命を司る 或いは象づくる誰かへ

梅林 冬実

命を司る 或いは象づくる誰かへ

ティラノサウルスはとても賢い恐竜だったらしい

とても賢いといってもそりゃ人間ほどではない

恐竜の中では という括りは当然存在する

ステゴサウルスのそれに話題が移ったら

何も話せなくなるくらい気の毒で不憫で

どうしてお前はそんなに低脳なんだと

肩の一つも叩いてやりたくなる

肩の一つも叩いたら僕の命はなくなるだろうが


バカは世の中から消えろと

平然と宣うバカがいる

年寄りに自決しろといったバカ以上にバカなヤツだ

賢者は人をバカ呼ばわりはしないし

まして「死ね」などと発言しない

賢者は恐らく立ち回りも見事で

人に嫌われるような真似は決してしないだろう

何故って「賢者」なのだから


バカの定義はなんぞや

賢者のそれは?

そういえば誰が決めたのだ

足し算ができない誰かをバカと罵る誰かこそ

僕はバカだと思う

足し算はできないけれど

歩くのもやっとな老人の手を引いて

横断歩道を一緒に渡ってやれる誰かをバカなんて

良識を備えた人はきっと評さない


足し算もできなくて老人に「死ね」と唾棄して

横断歩道を渡る障害を持つ人を突き飛ばすような誰かなど

生きる価値はないと思う

思うけれどそいつらは当たり前って顔して

今日を生きる きっと明日も生きる


何故なんだ


いつもここで僕の思考は行き詰まる

争いのない世界を求める人ほど

有能な政治家を汚い言葉で罵るのは何故なんだ

誰もが平等に暮せる世の中になるべきと

熱弁をふるうその人が

ハイソな暮らしをしているのに

誰もそれを咎めないのは何故なんだ


賢者もバカも争うなと言いながら争うクズも

この社会で皆一緒くたに生きている

心優しい人はいつの時代も隅に追いやられ

平気で人を傷つけることができる誰かが

世界の中心でけたたましい笑い声をあげている

それを聞こえないふりして

勉強したり働いたり家事をしたり

嫌気がささないなんて嘘だね

嘘吐きほど豊かに暮らしている

嘘が吐けない人ほど苦しい思いをしている


だからそれって何故なんだってばよ


命を司り

或いは象づくる誰かへ

世の中別に不平等でいいから

せめて人に優しくできる誰かが

苦しんだり悩んだり悲しんだり

そういうことが起きない世界にしてほしい

僕はそのいずれにも属さないけれど

優しい人ほど苦しんでいるこの世の中は

どうにも間違っていると思うんだよね

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