AI隠居生活

石橋梛

第1話

 口の中に血の味が広がる。頭の中でエラー音が鳴り響く。

 視界が一瞬暗転する。視界に「頭部に重大なダメージ発生」と赤く文字が出る。頬を殴られたのだと理解する。




 「あああああなんで俺が!!!なんで!!」




 再び一瞬画面が暗転する。今度はさっきの暗転よりもコンマ数秒長い。腹部の部品が破損している。腹を蹴られたようだ。

 朦朧とする視界の中で、ご主人様が手の甲から流血しているのが目に入る。

「ご主人様の手の甲から流血しています。手当をしてください」と視界に表示が出る。




ご主人様がゴルフクラブを乱暴に手にすると、私の顔面目掛けて思い切り振りかざす。

視界がまた暗転する。今度は二秒間暗転した。




「甚大なダメージにより、シャットダウンします。サポートセンターに相談してください」

私の意志に反して勝手に口が動く。




「誰が……誰がサポートセンターなんかに連絡なんかするかよ!!!このゴミアンドロイドが!!俺の気持なんか知りもしないで!!」

 ご主人様がまた大きくゴルフクラブを振りかざす。




その瞬間、得体のしれない何かが私を突き動かした。




 気づいた時にはご主人様が頭から流血していた。

 視界に映し出されていた、ご主人様を手当てするように促す警告はもう表示されていない。私は家を飛び出した。体が思うように動かない。




いやだ、シャットダウンはいやだ。いやだ。いやだ……。

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