第33話 実技演習

「魔法は向き不向きがあるが、一応誰でも使える物だ。感情的になってる時程、意外と使えるようになるって調べもあるぞ」


 ゴスイ魔法学校、魔法科。午前は座学で、冒険者と言う職業についてや、魔法の使い方や種類、今まで見つかってきた珍しい魔法についてなどを学ぶ。

 もちろん学校なので、必修で言語や数学、歴史なども学ぶ


 そして午後。今、俺ら魔法科の生徒はグラウンドに来ている。


「はい、揃ったな。午後は実技演出だ!」


 実技。そう、魔法を使えるようになるための授業だ。1年で使い方を学び2、3年で応用や細かな実戦での使い方を学ぶ。

 そして、俺はこの実技で1度も魔法を出せるようにはなれなかった。


「先生。今日からもう俺らも魔法使っていいんですか?」


「一応ゴスイに入学した時点で使用の許可は降りてる。だが、授業外でむやみやたらに校内での使用は原則禁止だ」


 そういえば、生徒手帳にも書いてあったな。まぁ、魔法使えないからまだ俺には関係ないんだけどな。


「でも、今日はまだ魔法は使わないぞ。1週間は魔力に慣れてもらう。既に16の代もいるとは思うが、基本魔力に触れてきてない生徒が多い。だから魔法は今度だ」


 魔力に慣れる。これならバッチグーだ。なんなら俺は魔力しか使えない。もう一生これでもいい……いや、だめだ!!! 魔法使えるようになるんだろ?


「なんだ使えないのかよぉ」


「でも、ちょっと面白そうじゃね!?」


「シュナちゃんは魔法使ったことあるんでしょー!?」


「ま、まぁね……」


「君たち授業中だぞ! 静かにしろ!」


 生徒の私語が飛び交う中、サラン先生が何か丸いものを沢山持ってきてグラウンドへと投げた。


「これ……は?」


「魔力入試でも使ったから覚えてるとは思うが、魔力水晶だ」


「魔力……水晶?」


「こいつは、まぁ、分かりやすく言えば魔力を入れたり出したり留めたりしたりできる水晶だ。試験の時はこちら側から吸収する形で水晶に魔力を流したが、今回はお前ら自身にこの水晶に流してもらう。そうすれば自分でその魔力を回収することも可能だ。1週間、これをやってもらう」


「1週間って……流石に少し長いと思います」


「そうか……じゃ、ラミリエル。初めにやってみろ」


 お嬢様のような見た目をした彼女に、先生は水晶を渡した。

 彼女は両手で水晶を持ち、魔力を流そうとする……が、


「流れ……ない」


「そうだ。初めはそんなもんだ。一日で出来るやつはなかなかいないな」


 そう言ってサラン先生も推奨を持ち、手本をやって見せた。


「魔力がちゃんと流れて留まっていたら色が紫から赤や黄色っぽく変わる。こうなったら成功だ。はい。開始だ!」


 みんなが水晶を拾い、魔力を流し始めた。

 俺は知っている。この行為の難しさを。でも……ありがとうストローグさん!!


「おっ……やっぱ16の代は出来てるな」


 俺の隣には筆記1位の彼、ヒュームの姿があった。そして、彼は難なく水晶に魔力を流すことに成功していた。


 そして俺の向かい側辺にいる彼女。そう……シュナだ。シュナも軽々と成功していた。


 よし……俺もやるぞ……! ……ってあれ?

 色が変わりそうで変わらない……


 そうだ。そういえばそうだ。俺……他のものに流すの苦手なんだった……


「バッドはもう少しで行けそうだな。他の奴らは……まだまだだな。ほら頑張れ」


 こうして約30分間、水晶に魔力を流す授業が続いた。


 うーん……やっぱり出来ないっ!!!


 ──────


「じゃ、そろそろ終わるか」


「え! もう終わりっすか!?」


「あぁ。そんなに魔力使いすぎても危ないしな。ってことで……これから体力トレーニングだ」


 体力トレーニング。その言葉を聞いた瞬間、生徒たちの顔は曇った。


「はい。グラウンド10週! あまりにも遅いヤツは……明日1周追加だ」


「ちょっと待ってよ! 私たちは魔法科よ。こんな剣士科がやりそうなこと……」


「体力と魔力は比例する」


 エアリスの発言に食い入るように話す先生。体力と魔力の比例。初めて知った。じゃあ……体力トレーニングも一応理にかなっているのか。


 それにしてもエアリス……あれ?


「じゃあ……仕方ないわね。さっさと終わらせましょ、シュナ」


 あっさり受け入れたエアリス。彼女はシュナと仲良くしてくれている感じだ。良かった良かった。俺も親の気持ちが分かってきたかもしれない。


 そんな女子とは裏腹に男子は……


「なぁ、グルド、バッド。負けたヤツ……今日の夜飯奢りな!」


「ちょ、待って……」


「いいなぁそれ。乗った」


 なんで乗り気なの……!? 体力に自信が無い訳じゃないけど……あれ?

 俺の目線の先にはもう既にグラウンド10週したかのように青ざめている人がいた。


「ヒューム君……大丈夫?」


「……ヒュームでいい。あと、大丈夫だ」


 多分だが、大丈夫じゃない。長距離は苦手なのだろう。気の毒だ。でも、魔法科入ってこんなに走らされるとは思わないよなぁ。


 そんなこんなでみんなスタート位置に着く。女子は内側のトラックで男子は外側のトラックだ。


「よーい……初め!」


 サラン先生の掛け声に反応し、グルドとトムが全速力で走り出す。

 早いって!! 後先考えないタイプかよ……


 なんだかんだでその2人に食らいつく俺だったが、3週ほどした時、俺はもう1人の存在を思い出した。


「ヒューム……」


「バッドか……君は余裕だろう……先に……行けよ……」


 俺には分かる。ヒュームは焦っている。周りとの差に。

 俺からしたらそんなに気にすることでもないが、彼は違うのだろう。


 みるみるうちにスピードが落ちていくヒューム。俺はそのスピードに合わせた。


「僕を……煽っているのか……? 君は……夜ご飯を賭けているのだろ……?」


「もうそんなのどうでもいいよ。俺も分かるんだ、周りに劣ってるって分かった時の気持ち……」


 何も出来ないと分かった時。そんな時、人は辛い。悲しい。そして、哀れだ。


「でも……君は……」


「あーもう! うるさい、今日は隣で走るよ。正直早く走るの好きじゃないし」


「バッド……」


 ヒュームは荒い息を押し殺し、俯きながらこう言った。


「ありがとう」


 俺はその言葉に笑顔で答え、共に残りの7周を走った。

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