第4話 お楽しみの時間はすぐそこだ!
一通りの物を購入した俺と香澄は、家に戻って来た。それからすぐ、寝るのを想定して布団を敷いてみる。
……2枚の布団の隙間は皆無で、ダブルサイズと言い換えて良いレベルだ。やはり1Rには厳しすぎるか。恋人同士ならアリだとしれないが…。
「まさか、ここまで余裕がないとはね~」
香澄がつぶやく。
「どうする? やっぱり泊まるの止めるか?」
俺は大歓迎だが、彼女は嫌がるに決まってる。
「止めないよ。昔のお昼寝を思い出すから、このままで良い」
小さい頃。遊び疲れた俺と香澄に、母さんが2枚の布団を敷いてくれたっけ。そういう過去があるから、一緒に寝ることに抵抗が少ないんだろう。
敷いた布団を片付け終わった後、香澄が声をかけてきた。
「兄さんって、結構アニメ観るの?」
昨日彼女が来た時、テレビに一時停止のアニメが映っていたから気になったのか。
「気が向いた時だな」
「ふ~ん。良かったら、どういうの観てるか教えて!」
「お前、アニメ好きだったっけ?」
そういう記憶はないんだよな…。実家を出た後に好きになったのか?
「会社にいる人はもちろんだけど、高校の時の友達とも話したりするんだよね~。みんな“オタク”って感じじゃないけど、おしゃべりのネタになったりするんだ~」
「そうなのか…」
アニメ映画の興行収入が凄いって聞くし、隠れオタク? は意外に多いかもな。
「それで、どんなアニメ観るの?」
興味津々な様子の香澄。
「日常系が多いかな。気楽に見れるし」
“伏線回収”が一部の作品で盛り上がっているが、それはストーリーと設定をしっかり覚えてないと成立しない。気が向いた時に見る俺とは相性が悪い。
「日常系…。可愛い女の子がたくさん出るやつか~」
「よく知ってるな」
興味の対象外だと思っていたが…。
「大体調べるからね~。あたしもそういうの、たまに観るし」
「マジで!?」
多分男向けを女が観て楽しめるものか?
「でも、合うのと合わないものの差が激しいかな~。無理なものはホント無理!」
たまに、男の俺ですら驚くエロ描写があったりするからな。香澄の言いたいことはわかる。
「これからアニメでも観ようよ。最新話しかなかったら、兄さん解説よろしく」
彼女はそう言ってから、録画一覧を開く。
今日はゴールデンウィーク2日目で、4月下旬になる。上旬から春クールが始まったから、今はできるだけ録画していて1話も削除していない。だから俺の解説は不要だな。
こうして、香澄と共にアニメを観る俺。俺にとって復習になるが、彼女と一緒に観ると新鮮な気持ちになる。これはこれでアリなんだが…。
深夜アニメ特有のエロ描写が気まずい。1人で観る時は何とも思わないが、妹という立場が気まずさを助長させる気がする。
「兄さんが録画してるアニメ、エロいのばっかりじゃない?」
「偶然だって!」
調べるのは面倒だから、新番組の【新】と番組概要を観て録画しているに過ぎない。
「…早く彼女作りなよ」
俺、絶対欲求不満と思われたな…。
アニメを観続けていたら、あっという間に夕方になった。
「兄さん。夕食はあたしが作るわ」
「良いのか?」
食事の準備って面倒なんだよな…。香澄から言ってくれるのは嬉しい。
「簡単なものにしちゃうけどね」
「それでもありがたいよ。何を作るつもりだ?」
「オムライスにしようかな~。チキンライスに卵乗せるだけだし。チキンがなかったらケチャップライスにしよ」
本来、オムライスは卵でライスを包むものだ。しかしそれだと手間がかかる。なので卵を丼ものみたいに、ライスの上に乗せるのが俺達のオムライスになる。
香澄が夕食を作る間に、俺は風呂掃除でもしよう。彼女のことを考え、じっくり掃除しないと。汚れた風呂を使わせたくないからな。
念入りに掃除したものの、俺の方が先に終わったので部屋でのんびり待とう。
「できた~!」
香澄の嬉しそうな声が家に響く。
掃除で体力を消費して腹は減っている。ガッツリ食うぜ!
「勝手が違うから自信ないんだけど…」
彼女は皿に盛られたオムライスを俺の元に持ってきた。
「見た目は実家で見たのと変わらないぞ」
時期は忘れたが、母さんに『簡単な料理は作れるようになりなさい!』と言われてレクチャーされた料理の1つが、このオムライスだ。
母さんのオムライスに引けを取らないと思うが…。早速一口食べてみる。
「…どう?」
「味も母さんのと変わらないな。うまくできてるぞ」
「良かった…」
香澄は胸をなでおろしたように見える。
俺の反応を見て安心したのか、彼女は自分の分も用意して食べ始める。一時的でも一緒に住むってことは、香澄の手料理を食べられるって事だよな。
俺は改めて、今の生活に感謝した。
夕食を食べ終わった俺と香澄。後は風呂になるんだが…。
「兄さん。先にお風呂入っても良い?」
「…良いぞ」
先に入られると録画できないが、それを言う訳にはいかない。
「ありがと~」
香澄は着替えを持って脱衣所に向かう。
風呂に入る順番によって、やれることが変わるな。俺が先なら録画することができる。自然な流れで携帯を定位置にセットすることが可能だ。
一方、後の場合はクンカクンカすることができる。2人の服を合わせて洗濯する以上、香澄が脱いだ服は絶対脱衣カゴに入っているからだ。
俺が先に入ろうが後に入ろうが、得をすることに変わりない。…最高だよな。
2人共風呂を済ませたから後は寝るだけだが、やや早い時間だ。
「兄さん。あたし疲れたから早めに寝て良い?」
買い物であちこち動き回ったし、人混みだったからな。疲れるのも当然か。
「俺も疲れてるから良いぞ」
俺はそれらに加え、運転の疲労もある。たまに社用車を運転する程度だから慣れてないんだよ…。
意見が一致した俺達は邪魔な物をどかして布団を敷く。
「寝相が悪くて蹴飛ばしたらごめんね」
実際、子供の時の昼寝で蹴られたことがある。結構痛かったんだよな…。
「なるべく気を付けてくれよ」
「わかってるって」
その後すぐ消灯し、部屋は暗闇に包まれる。
香澄が寝静まったら、昨日みたいに欲望を解き放つか。距離が近い分、何でもできるからな。俺はその時をじっくり待つ。
お楽しみの時間はすぐそこだ!
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