天使のシャボン玉
Hiroe.
第1話
赤い屋根の上で、一人の女の子がシャボン玉で遊んでいました。空は青く、女の子の長いかみを風がなでる日のことです。おやつの時間をすぎると、女の子はシャボン液の入れ物とストローだけを持って、一人で屋根にのぼってきたのです。屋根の上からは、時計とうの窓のステンドグラスや、市ばにつまれたオレンジの色なんかがよく見えたので、女の子はうれしくなりました。
大きく息を吸ってストローをふくと、ストローの先から小さなシャボン玉が次々ととび出して、風の中にころがっていきます。シャボン玉の中では、七色のひかりがくるくると回っていて、まるで宇宙にうかぶ小さな星のようです。女の子から生まれた小さな星は、ふわふわとたゆたいながら、地球をかける風とおなじ速さで四方へ広がり、やがてパチンとはじけます。さん歩をしていた犬の鼻の上でシャボン玉がはじけると、犬は目をぱちくりとさせたので、それを見ていたかい主が、笑って女の子に手をふりました。
女の子には大好きな男の子がいました。やさしい声と深い色の目がすてきな、海の向こうの国からきた男の子です。女の子と男の子はとても仲よしで、二人はいつも一緒でした。ある日、男の子は旅に出ました。女の子はさびしくて泣きましたが、どうしようもありませんでした。男の子は大きくならなくてはいけません。そのための旅でした。女の子は何度も手がみを送りましたが、返事がくることはありません。たまに夢のなかで会えると、女の子はうれしくてたりませんでした。
「かなしい気持ち、バイバイ」
「さびしい気持ち、バイバイ」
こころの中で、女の子はシャボン玉にあいさつをします。女の子が息をふき込んだシャボン玉には、女の子の心がとじ込められていました。何度も何度も、女の子はストローをふきました。シャボン玉が男の子に届くことはありませんでしたが、それでよいのです。
やがてシャボン液の入れ物がからになるころ、女の子の涙はいつの間にかとまっていました。丸いほおにはその後がのこっていますが、その目はまっすぐに、はるか遠くの地平線を見つめています。
屋根の上で白いくもに手をのばすと、女の子の手のひらが少しだけあの男の子に近づいたようでした。風はそよそよと、女の子の長いかみをなびかせていました。
その日の夜、女の子はふしぎな夢をみました。ふわふわと空にむかうシャボン玉の上に、小さな天使がのっている夢です。一つ一つのシャボン玉から、天使たちはニコニコと手をふっています。
風にはじけたはずのシャボン玉は、天使たちののり物になって、はるか空の向こうへとのぼっていきました。高く高く、うちゅうの青色にすい込まれたとき、シャボン玉はにじ色の光になって、世界中へふりそそいだのです。その瞬間、世界はそれまでよりもずっと美しくかがやきました。
女の子のはい色の気持ちは、本当はあんなにきれいなにじ色だったのだと、女の子は気がつきました。それが本当の女の子のこころなのです。天使たちはそれを知っていて、女の子のシャボン玉を空のむこうに届けてくれたのです。
それからしばらくして、女の子は一つうの手紙を受けとりました。
伝書ばとがクルルと鳴いて、もうすぐあの男の子がかえってくるよとしらせました。
天使のシャボン玉 Hiroe. @utautubasa
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