。その時の空も俺を見下しているかのような感じがして煩わしい気がした。











「長谷川準一郎です」

そう言って会場の中に入る。中にはたくさんの人がいた。中学、高校の知り合いが居て少し気恥ずかしかったが、嬉しかった。

席についてしばらくすると

「新郎新婦のご登場です」

という司会の声がして橘と高田が入ってくる。拍手喝采、俺はじっと見ていた。久しぶりな感じは当然しない。というのもこの2人とは昨日会っていた。高校を卒業して俺は大学へ行き、仕事に就いた。それまでは、橘とはたまに遊んでいたが、高田とはあの時以来だった。

小さい同窓会をしようと橘が企画した。俺も少し迷ったが、その2人と飲むことにした。

橘が少し遅れて、俺と高田が最初に到着していて先に居酒屋に入った。

「卓郎少し遅れるらしい」

「ああ、そうなんだ」

俺はスマホで橘に先に入っていると書き、送信した。

「ねえ」

「うん?」

と俺が顔を上げると急に高田が思いっきり俺の顔を叩いた。ビンタというものか、初めてされた。幸い居酒屋の中なので、音もかき消されて誰も見ていなかった。驚いていると、高田が

「あの時できなかったからその分ね、これだけで済むのも感謝してよね」

「あ、うん」

痛いなあ、その時の高田は少し悲しそうな顔をしていた。

「ねえ、準一郎、あなたは運命を信じる?」

「どうしたんだよ、急に」

久しぶりに会った奴の顔を思いきり叩いた後にいう言葉じゃないと思うが…

「あなたと別れてすぐに、それを知っていたかのように卓郎が親身になってくれて、今に至るけど、もしかして…」

「そんなの偶然だろ」

高田の言葉を遮って俺が喋る。すると、高田は笑って

「明日のスピーチあなたがやってよ」

「は?」

素っ頓狂な声が出てしまった。

「いや、俺は橘の方のスピーチ担当しているし…」

「いいの、やって」

新郎と新婦両方のスピーチを担当するとか聞いたことがない。まあ、もしかしたらあるのかもしれないが、そんな話をしていると

「お、盛り上がってる?」

そう言いながら橘が入ってくる。

「じゃあ、そういうことで」

と高田が言った。断ることが苦手な俺を知っていて言ったのか、こう言いながら俺は、心の中では喜んでいた。

その後は3人で他愛もない話で盛り上がった。学校のこと、友人のことなど、話すことが無くなるくらい話をしてお開きとなった。





「それでは、新郎新婦の主賓挨拶です」

そう言って俺は立ち、メモを持ちマイクに向かう。






卓郎、桜このたびはご結婚おめでとうございます。両家のご家族やご親族の皆様にも、心よりお喜び申し上げます。私、ただいまご紹介にあずかりました。卓郎、桜の友人の長谷川準一郎と申します。僭越ではありますが、ご挨拶させていただきます。

この度、新郎側、新婦側両方私のご挨拶となります。少々異例ではあるでしょうが、お許しください。

ひとしきり最初の挨拶を言い、2人の馴れ初めを簡単に語る。そう簡単に。

橘は高田と付き合い、そのまま同じ大学へ行き、卒業と同時に結婚。順風満帆だ。俺が考えた通りの結果となる。


これから、仕事と家庭の両立に悩む事があるかもしれません。しかし、卓郎、桜、あなたたちなら大丈夫。頼もしい卓郎に、しっかり者の桜、この2人でできないことはないと自分は思っています。長くなりましたが、2人の輝かしい未来を願って。お祝いの言葉とさせていただきます。末永くお幸せに…自分、お、俺は…


だめだ、この先は言ってはいけない。今までの俺を台無しにする気か、絶対に言ってはいけない、絶対に思ってはいけない、絶対に羨んではいけない。あそこに俺が居るはずだった。


お、俺は2人が、ずっと、ずっと前から今でも大好きです…

そう言って俺は涙を見せないように自分の席に戻る。高田が悲しい顔をしていたので気付かれたかもしれない。そんなことよりここから離れたかった。




そのまま、俺は、トイレに言ったふりをして、会場の外で煙草を吸っていた。なぜ、最後にあんなことを言ってしまったのか。観客から見ればいい締めくくりだったのかもしれない。しかし、あの言葉は禁句であった。なぜならば、

俺は高田桜を今でも好きだからだ。

そのことを忘れようとした。橘が幸せそうにしているのを見て最初は妬ましく思ったこともあった。しかし、自ら招いた結果なので、橘に当たるのは見当違いだ。自分を犠牲にして、一番の友人を幸せにしたのだ。彼女も幸せそうにしているので結果的には大成功だ。そう大成功。なんだけどなぁ。

俺は煙草の煙が空へと上がっていくのをみた。空は相変わらず俺を笑っている。





「いや、別れたくない。急にどうしたの」

「俺では桜を幸せにはできない」

「幸せって、今も幸せだよなんでそんなことを言うの」

泣きそうな顔で俺に言う。

「桜には俺は不釣り合いだ。そう不釣り合い」

「そんなことない、私は、準一郎のことが…」

「幸せになる。君は…俺なんかより…」

そう言って我慢できなくなり立ち去る。桜は泣いていた。俺は走る。走る。



今ではこれは後悔なのだろうか、いや、後悔であってはならない。

そう、すべてを知っているのは俺だけだから。

そう、俺は主人公ではない。2番目、副主人公だ。

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