第7話 気を緩めたことのツケ
ちょっとだけ悪戯こごろが生まれました。カンナの浮き輪をスルスルと回転させ始めてしまいます。
「あのぅ、美鳥さん、クルクルっと回っているのですが、どういたしました?」
「いえいえ、サービスです。この度は琴守フリートをご利用いただきありがとうございます。お客様に喜んでいただけるよう回しております。いつもより多めに回しております」
「ああ、私は帯を引かれてクルクル回る芸者なのかしらぁ」
そんなふうに戯れあっている。
「アーレー」
「良いではないか、良いではないか」
ミッチは呆れながら、
「全く、何やっているんだか」
「いー加減にしときなよ、やり過ぎは危ないよ」
一孝さんも気にかけていたのだけど、
「はあーい……きゃあー」
ザップっーん
返事をした拍子に浮き輪への力加減を間違えて、バランスを崩してカンナが落水した。
驚いたカンナが、慌てて手を振り回してしまう。
普通に立ち上がれば、私たちの胸ぐらいの水位しかないのだから、全然、慌てる必要がない。
でも、
一孝さんがカンナを抱きしめたの。抱きしめられても。カンナは手を振り回す。
しばらくして彼に抱きついて静かになった。
私も、ミッチも見ているのにいっぱいで、唖然とするだけだった。
「はぁー、はぁー」
「どう?」
「っ、スゥー」
暫くして、カンナは、息を吸い始める。
「スゥー、スッ、ハァー」
「どう、落ち着いた?」
「あっ、ありがとうございます」
頬を染め、顔を真っ赤にしてカンナは、抱きついていた彼から、目線を下にして頭を少し離した。
「慌てたんじゃない? 水とか飲んでないかい?」
「はい、浮き輪がひっくり返ったときに、飛沫が少し口に入っちゃって、喉の奥にじゃないかな?」
「それで喉が緊張しちゃったんだねぇ。痙攣とかしなくてよかったよ」
一孝さんは、ここでニコッと笑った。それまでは、カンナの様子をじっくり見ていたんだと思う。冷静にカンナの対処をしていたの。
「大丈夫だった? カンナ! なんか暴れてたみたいだけど」
やっとことのことで私はカンナに声をかけることができた。
「本当よ。水飛沫上がってたよ」
ミッチも浮き輪から降りてカンナに近づいていく。
「ありがとうミッチに、美鳥も。うん、もう大丈夫だよ」
「じゃあ、いつまでも抱き合っていないの、一孝さんも近いよー」
一孝さんの胸に額をつけてカンナはプールから立っている。
でも下半身はほぼ密着しているはず、緊急事態とはいえ、うぬぬ、
「そうか、じゃ、カンナさん、浮き輪に捕まってくれるかな?」
「はい」
カンナは彼が片手で持ってきた浮き輪を受け取り、そちらにしがみついていく。顔は上げられないみたいだけど耳が真っ赤になってるのがわかる。
「美鳥もダメじゃないか。おふざけも過ぎると、大変なことになるよ」
「ごめんなさい」
私はすぐ誤ったのだけど。珍しい、一孝さの声が荒くなる。
「俺じゃない。カンナさんの方にも」
「あっ」
直ぐに、カンナか捕まっている浮き輪にに近づいて、カンナの背中に抱きついた。
「ごめんなさい。カンナ。私がふざけ過ぎたの」
「ううん、私も遊んでたからぁ。水も飲んでないし大丈夫だよ。ほぅ」
「そう、よかったぁ」
カンナは笑顔で話してくれた。でも、頬と耳の赤いのが覚めていない。吐息まで吐いてる。
この場はしょうがないと思い、私はカンナから離れて、一孝さんに近づいいく。
「ありがとう、一孝さん。おかげさまでカンナは大丈夫みたい」
「良かったよ。早めに対処できた」
笑顔の彼の顔を仰ぎ見て、
「随分と手際が良かったみたいなんですけど? 直ぐ抱き上げたし」
彼の胸に指を当てて、モジモジしながら聞いてみる。
あっ一孝さん、そっぽ向いて頬を掻いてる。
「いや、何。以前にやっぱりどこかの誰こちゃんが俺の目の前で落水してな。水をシコタマ飲んだらしいんだ。なんとか、大丈夫、大丈夫ってことで帰ったら」
彼の顔が苦渋に満ちたものに変わっていった。
「家で溺れたんだ」
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