第13話 破壊力抜群 なにが?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

  □   □   □   □


ビーチフラッグの会場スタッフの人が片手を挙げて、声をあげている。


「3組目で出場する方は、そのこちらに集まってください」


スタッフに近づいていくコップにこよりが5本。


「スタート位置のくじです。1本引いてください。」


早速、引いてみる。

引かれたこよりの先は緑色に染められていた。


「コースの1番右になります」


コース外側を走ってフラッグからも離れている。だけど、

こよりはミドリ色。幸先が良いよ。スタート位置に立って、周りを見た

実はさっきから美鳥が見当たらないんだ。飲み物を買いに行くと言って、お連れ様と3人で行ってしまい、単独でイベント会場に来たんだけど。待てど暮らせど帰って来ないよ。

 ついにはビーチフラッグが始まってしまった。総勢参加25人。ウォータースライダーのカップルチケットが景品ということで、結構参加してきてるようだ。

 決勝は5人で争うということで5人毎の予選が行われることになる。参加順ということで、俺は3組目になった。

 彼女ときている人が多いのかな。周りのみんながヤル気に満ちている。すでに1組と2組目がスタートして、決勝進出が決まっている。俺も、とってきますと言った手前、頑張らないとね。

 コースの外側を見渡してみる。見つからない。仕方なく、体を回して後ろまで見てみたけたどダメだ。見当たらない。


   とっ、


「一孝さん」


 微かに聞こえた。頭の後ろから微かに呼ばれたんだ。

 素早く振り返った先、コースの先の方に見つけた。亜麻色の髪の乙女、美鳥がいたんだ。両手を振っていてくれる。

 目を凝らして見れば満面の笑顔だよ。つられて俺まで顔が綻んでいくのか分かる。

 美鳥は嬉しいのかピョンピョンと飛び跳ねている。

 それが良くなかった。

 あの小さく可愛かった……美鳥の胸が揺れているんだ。 会わなかった、わずかの間に大人へと変わって行ってくれた美鳥。


 その胸が遠目でも分かるくらいに揺れている。


 ユッサ、ユッサと。


 幾度となく、美鳥の手でさわらさせってもらったり、俺に抱きついてきたから、その柔らかさを知っている。それが、ふわっと柔らかく見えた水着のトップスを揺すっているんだ。


 すると俺の後ろから


「おおっ」


 どよめきが聞こえた。


「あの子何!」

「すごいね」

「揺れてる」

「うん、すごく揺れてる」

「柔らかそう」

「ぜってぇ、柔らかいって」

「よくみると、可愛い」

「すごく可愛い」


 なんて、声が呻き声が渾然一体になって周りを震わせている。

 美鳥は笑顔で俺に手を振ってくれる。やばいなあ、美鳥は自分の可愛さの破壊力を知らないんだ。


「お前らなあ」


 って、響めきを止めようとした時、


   ピッ


 ホイッスルが短くなった。俺の組みがスタートする、


「では、ビーチフラッグ予選第3組オンユアマーク! レディ」


 ホイッスルが鳴った。

 

 こう言う体勢からのダッシュは、バトミントン部の練習で散々やっているから体の捌き方は分かる。

 素早く起き上がり、体を回していく。足を砂地に潜り込ませて、そのまま後ろへ流す感じで滑らしていくんだ。あと足を跳ね上げるようじゃいけない。

 俺の走るコースは1番端で足跡で乱されていない。足を引っ掛けるものがないから、憖じっか走りやすかった。

 視界の端に追い縋る人影も見えるのなしに、回り込むようにフラッグへ到達。

 片足を曲げ込み、片方の足をまっすぐに伸ばして腿もとお尻から着砂してスライディングをする。

 地面につくタイミングでフラッグを引っこ抜いた。ポップアップスライディングで立ち上がる。


 掴んだフラッグを掲げると歓声と拍手が上がっていく。そのうちにスタッフがきて、


「決勝進出です。おめでとうございます」


 と言いつつ、緑色で、1 と書かれたペナントをくれた。


「スタート地点へ戻って待っていてもらえますか?」


と説明してくれた。


 そこへ、


「風見さん、すごい。1位だよ」


 美鳥の友達の柊さん、ミッチが走り寄ってきた。その後ろには櫟木さん、カンナが続く。


「おめでとうございます。決勝ですね」


 二人とも褒めてくれる。こそばゆいねえ。


  そこへ、


  はあ、えはぁ ぜぇー ぜぇー


「…かっ、かっ、一孝さん」


 息も絶え絶えの美鳥が追いついた。


「…やつ、やっ、やっ、やりましたね。えゼェーわ」

「美鳥、まずは深呼吸して、落ち着いてで良いから話して」


 言われた通りに美鳥は手を挙げて伸び上がり、


「スー     ッツ」


 息を吐く。


「はぁー」

「うっ」


 ついでに胸も上下して魅力爆発。ちぃーとばか下半身が熱くなるけど、気力で押さえ込んだ。

 美鳥も、やっとこさ、落ち着いてたようで、


「やりましたね。決勝も頑張離ましょう」


 と、にっこりと笑って褒めてくれた。


 うん、こっちの方がうれしいよ。ホッコリしていると、美鳥が他の二人に見えないように手招きをしてきた。


 んっ、なんだろう? 近づいていくと美鳥は両手を差し出してくる。俺の頭を抱えようとしてきたんだ。少し前に屈んで美鳥が抱えやすいようにしてあげた。

 美鳥は、俺の頭を引き寄せ、耳に自分の唇をを近づけると、


 「カッコいいよ」




●   ●   ●   ●   ●

  ◇   ◇   ◇   ◇



 ミッチもカンナも酷いよぉ。いくら、鈍臭いからって置いてけぼりはないよぅ。

 最初はミッチが引っ張って、カンナが押してくれていたのだけれと。

 多分、砂地のせいよ、足が進まない。前に進んでくれないの。ジリジリしたのだろう、

 最初はミッチが、


 「先に行くねー」


 って行ってしまう。そのうちにカンナまで、


 「疲れちゃった。あとは美鳥頑張って」


 って、立ち止まるようなこと言って、スタスタと先に行ってしまった。  

 足が進まないのは、疲れていたせい。流れるプールとかで、力を使い果たしたから、あなた達の浮き輪押していたのよ。

 体力ないのはダイエットしてるから、微妙にエネルギーの素 ご飯を制限してるから。おなたのプニプニを無くすのヨォ。

 ビーチフラッグの予選とはいえ、トップでフラッグを取った一孝さんを激励に行こうとしたけど、この体たらく。

 先に行ったミッチが彼に話しかけてる。

 あっハイタッチまでしてるの。そのあとはカンナもたどり着いた。なんか話をして一孝さんの頬が緩んでる。

 何を話してるんだか。


 もう、ダメ。と言うところで一孝さんのところまでたどり着いた。息が続かない。あの人の名を呼ぼうとしても、体は酸素を欲して声を出してくれない。


「…かっ、かっ、一孝さん」


  はあ、えはぁ ぜぇー ぜぇー


 私のために頑張ってくれる彼を褒めてあげたいのに、


「…やつ、やっ、やっ、やりましたね。えゼェーわ」


 息も絶え絶え。話が繋がらない。

 彼に心配させてしまった。


「美鳥、まずは深呼吸して、落ち着いてで良いから話して」


 返事代わりに私は一孝さんの目を見つめた。


「じゃあ、くるしいかもだけと、手を上に上げて、大きく息を吸ってえ」

 

 かがみ込もうとする体を叱咤してのび上がる。そして


「スゥー     っつ」


 息を吸う。内に空気が入る。血液に酸素が取り込まれる。細胞に運ばれる。生き返るなあ。

 入れたものは出していかないと、


 「はぁー     ん」


 出して出して、ダメっていくまで出していく。

 体の中の嫌なものが出て行ってしまう気がするの。出し切って、もう一度手を上に上げて胸をはって息を吸う。


 あれ、一孝さんの頬が赤い。恥ずかしいのか手で隠しちゃった。えぇー私なんか、恥ずかしいことしたぁ。もう一度っと。あれえ彼の頬か更に赤くなってる。目も泳ぎ出した。


   どうしたのぉ。


 もう少し深呼吸を繰り返して胸を落ち着かせてからやっと


 「やりましたね。決勝も頑張離ましょう」

  

 と言葉が唇から出せた。

  でも、違う。私が思っていることは違う。話しかけたいことは違うの。

  でも、ミッチもカンナも近くにいる。他にも周りに人がたくさんいる。

 なんか恥ずかしいー。でも伝えたい。


 私は一孝さんへ両手を差し出す。彼が察してくれて頭を下げてくれた。このままキスしても良いかなぁ。きゃっ

 でも、私は、彼の耳に唇を近づけた。


「一孝さん。かっこよかったよ。キュンときちゃた。大好きよ」


 思っている事を、こそっと耳に流し込んであげたの。しばらく頭を抱えた手の力は緩めない。

 腕の中で彼が震え出した。そして、私の腕を振り解いて一孝さんは跳ね起きる。


 「たまらん。美鳥ー帰ろう」


「だぁめ。もっとかっこいいとこ見たいのああああ」












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