軽いノリで邪神の使徒にされました—自由にしていいと言われたので異世界楽しみます—

@anisakisu

第1話

「ねえ君、異世界チートに興味ない?」


 目が覚めたら開口一番にそう言われた。


「そっちの世界では有名なんでしょ?どうかな?僕の力を授けてあげるから、異世界でチートを振りかざして生きてみない?」


 俺の混乱もよそに目の前の黒髪の少年が話しかけてくる。

 とりあえずやたらと顔の整った少年を無視して辺りを見渡す。

 右を向くと白くて何もない空間が広がっており、左を向くと同じく白くて何もない空間。

 続いて上下と視線を動かしてみるが見えるのは白くて何もない空間だけ。

 はて、ここはどこだろうか?


「どうしてここにいるんだろうって顔してるね」

「そりゃ、どうしてここにいるんだろうって思ってるからな。ついでにお前は誰だ?とも思ってる」

「そうだね、まずは説明から始めるべきだったね。こういうのは初めてだからつい先走っちゃった」


 少年はテヘッと戯けた表情をした後、咳払いをしてから説明を始める。

 いちいちその動作は必要なのか?


「まず最初に言うとしたらこれかな。君は死んでいます」

「はぁ?ここにいますけど?なんなら今喋ってるけど?」

「それはね、ここが死後の世界だからだよ。そして僕はこの空間を作り上げた神様」

「そっすか」


 死後の世界?神様?アホかこのガキは。

 どうやら俺は厄介な宗教かタチの悪いドッキリの対象になったらしい。


「言っておくけど宗教でもドッキリでもないよ」


 少年は徐に指を鳴らすと俺の視界が突然低くなり、少年を見上げる高さになる。

 それだけではなく、今までの慣れ親しんだ自分の体が四足歩行の獣(犬)へと変貌していた。


「ワ、ワォォォン!?(な、なんじゃこりゃーー!?)」

「どうだい、これで神様だって信じてもらえたかな?」

「ワンワンワン!ワンワン(なんで猫じゃなくて犬なんだよ!俺は猫派だぞ!)」

「えぇ〜、もっと気にするところがあると思うけどなぁ。まぁいっか、とりあえず人の姿に戻すね」


 もう一度指を鳴らすと俺は人の姿になっていた。


「おい、なんで女の子の姿にした」


 ただし元の男の姿ではなく、幼い見た目の子供の姿にされていた。

 何故に?why?


「僕は見ての通り男の神様なんだ。同じ男なんだから話し相手は可愛い女の子の方がやる気が出るってことくらいわかってほしいな」

「わかるからそんなの!なら最初っから女をここに連れてくればいいだろ!」

「それじゃ普通すぎてつまらないでしょ。僕はね、本当は男なのに可愛いと言われたり着せ替え人形にされてげんなりする姿や、心は男なのに男に思いを寄せられて嫌な顔をするところとか、異性の着替えを目撃して罪悪感を抱くようなあんな顔やこんな顔を見るのが好きなんだ!」

「最低だなおまえ!!脳みそ腐ってんのか!!」

「嗚呼、可愛くて愛らしい顔の女の子に荒々しい口調で罵られるのもいいね!」

「やかましい!サムズアップするな!」

「いいよ、その調子で次は、こっち見んな変態!って言ってみて」

「もうやだ、何を言っても喜ばせてしまう!」


 俺がうんざりしているのを他所に神様は本題に移る。


「さて、一旦揶揄うのはこのくらいにしておいて、本題に移ろう。君の世界に異世界チートってやつがあるだろう?僕はそれをやってみたくてね。その第一号に死にたてほやほやのちょうどいい魂を持ってきたのさ」

「俺ってマジで死んだのか?」

「可愛い女の子の一人称が俺っていうのもギャップがあっていいね」

「人の話を聞け」

「ああ、死んだよ。それはもうポックリと」

「死因はなんなんだ?確か俺は—」

「仕事終わりに居酒屋で1人寂しくお酒を飲んで—」

「1人寂しくは余計だ」

「—自宅へ帰還、そのままベットに飛び込み着替えもせずに就寝」

「その通りだけど、いったいどこまで把握してるんだよ」


 神様だからって人のプライバシーガン無視ですかそうですか。

 でもそれのどこに死ぬような要素があったんだ?


「どうやら寝ている間によく呼吸が止まってたみたいだよ。睡眠時無呼吸症候群ってやつかな?それと日頃の不摂生な生活と会社でのストレス、それらが重なってそのまま呼吸が戻らずにポックリ」

「まっじっか〜〜」


 生活習慣の改善はよく健康診断で言われたけど、まさか齢25で死んでしまうとは思わなかった...


「マジ、マジでか...うわぁ、マジかぁ...」

「ショックを受けてる君に吉報だよ」

「父さん母さん、親不孝な息子でごめん。ちゃんと母さんの言う通り自炊すべきだった...」

「お〜い、聞こえてるか〜い?まぁいっか、このまま続けちゃうね」


 できればもう少し心の整理をさせてもらいたいのだが、明らかに重要そうなことを言いそうなので神様の話に集中する。


「さっきも言ったとおり、君には異世界チートをしてもらう。つまり第二の人生ってわけだ。記憶もそのまま体もそのまま」

「いや、戻せよ。せめて体は戻せよ」

「それが君の元の体は地球に最適に造られてるから、そのまま行っちゃうと異世界の細菌に殺されちゃうんだよね」

「マジか」

「しかも空気もこっちのとは違うし、食べ物や栄養素も違う、それならいっそのこと一から作ってしまおうってことでできた体が今の体だ」

「いや、だからそこで女の子にする意味がわからないんだが?」

「一から作った方が肉体スペックの調整もしやすいし、何より僕好みの見た目にできる!」

「完全におまえの趣味じゃねぇか!」

「まぁまぁ、そう言わずに。その代わりと言ってはなんだけど高い身体能力、高い魔力、高いあれこれ」

「あれこれってなんだよ」

「さらにさらに、今回は特別に僕の権能を一欠片授けちゃうよ」


 一欠片とはなんともケチくさいやつだな。


「ケチくさいとか思わないでよ」

「当たり前のように心を読むんじゃない」

「権能っていうのは神の力であり理、わかりやすく言うとそれそのものが一つの世界のようなものなんだ。いくら僕が調整したハイスペックな肉体でもそのまま授けたら負荷に耐えられなくなるどころか、制御を失った権能が世界を滅ぼしかねない。だから一欠片とはいえチートにはそれだけで十分なんだ。権能の名は侵食世界、既存の世界、理を自在に書き換える力だよ」

「なんか聞いただけで強そうっすね。ところで、勝手に転生する運になってるけど俺はまだやるとは言ってないぞ」

「えっ?拒否権はないけど?」

「えっ?」

「うん?もしかして神の決定に人間の裁量が加えられるとでも?」


 あっはい、そうですか。

 こういうところはしっかり神様しているようで何よりだよ。


「さて、伝えるべきことは伝えたかな?」


 神様は1人で納得して何度か頷く。

 こっちは1ミリたりとも納得してないのだが拒否権は無いらしいので黙っておく。

 こいつと話しても碌な反応が返ってこないからだ。


「それじゃ最後に神様っぽいことでも言って送り出そうか」


 神様はそう言うと宙に浮いて両手を広げる。

 するとどこからともなく光り輝く輪が神様の背後に現れ、無駄に神々しさが増した。


「汝はこれより我の使徒として再誕する。しかし、我は汝に命ずることなし、汝に掲示を託すこともない。ただ願うのみ、汝の行先が自らの望むものであることを」


 そう言い終えると俺と神様の間に突然穴が開く。

 覗いてみると本来上にあるはずの雲が下に見え、さらにその先には茶色い地表と緑色の地表、そして広範囲を埋め尽くす青色の海が見える。

 つまり俺は今、雲よりも高い位置にいると言うことなのだろう。

 まさかとは思うがここから飛び降りろと言うんじゃないだろうな?

 神様の方を見てみると目配せで行けと言っているのがわかる。

 俺は無理だという思いをこめて首を振る。

 神様は行けという意思表示に頷く。

 俺はもう一度首を振る。

 神様ももう一度頷く。

 繰り返しすこと3回、痺れを切らした神様が突然視界から消えると背中を押される感覚の後、体を浮遊感が包む。


「ふざけんなぁぁぁ!!クソ神がぁぁぁ!!」


 空に投げ出されて加速していく体、落とされた穴の方には笑顔で手を振る神様。

 異世界に来て1番最初にやることがパラシュート無しのスカイダイビングになるとは。

 どうやら異世界に前世の常識は通用しないらしい。


「覚えてやがれよーーー!!」

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