第49話 1VS1
「生徒諸君、前期お疲れ様でした。今日から2ヶ月の長期休暇に入ります。休み明けにはゴスイ魔法競技大会も行われます。体調を崩さぬよう、日々自分磨きを怠らずまた、ここでお会いしましょう。以上でゴスイ魔法学校前期終業式を終わりとする」
「なぁバッド! ゴスイ魔法競技大会って何すんのかな!」
「まぁ例年だとクラス対抗リレーとかあるらしいけど……」
「今年はどうだろうなぁー。なんせ俺らのクラス7人しかいねぇしな」
色々あった学校生活も6分の1を終えた。この4ヶ月間本当に色んなことがあった。
やはりその中でもいちばん大きいのは魔法を使えるようになったことだろう。これは俺にとって明らかな進歩だ。
未来はちゃんと変わってる。そう思える4ヶ月間であった。
終業式を終え、教室へと戻ると既にサラン先生は教壇に立っていた。
「はい、じゃ話あるから席つけ」
皆なんだろうと不思議そうに席へと座る。
「はい、今日で前期が終わって約2ヶ月の休みに入る訳だが……このクラスには課題を出そうと思っている」
「えーっ!! 課題ですか先生……」
露骨にテンションの下がるトムを無視してサラン先生は話を進めた。
「んで、肝心の課題は何かって話だが……」
「……」
みんなが息を飲む。
「今から先生と全員1VS1をしてもらう」
「1VS1?」
「あぁ、そうだ。そんでもって……このクラスの順位を付ける」
「順位って……なんですか?」
「そのまんまだ。そんでもって休み明けもう一度先生と1VS1をしてもらう。そこで順位が下がる、もしくは変動がなかった場合……退学処分となる」
「……は? た い が く !?!?」
「課題は退学にならないよう校長先生が言ってたように自分磨きをするってことだ」
俺は咄嗟に声が出てしまった。おいおい待ってくれよ……退学ってなんだよ先生! せっかく軌道に乗ってきたのに……!!
「先生。今回1位だった人はどうすれば回避できるんですか」
ヒュームが手を挙げ冷静に質問をした。
「んーま、そうだな。1位のやつはもっかい1位を取れ。そうすれば免除だ」
「順位って言ってもどうやってつけるのよ」
「それは俺の主観だ。だからどう上手く俺を惚れさせるかが鍵だな。じゃ、エアリスから順番に第3競技場に来い」
そう言ってサラン先生は教壇から降り、教室のドアを開けた。
「あ、順位は後で個別で伝える。それと、自分の順位は口外禁止だ。しっかり守るように」
ガチャ、っとドアを閉めて出て行ってしまった。
「……ちょ、なによこれ! シュナぁ〜助けてよ〜」
「あはは……ほんと急だね……とりあえずエアリス頑張って!」
「うん! シュナに言われたら頑張るしかない! 行ってくるね!!!!」
「せいぜい最下位にならないように頑張れよー」
「このグルド! うるさいわね! あんたの方こそ気抜いてると退学になるわよ!」
「退学……か……」
本当にいきなりのことだ。いつも先生は褒めて伸ばしてくれる。でも今回は少し違う雰囲気を感じた。これは本当に……退学者が出る。ルール上最低でも1人は出てしまう計算だ。
生前、こんなデスゲームみたいなことはしなかった。あの終業式の後すぐに家へと帰ったのをうっすらだが覚えている。
あれこれ考えながら約10分後、エアリスが帰ってきた。
「はい、次グルド。頑張って」
「お、おう……」
何をされるか分からぬままグルドは第3競技場まで向かっていった。
「な、なぁ……エアリス? なに……したの……?」
「喋るなって言われたのよ。トム、あんたボケっとしてるとまじ落ちるわよ」
「ひゃ、ひゃい!! ……うぉーーー! 燃えてきたぜ! 早く俺の番来ねぇかな!!!」
本当にトムはバカだ。こんなのでケロッと退学されたらなんて声掛けたらいいかわからなくなってしまうじゃないか。
そうして時は進み、俺の番が回ってきた。
「バッド、頑張れよ」
「うん。ヒュームありがとう。あのトムの顔みたら……まじ頑張らなきゃって思ってた」
そのトムの顔はまさに(終わった)という顔をしていた。こんな青ざめたトムは初めて見た。ただのお遊びじゃないって事は改めて分かった。
俺は教室を出て第3競技場へと向かった。
……俺に出来んのかなぁ。
不安がよぎる。正直、この4ヶ月間、成長はした。でも、もっと成長できたんじゃないかと言われればそんな気もしていた。
伸び代しかない俺は俺に少し甘えていた。
そりゃそうだ。伸び代しか無かったんだ。初めは全部が上手くいって全部が成長に繋がるに決まってる。
「ま、やって見なきゃわかんないしな」
俺はパン、っと両頬を叩き、早足で目的地へと向かった。
──────
「よし、来たなバッド」
「あの、先生。1VS1って……何をやるんですか?」
「ルールはシンプル。俺に触れたら終了だ。触れなくても俺の判断で終わりと言ったら終わりだ。いいな?」
「……分かりました」
「さぁ、いつでもいいぞ」
先生に触ったらいい。ただそれだけ。でも、それだけが遠い。
先生の得意魔法は重力魔法。範囲内の重力を操れる魔法だ。一見最強と思えるこの魔法だが実は繊細だ。これは前に先生が言っていた。
だから俺がやることは……!
ダンっ!!!
「ほう……」
最高速度で先手必勝だっ!!!!
俺は両足に波動魔法を溜め、一気に解放してサラン先生へと走り出した。
俺の得意魔法、波動魔法は見えない波動を生み出し、それを破裂させた時に一気に魔力を放出する魔法だ。大きさは大きければ大きいほど破裂させた時に放出される魔力の量と威力は上がっていく。
破裂のタイミングは自分で調整でき、足元で破裂させれば体に魔力を流さずものすごいスピードを出すことが出来る。
もちろん、相手の近くで破裂したり拳に纏わせ相手を殴った時破裂させれば相手は吹き飛んでいく優れものだ。
ただし、一概に最強! 使いやすい! って訳でもない。
今の俺には一度に作れる波動の限界は2個。2個と言っても2個目を作ってしまうと1個目の波動への意識が難しくなってしまい、上手く破裂させるとこが出来なかったりする事もある。まぁ、かなり小さなものであれば複数個作るのも可能な気がするが試したことは無い。あんまり使い所無さそうだし。
あとは生成スピード。2つの波動を一気に生み出してしまったり、超絶スピードを出すくらい大きな波動を作ってしまうと次の波動を作るのに数秒時間がかかってしまう。
この前検証したところ、次の波動を生み出すのに約6秒ほどかかることが分かった。ポンポン使える魔法ではないということだ。
だから、今の俺に出来る最前の行動は……これだ!
足元に大きな波動を生み出し飛び出しの瞬間に破裂させる。安定を求めて2つ目の波動は作らない。それが最善策だ。
俺は一瞬にしてサラン先生の目の前へとたどり着き、手を伸ばした。少し驚いた表情を見せた気がした先生だったのだが……
「ぐへっ」
「そんなど真正面から突っ込んできても俺の魔法の餌食になるだけだ。もっと頭使え」
「くそっ……もう1回……!」
「バッド、もう終わりだ。教室に戻ってヒュームを呼んでこい。あと、分かってるだろうが対戦内容は口外禁止だ、いいな」
「はい……」
俺の1VS1は呆気なく終了した。
──────
「よし、みんな受けたな。これから1人ずつ数字の書いた紙配るから呼ばれたら来い。あ、これ誰にも見せんじゃねぇぞ」
恐らく数字は順位が書いてあるのだろう。
「エアリス」
「はい」
「グルド」
「はい」
「シュナ」
「はい」
「トム」
「はい!」
次だ……
「バッド」
「……はい」
俺は先生から紙を受け取り、中身を見ないで席へと戻った。手で隠しながらそーっと4つ折りにされた紙を覗き込んだ。
「……あ」
そこに書かれていた数字はこのクラスの人数の7であった。
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