第24話 異界
葵は茜に連れられて、異界への境界を超えた。それは何の衝撃もなく。あっけないほど簡単だった。富士山の樹海から入り込んだ場所は砂漠のような荒涼とした風景が広がっていた。異界は葵の想像とはまったく違っていた。周りの風景は今までいた世界とは違って、静止画のようにほとんど動いていなかった。
「おかしい。異界にこんなに簡単に入れるはずがない。これは私たちを誘い込むための罠よ」茜は砂漠の砂が風に舞うこともない異様さに恐怖を感じ始めていた。
「すべてが止まっているように見える」葵は茜の手が震えているのを見た。
「動いていないのじゃない。私たちには奴らの動きが速すぎて見えていないだけ」葵は茜の言葉にはっとした。確かに風景は動いていないように見えたが、空中を漂っている不思議な形をした浮遊体は円を描くようなスムーズな動きをしていた。
「それに触ってはだめ」浮遊体を掴もうとしていた葵は慌てて手を引っ込めた。
「葵、何か見える」茜はある一点を見つめていた。
「何も見えない」「空間に揺らぎがある。あそこに何かがある」茜は葵の手を取って、後退りを始めた。葵は茜の視線の先を凝視していたが、何も見えなかった。
葵は浮遊体の動きのわずかな変化に気が付いた。後退するのと同時に周回軌道を狭めたことだった。その時、葵は空間から現れたものを初めて確認した。
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