第3話 デートみたいだね
次の家を見つけるまでの期間限定で、
香澄が見守る中、朝食を食べ終わった俺。彼女が泊まるなら生活雑貨や日用品を買い足す必要があるな。1人の時とは消費ペースが変わるし、好みも違ってくる。
「香澄。今日予定あるか?」
「別にないけど?」
「だったら買い物に行こう。お前がここに泊まるなら、色々必要になるからな」
「確かにそうだね。…いつ頃行く?」
「俺の準備が済み次第だ。買う物が多いから、時間がかかると思うし」
絶対買うべきなのは寝具だ。俺のお古を香澄に使わせる訳にはいかない。
他の物は…、彼女と相談しながら決めるとしよう。
俺が車を出し、近場の大型ショッピングモールに到着した。ネット購入はタイムラグがあるから今回は適さない。スピード重視の今は、現地で買うのがベストだ。
「何かあったら、携帯に連絡してくれ」
駐車場に停めてから、助手席の香澄に伝える。
本当は共に行動したいが、そう言ったらどう反応されるか…。
「一緒に出掛けたんだから、別行動しなくて良いじゃん」
「えっ?」
予想外の反応をされたから、言葉が出てこない。
「兄さんが嫌なら仕方ないけど…」
「そんな訳ないだろ! 俺なりに気を遣っただけだ。昔は家族一緒に出掛けるのを嫌がってたから…」
香澄にその様子が初めて見られたのは、確か小5だったかな。
「昔は思春期で繊細だったからだよ。今は大丈夫だから」
「そうか」
しっかり成長しているな。
「よく覚えてるね~。あたしにとっては黒歴史だよ…」
黒歴史と思っていたのか。あの頃も香澄は可愛かったぞ。
「ねぇ。このままおしゃべりするのも良いけど、そろそろ行こうよ」
「ああ…」
俺達は車を降りて、並んで歩き出す。
ショッピングモールの中心に来た。ここから買いたい物に合わせ、エリアを移動する訳だが…。
「香澄。最初は何を買いたい?」
寝具のことを忘れなければ、順番はどうでも良いからな。
「ん~、シャンプーとかの体を洗う一式かな」
最初がそれか。女子ならではの着眼点だ。
「兄さん。どういう基準でシャンプーとかを選んでるの?」
昨日、俺の家の風呂を使った時に疑問に思ったか。
「安いかどうかだが…」
こだわりがない物は、値段で判断している。
「それじゃダメ! “ニオイ”も意識して選ばないと!」
「意識する必要あるか?」
俺が意識するニオイは、汗臭さだけだ。それ以外は気にしないんだが…。
「あるよ! 女の子はニオイに敏感なんだから! ニオイにこだわって!」
敏感だろうが、俺は香澄に嫌われなければ良いんだよ。社内に香澄以上にタイプの女子はいないんだから。
「あたしオススメのを教えてあげるから付いて来て!」
「わかった」
該当コーナーに着いてからは、香澄主導で商品を選んでいく。匂いなんて未だに関心を持てないが、そんな態度をしたら彼女の俺に対する好感度が下がってしまう。
香澄の好感度と共通の話題のために、大人しく従おう。
体を洗う一式の費用は香澄が出してくれることになった。今のを使い終わったら、早速買ってもらったのを使うとしよう。
洗う繋がりで、洗濯洗剤が近くに陳列されているな。洗濯といえば昨日…。
「香澄。ブラ専用ネットを買っといたほうが良いんじゃないか?」
内容が内容なので、小声で伝える。
彼女が泊まる以上、必須アイテムになるからな。
「…忘れるところだった」
香澄は数個のブラ専用ネットを買い物かごに入れて、レジに向かう。
俺は邪魔にならないところで待機するか。
……会計が終わったようなので、エコバッグに詰めている香澄に近付く。
「兄さん。あの話覚えてたんだ」
「まぁな…」
「ブラに興味あるから、頭から離れなくなっちゃったとか~?」
茶化されてしまったが、“俺が興味あるのは香澄が着けてるブラだ。ブラ全般じゃない”とツッコむ訳にはいかず…。
「…その通りだ」
こう答えるのが無難だと判断した。俺、間違ってないよな?
体を洗う一式を購入後は、生活雑貨や日用品を買う。男はあまり使わないトイレットペーパーや使い回せない歯ブラシは、特に意識して買い物を済ませた。
買い物後は一旦車に荷物を置きに戻る。時間はたっぷりあるし、焦ることはない。
「次は寝具を買いに行こう。次も俺が出すから、遠慮なく選んでくれ」
決めやすくするため、駐車場で早めに話を切り出す。
「兄さん太っ腹~。あたしもサービスしてあげようか?」
「サービスって何だ?」
「ブラ好きの兄さんのために、一緒に下着屋に行くの♡」
…耳元で囁かないでくれ。我慢できなくなる。
「男1人は不自然でも、あたしと一緒なら普通に入れるよね?」
「そう…なのか?」
どんな状況でも、あそこは男が入って良いところじゃないだろ。
「…よく考えたら、それはあたしじゃなくて兄さんにできる彼女さんに取っておいたほうが良いかも。下着屋に慣れてたら、遊んでる感じがしそうだよね~」
このまま下着トークを続けると不利だな。さっさと切り上げないと。
「香澄。そろそろ寝具コーナーに行くぞ」
「はいはい」
寝具コーナーに着き、香澄はサンプルの枕やマットレス・抱き枕の感触を確かめる。俺もあんな風に香澄に抱かれたいなぁ…。そんな不謹慎な事を考えながら買い物を見守る。
……彼女が納得する寝具を購入したら、結構な金額になった。今更文句を言う気はないが、しばらくは節約しないとダメそうだ。
寝具を車に乗せてから、俺達も乗車する。時間を確認すると昼になっていた。
「香澄。どこかで食べて帰るか。どこが良い?」
「う~ん、ラーメン!」
意外なチョイスだな。女子はパスタの印象が強すぎる…。
「あちこち歩き回ったし、疲れた時はガッツリ食べたいよね~」
「確かにな」
「ランチはあたしは出すから、たくさん食べようよ」
「ああ」
ラーメン店に着き、俺はとんこつラーメンと炒飯セットを注文した。香澄はラーメンこそ同じものの、サブを餃子にした。
「兄さん。今日の買い物、デートっぽくなかった?」
「えっ?」
まさか香澄がそんな事言うなんて…。
「なんて、あたしが相手じゃデートにならないか…」
“そんな事ないぞ。デートだと思っている”と言うべきか? …いや、この発言は関係性を変える可能性がある。安易に言うべきじゃない。
「もし今後デートすることがあれば、今日みたいな感じで良いと思うよ。兄さんはちゃんとあたしを気遣ってくれたからね」
「そうか」
香澄以外の女とデートする気なんて、まったくないが…。
昼食が済んだ後、俺達は帰宅した。香澄はどうして今回の買い物を“デート”と言ったんだろうか? 深い意味はなく、楽しかったから言っただけとか?
何にせよ、今回の買い物は金以外満足できる結果になった。これからもデートのような外出を香澄としたいな。そう思う俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます