ネクタイをしめたい
ハヤシケイスケ
第1話 次の時代もきっと 野球場へゆこう
夏休み最終日。10歳。
家族4人で野球場に来ていた。
我が県を本拠地としているプロ野球チームの主催試合だった。三塁側内野席。
父と母は職場内で出会い、結婚に至った。交際のきっかけは野球だったという。
同じチームを応援している事を知り、毎朝職場で顔を合わせるたびに前夜の試合の話題になり、いつしか一緒に球場で野球観戦をするようになった。
そんな両親のもとに生まれ、僕や兄も野球に親しんで育った。
野球が僕たち家族を繋ぐものだった。
「俺と母さんが最初に試合観たんあの辺じゃ」
父が遠くライトスタンドを指差した。
その話も興味をそそるが、僕はグラウンドから目が離せなかった。
憧れの選手がいた。
彼がベンチからグラウンドに現れただけで場内が湧き上がる。
球場のスピーカーから選手指定の登場曲が流れる。
アナウンスが彼の名前を告げる。
登場曲のリズムに合わせ、場内が一体になる。
スタジアムの視線を独り占めする彼はまさにスターと呼ぶに相応しい。
15年もすればレジェンドと呼ばれているだろう。
その日の試合は代打で登場した彼の活躍が決め手になり勝利を収めた。
ハイタッチする母と兄。
試合終了の瞬間に球場の大型ビジョンに映された演出が、観客を一層盛り上げる。
写真を撮る人もあった。
試合後にグラウンド上でインタビューを受ける彼。
拍手と声援をおくる観客。
目が覚め、昔の夢を見ていたと気付く。
僕はいま大学生で、季節は。
季節は。
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