義妹配信 〜強くなる為ならダンジョン配信で女の子たちとイチャラブ(レベリング)するのはありですか?〜
肩メロン社長
第一章『罪色欲之王』
第1話 妹と兄
「——お兄ちゃん! わたしと一緒に配信者にならないか?!」
四月三日、月曜日。
平日の真っ昼間から部屋にこもってマンガを読み耽っていた俺の元へ、ノックもなしに妹のウララが乗り込んできた。
「勧誘の仕方が上弦の鬼なんよ」
「配信者にならないなら生活費出さないよ」
「この鬼めっ」
今年で二十六の俺は、八つ下の妹に頭が上がらない。
まあニートだから仕方がない。
「ま、まあいい。今回のところは見逃してやる。とっとといけよ」
「それはお兄ちゃんが言えるセリフじゃないし、今回に関しては見逃してもあげられない」
「く……っ」
「お兄ちゃん……わたしは悲しいよ。今年で二十六のお兄ちゃんが、二年間も妹に養ってもらってるなんて……。しかもそこに罪悪感も何もないから当然のごとく怠惰に耽ってるし。恥ずかしくないの、社会人として」
返す言葉がなかった俺は、読んでいたマンガを閉じて天井を見つめる。
「そうか……もう、大人になったんだな。ウララ」
そうやってはっきりと自分の意見を言ってくれて、俺は嬉しいのやら悲しいのやら。
「お兄ちゃんがニートだから、子どもじゃいられなかったよ。高校も卒業する年齢だし。本来なら」
「なんかごめん」
「ということで、潰れたハロワに代わってわたしがお兄ちゃんにお仕事をあげちゃう♡」
「ハロワ潰れたって、ま?」
「二年前にね。トロールの群れに地鳴らされてた。当時のニートは大歓喜してたけど、未だにニートやってるの多分お兄ちゃんぐらいだよ」
「ほぅ。なら今の俺は希少価値が高いってことだよな。就職に有利じゃん」
二年間、周りの意見や情勢に流されずニートに徹していました。耐久値に自信があります。的な。
「自慢できることじゃないからね。世は大ニート時代とか言われてたけど、生きていくためにみんなダンジョンに潜ってるよ」
「……ところで、ウララ」
「なあに、お兄ちゃん」
ベッドに腰掛け、仰向けになった俺の顔を覗き込むウララ。
兄の俺が言うのもあれだが、ウララは贔屓目に見てもかわいらしい。
「? どうしたの、お兄ちゃん。わたしのこと好き?」
「いや……さっきからオークだとかダンジョンだとか、ファンタジーっぽい話が出てくるんだけどアレか。最近Z世代では流行ってるのか、そういうの」
「………」
わたし、呆れました――みたいな目で俺を見下してくる妹。お兄ちゃんとっても傷つきました。
「わたしが悪いよね。うん、甘やかし過ぎた。ブラック企業からようやく解放されて、その反動がおさまるまで見守ろうって決めてたけど、これはさすがにヤバい」
なにかよくわからないけれど、相当ヤバいらしい。
「だからわたしにも責任があるよね。お兄ちゃんの責任、取らなきゃ」
「責任は取らなくていいから、説明求む」
「むぅ……」
ヤバい方向に目が血走ってたウララの頭を叩いて正常に引き戻す。
「けど、お兄ちゃんがそこまで世間知らずだったとは思わなかったよ」
「まあ、この二年間パソコンもスマホもほとんど触らなかったしな」
ブラック企業時代のトラウマからスマホはずっと電源オフだし、パソコンはOSが古くてろくに動かないしで、俺は二年間アナログな生活を送っていた。
この六畳一間の部屋が俺の知る、俺だけの世界。
「んー……どっから説明しよっか」
「できるだけ短く、簡潔に頼む」
「お兄ちゃんが職場の既婚者と不倫して、不倫相手の旦那が離婚届持って会社に殴り込みに来て警察沙汰になって精神を病んでしまったお兄ちゃんはストレス性胃腸炎で一週間寝込んでたんだけど、それが功を奏して死なずにすんだんだよって話」
「どうして終わった話を掘り返すんだ、死ぬぞお兄ちゃん」
「……やっぱりお兄ちゃんにはわたししかいないね」
「え? なんか言ったか?」
「この距離で鈍感やめてもらっていいですか?」
ドスッと直前まで脇腹があったそこにウララの拳がめり込む。俺のベッドが悲鳴をあげて真っ二つに割れた。
「……オイ」
「ご、ごめんごめん。あはは、どうしよっかベッド……あ、そだ。わたしと一緒に寝ればいいじゃん?」
「お断りです」
即答しながらウララから距離を取る。
このブラコンは、美少女の皮を被った怪物だ。この二年間でそれが拍車をかけて進化していた。
寝相の悪いウララと一緒に寝る――イコールで俺の死だ。裏拳一つで頭蓋骨がへこむのは目に見えていた。命が幾つあっても足りない。
「お兄ちゃんのこと養ってるのに、お兄ちゃんはわたしの言うことは聞いてくれないんだね」
「
「わたしのお願いは聞いてくれないくせに、自分の要求は通そうとするんだよね。ホント、クズだよお兄ちゃん」
「済まぬ」
「そのもう振り切った顔がものすごくムカつく」
「済まぬ――おぉっ!? おま、俺の机が木っ端に!?」
「……お兄ちゃんってさ、妙なんだよね。わたしの攻撃をいつもギリギリで躱してる」
「妙なのはおまえだよ、兄貴を平気で殺そうとするなッ」
どうして俺は、俺の安全圏で追い詰められているのだろう。
解せぬ。
「落ち着いて話そう、妹」
「なら隣に座ってよ、お兄ちゃん」
「こちらに危害を加えないと誓ってくれるのなら」
「ダイヤは1カラット以上がいいな」
「おまえのわがままを受け止めてくれる男を見つけなさい。てかなんの話だよ」
「わたしのメガハートを受け止めてくれる人はお兄ちゃんしかいないよ」
「まずおまえが世間を知れ、ブラコン」
なんだろう、話が一向に進まない。
「とりあえず話せばわかる。暴力は良くないぞ」
「ふふ。それ、不倫相手の旦那にも言ってたよね。プフフ」
「くそ……ッ! こいつ、俺の殺し方をしっかり心得てやがる……ッ」
みぞおちあたりがモヤモヤしてきた。
このままではいけない――俺の胃的に。
これ以上の
それだけは避けねば……っ!
「……オーケー、妹。おまえの要求を聞こうか」
俺はため息を吐いてドアノブをまわす。
「これ以上俺の部屋を荒らされるのは勘弁だからな。話すなら下で話そう」
「え、なんでもいいの?」
「受け入れるかどうかは内容次第」
「妊娠してから出産まで何ヶ月だっけ? ……あんま時間ないかも」
「………」
なにやら不穏なワードがウララの口から飛び出てきた。
「よしっ、じゃあさっそくおはなししよ☆」
「うギィッ」
ウララは上機嫌に俺の腕を抱えた。胸に挟まれた感触を味わうよりも先に肩が悲鳴を上げた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
「ちょ、が、まうううで、カタが――ッ」
色々と振り切ったウララによって一階に引き摺り下ろされ、右肩の付け根あたりが見たことないグロテスクな色に染まっていた。腕もぷらぷらして激痛がとまらない。
「お兄ちゃん、HPが真っ赤だよ」
「むごッ」
「まったくしょーがないなあ。非力すぎるよ、そんなんじゃ誰がこの家と……お腹のこの子を守っていくのさ」
リビングにあるテーブルに着かされた俺は、どこから取り出したのかわからない緑色の小瓶を口に突っ込まれた。苦々しい、野草をすり潰して作ったような味に吐き気が込み上げてくる。
しかし、液体が胃に着地したとたんに肩の痛みがなくなった。
「なんだ、これ。超即効性の痛み止めか?」
「HPポーションだよ。一つ二〇〇円の」
「へえ」
俺は軽く聞き流した。
「んで、最初の配信がどうこうって?」
「あ、そうそう。お兄ちゃん、一緒に配信やろうよ」
「お断りよ」
「ちなみに、拒否ったらお兄ちゃんに犯されたって『ビー・チューブ』のショートで言いふらしてやるから」
「いいぜ、やってやるぜッ」
「さすがお兄ちゃんっ! だいすきだよっ!」
俺は目の据わったウララから『覚悟』を感じ取った。拒否権はどこにもなかったのだ。最初から。どこにも。
「……真面目な話、配信つったらカメラ必要だよな? お兄ちゃん、カメラ買う金なんてないぞ」
「わたしのスマホがあるから大丈夫。ちなみに編集ソフトも機材も揃ってるし、編集者もいるから心配せずお兄ちゃんは魔物と戦ってくれればいいよ」
「………」
……。
…………。
………………ん?
「? どしたん、お兄ちゃん。わたしのこと好き?」
「いや……確認なんだけど、俺がカメラマンでおまえが演者だよな?」
「ううん。わたしがカメラでお兄ちゃんが演者」
「いやいや。俺がカメラマンでおまえが演者だよな?」
「ううん、わたしがカメラでお兄ちゃんが演者」
「え?」
「え?」
え?
「俺が」
「演者で」
「おまえが」
「カメラ」
「え?」
「え?」
え?
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