おたまじゃくしはカエルの子

烏川 ハル

前編

   

 むかしむかし、とある池の奥深くに、おたまじゃくしの学校がありました。みんなでお遊戯したり、歌を歌ったりしています。

 人間みたいな陸の生き物が覗き込んでも、水の中の音は聞こえないので、詳しい様子はわかりませんが……。

 楽しそうな雰囲気だけは、なんとなく伝わってくるのでしょうか。ある時、カエルの王子様がその池に惹き寄せられました。そして思いっきり身を乗り出して覗き込んだところ、池に落ちてしまったのです。


 おたまじゃくしの学校には、おたまじゃくしの王様の娘たち、つまりおたまじゃくしのお姫様姉妹もかよっていました。中でもすえの姫様は好奇心旺盛なので、池に何かが飛び込んだ音に反応。仲間たちから離れて、水面まで見に行ってしまいます。

 そこで彼女は、カエルの王子様が溺れているのを発見しました。体の色は奇妙な緑色で、手足が生えている点もおたまじゃくしとは異なりますが、でも体の大きさは自分と同じくらいです。

 カエルを見たのは初めてなので驚きましたが、彼が苦しんでいる様子から、そのまま水中にいたら死んでしまうことだけは理解できました。慌てて岸辺の草むらまで押し上げて、王子様がゲホッゲホッと水を吐いている間に、彼女は学校へ戻りました。


 この事件をきっかけとして、おたまじゃくしのお姫様は、カエルという存在に強い興味をいだきました。お姉さんたちや学校の先生などに聞いて回ったところ、

「私たちおたまじゃくしより、カエルは長生き」

「私たちおたまじゃくしは死ねば泥になり、水に溶けて消えるけれど、カエルには魂があるので、死んでも転生できる」

 と教わります。

 それまで彼女は、死んだ後のことなんて考えていませんでした。でも「消えてしまう」と知ったら、急に恐ろしくなりました。

 そこで、さらに質問します。

「どうすれば私たちも魂を持つことができるの?」

「私たちおたまじゃくしがカエルと結ばれたら……。でも姿形が違うから無理だろう」

「カエルと同じ姿にはなれないの? 頑張っても無理なの?」

「それは……」


 おたまじゃくしのお姫様は、学校の仲間だけでなく、メダカやザリガニ、フナなど他の生き物たちにもしつこく聞いて回り……。

 すると根負けした金魚が、ナマズの魔女を紹介してくれました。

 丸っこい頭に長い尻尾を持ち、全体的に黒々としているのはおたまじゃくしと同じですが、体の大きさは桁違い。そんな魔女と対面するのは少し怖いくらいでしたが、でも実際にはとても優しい魔女でした。

「尻尾を手足に変える薬ならあるぞ。ただし美しい声は失って、汚い声しか出せなくなる。それでも良いのじゃな?」

 おたまじゃくしの歌は、池の中でのみ響きます。どうせ陸のカエルには届きません。だから「それでも構わない」とおたまじゃくしのお姫様は思いました。


 魔女の薬を飲んだ彼女は、体の色こそ黒いままですが、形だけはカエルみたいな姿となって、陸に上がりました。しかし手足は生えたばかりなので、上手く動かせません。

 岸辺で彼女が倒れていると、カエルの王子様が通りかかり、声をかけてきました。

「ゲロッ! ゲロゲーロ!?」

「ゲコッ? ゲコゲコゲコッ!」

 自分でも驚いたことに、彼女は王子様の言葉に対して、即座に返事が出来ました。魔女は「美しい声を失って汚い声しか出せなくなる」と言っていましたが、その『汚い声』というのが、ちょうどカエルの鳴き声だったのです!


 お互いの意思疎通にも問題ないため、彼女は全ての事情を説明できました。王子様の方でも、以前に自分を助けてくれたのが彼女だったと理解。だから彼女を大切に扱って……。

 こうして二人は結ばれて、末長く幸せに暮らしました。たくさんの子供たちにも恵まれました。

 二人の子孫が、現在のおたまじゃくしやカエルです。母親と父親の両方の特徴を受け継いだため、子供のうちはおたまじゃくしとして水の中で、大きくなったらカエルとして陸の上で暮らす。しかもカエルとなった後も水中を泳げる、という生き物になったのでした。

 めでたし、めでたし。

   

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