第17話 異世界での帰る場所
半日くらい長く感じた黒い空間での2時間を乗り越えた俺は、不快な疲労を感じていた。
疲れいるのだけど眠れないというような、鬱病が最も酷い時の症状と似ている。
大蛇との殺し合いの後とは天と地ほどの爽快感の無さ。
「勝った奴をこんな気分にさせるとは、さすが勇者様‥‥‥」
とにかく、勇者が死んだことをみんなに伝えてから落ち込むとしよう。
社会人時代の変に真面目な性格は、この暴力で問題を解決できる世界でも治りきっていないようだった。
重い足を引きずり、ローファさんの元へ戻る。
あぁ。
早く殺されたい。
\
この街の夜空は星が多い。
前の世界の星にも詳しくないので、なんて名前なのか見当もつかないが、綺麗とは感じる。
特に、寄り添いあって輝いている星々とは離れて控えめに存在している小さいのが気に入った。
自分だけが知っている秘密の星。
「‥‥‥ふん」
らしくもなくポエミーな自分を嘲笑する。
星なんだから俺以外も知ってるに決まってんだろ、わきまえろよ。
星空を見上げるのもだるくなってきたので、足元を見る。
下を見ると、少しだけ安心する。
これから森に入るから、視線を上げなくては怪我をしてしまう。
……今更か。
もう、傷とかを気にする必要はないだろう。
俯いたまま歩き出す。
地面が湿っている。あの暗闇に閉じ込められている間に雨が降ったみたいだ。
足元がグチョグチョで体幹が怪しくなる。
ゴッッッ。
頭に鈍痛が走る。
この感触は……木だな。石じゃなくて良かった。
少し出血しているようだったが、大した痛みでもないので再び歩き出す。
それから、何度も木にぶつかった。
頭から血が目に垂れてくるのが鬱陶しいので、一度立ち止まって手で拭う。
「なんだ、お前泣いてんのか?」
聞き慣れているはずなのに、ひどく懐かしく感じる声がした。
いつから、近くにいたのだろう。
「血を拭いてるだけですよ」
「そうなのか?私からは、赤い涙を流してるように見えたがな」
特に面白くもない冗談を聞きながら思った。
最後に泣いたのはいつだったろうか?
成人を過ぎてからはもちろん、高校・中学まで遡っても思い出せない。
「がんばったがんばった」
適当に肩をポンポンした後、手を引っ張る。
「そのままで良いから、掴んでろ」
俯く俺が木にぶつからないように、障害物を避けて歩いているのが分かる。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
お互いに無言だったが、スムーズに家に着いた。
「ヒール」
タイミングがおかしいと思うが、玄関先で傷を治してくれた。
「‥‥‥ありがとうございます」
「おぉ。風呂入ってさっさと寝ろ」
お人好しの師匠は、早口でそう言って自室へ引っ込んだ。
家族みたいなことをして恥ずかしかったのかな。
言われた通り、風呂に入るために脱衣所に向かう。
「ハッ」
鏡に映った自分の顔を見て笑ってしまう。
俺の方が分かりやすく、顔を真っ赤にして照れていた。
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