関ケ原の亡霊 ナイトトレイルランニング(Night trail running) 甲冑編
最時
第1話 山中の広場
「ふう。
疲れた。
だけど、まずまずのタイムだ」
8月午後9時。
神社横の駐車場に戻ってきて、車からタオルを取り出し汗を拭う。
トレイルランニングのトレーニングで岐阜県と滋賀県にまたがる標高約1300mの独立峰、伊吹山の山頂まで往復した。
トレイルランニングは登山道などの山岳ルートを含む長距離走。
長いものは100kmを超えるレースもあり、夜走ることになれておく必要がある。
特にこの時季は、暗い涼しい時間でないと走っていられない。
走り慣れたこの山はトレーニンググラウンドだ。
自宅へと車を走らせるが、すぐに眠気の感じて広場の駐車場で仮眠をとることにした。
広場へ続く道を曲がったつもりだったのだが、間違えたことに気づいた。
転回しやすいところがないかそのまま進んでいると、林業か土木関係の資材置き場だと思うのだが広場に着いた。
ここで休ませてもらうことにした。
山中の暗闇の広場。
夜の関ケ原。
少し考えてしまう。
関ケ原町は岐阜県境の小さな町だが、その名を知らない人は居ないだろう。
戦国時代、東西を分けた大戦があった地。
始まってから一日で決したらしいが大勢が参加した戦。
当然多くの無念の死が生まれた。
そういう土地だ。
今更そんなことを気にする人も少ないと思うが、こういう場所に来ると考えてしまう。
窓の外を見るが自分の顔が写るだけだ。
そんなことを思いながらもシートを倒して目をつむるとすぐに意識は飛んだ。
暑さを感じて意識が戻る。
車のエンジンが止まっていた。
エンジンを掛けようとスイッチを入れるがまったく反応がない。
「こわれたか」
スマホを見ると電源が落ちていてスイッチを入れても反応がない。
「最悪だ」
車から降りる。
聞こえるのは虫の声。
月が出ており、慣れた目ではまあまあ見通せる。
「3キロぐらい入ったかな」
とりあえず通りに出ようと思い、車からヘッドランプなどを用意するためドアに手を掛けると。
カシャ カシャ カシャ カシャ
明らかに人工的な金属のこすれるような音が一定のリズムで聞こえてきた。
暗闇の先から近づいてきているように思えた。
最初はドキッとしたが、助かったと思い直した。
資材置き場の関係者が残っていたかなと、暗闇に目をこらす。
人影が現れ、そちらの方へ向かおうとすると甲冑を着て刀を手にしている事に気づいた。
安心が一気に不安へと変化した。
「すみません」
声を掛けるが無言。
俺は通りへ向かって走り出した。
振り向くと走って追ってくる。
「ヤバい。
イベントの衣装で脅かされているのかな。
けど刀抜いてるのはヤバいだろ」
速く走っているつもりだが、音が近づいてきてる。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。
身体が重い」
思ったより疲れているようだ。
林の中に逃げ込んで木の幹に身を隠す。
カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ・・・
音が止まった。
そっと顔を出すが何も見えない。
林の中に月明かりはほとんど届かず、一段暗くなっている。
こちらから見えないが、向こうからも同じはず、ここに潜んでいようと顔を戻すと目の前に甲冑があった。
シュッ
と言う音と共に首に冷たい物を感じた。
ドッ
「イテッ」
ハンドルを膝蹴りした。
「夢か」
暑さで汗が浮かんでいる。
車のエンジンが止まっていた。
「ガソリンはあったはずだ」
スイッチを押すとエンジンがかかった。
「何かでエンジンが切れたか」
時計を見ると22時だった。
「リアルな夢だ。
明晰夢ってやつだな」
車から降りて身体を伸ばす。
カシャ カシャ カシャ カシャ
夢と同じ音がした。
そんなことがあり得るのかと目をこらすと甲冑を着て刀を手にしている。
「すみません」
声を掛けるが無反応。
不安を感じてすぐに車に乗り込みその場を離れた。
「たちの悪いいたずらだな」
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