第32話 校則違反
「そんでさ、俺家族とか村の人達とか全員にバカにされて……悔しくて必死に勉強して、魔力の増やし方も調べて頑張ったんだ」
「トムって……意外と努力家なんだね」
「意外とってなんだよ!!」
なんだかんだ学食を食べ終えたあとも長話をしてしまい、時間は午後3時を回っていた。
「まー、そろそろ行くか? まだまだ混んでるし」
「そうだな! バッド、グルド! 今日から俺たち友達だな!」
「……うん!」
友達。正直最近まで欲しいとも思わなかったし、できるとも思っていなかった。
これが……男友達……か。
こうしてファーストコンタクトを終えた俺たち3人は各々部屋へと戻って行った。
トムは一人部屋と言っていたので、恐らくあの筆記1位の彼は実家暮らしだろう。
ちなみに校則に「寮で自分以外の部屋に入ることを禁止する」と、書いてある。まぁ、いつか破るんだろうけど、まだいい子にしておこう。
「よーし、カーテンとカーペットと……」
「本当に模様替えするんだね……」
「当たり前だろ! 新生活なんだから」
それから自室で俺とグルドは模様替えを開始した。本当に俺の事をいじめていたのかと思うくらい、俺は彼と仲良くなり、友達となった。
そして夜も更け、消灯時間の11時をすぎた頃だ。
「なぁ……バッド。まだ起きてるか?」
「起きてるけど……どうした?」
「……お腹空かないか?」
「まぁ……空いてはいるけど……食べるものなんて……」
そう言うと、2段ベットの上の段から頭をひょっこり下の段にいる俺に見せてきた。
「行くんだよ……」
「どこに……」
「隣町の飯屋だ……夜しかやってないクソ美味い店があるらしいぞ……」
「でも……校則違反になっちゃうよ……」
「大丈夫だ……! 俺に任せろ……」
「でも……」
正直、ワクワクしていた。夜中に街へ出て校則を破って、先生にバレないかヒヤヒヤして。
こんな会話が初めてだし、楽しかった。
「俺は……行くぞ……!」
「じ、じゃあ……俺も……!」
「よしきた……!」
俺とグルドはゆっくりベットから抜け出し、お金をポケットへと入れ、ゆっくりと部屋のドアを開ける。
「よし……誰もいない。行くぞ」
前を歩くグルドについて行き、寮の階段を降りた。
「暗くて見えねぇな……」
「確かこっちの方が玄関……わっ!!」
感覚で歩いていたその時、俺は何かに衝突した。壁ではなく、何かに。
「あんまでっかい声だすな……って、あ」
グルドが声をかけた瞬間、俺がぶつかった正体が顕になった。
右手から光を点し、顔が見える。
「ここで何をしている。バッド、グルド」
「サラン……先生……!」
やばい。早すぎる。見つかるのが早すぎる。まだ外にも出れてないじゃん! ワクワク返してよ!!
てか……これは本当やばいかもしれない。ちゃんと校則は確認してきた。
最悪の場合……退学になるということも。
「あ、えっと、これは……!」
「何をしていると聞いたんだ」
焦るグルドに問いつめるサラン先生。俺は必死に頭を回転させた。
考えろ考えろ……! ここで1番ありうることで校則を破ってもギリ許されそうなこと……!
「せ、先生! 実は……両親から貰った俺の大切な指輪無くしちゃって……」
「ほう……」
「それで……グルドが探しに行こって言ってくれたんです。夜は静かで魔力を感じることが出来たので……」
「それで? 見つかったのか」
「はい。いまさっき見つかって今から戻ろうとしてたところでした」
「グルド。本当か?」
「え、あ、おう。そうだ……そうです」
「だから……グルドは悪くないです。もし……罰則があるなら……俺だけです先生」
ここは謙虚に大作戦だ。友達は売らずに俺を売る。そうすれば意外と慈悲で許してくれるだろう。先生も鬼では無いはずだから……
「……まぁ、今日は許そう。次、無断で外に出たら2人とも処罰を下すからな。物の管理もしっかりするように」
「「……はい!」」
た、助かったぁ……グルドの1.5倍生きてるだけあった。ここで見せる大人の意地だ。
こうして俺とグルドは先生に部屋まで案内してもらい、自室に戻ってきた。
「……マジでありがとう」
「あ、いや、お礼はいいから。俺もちょと乗り気だったし……」
ギュルルル……
「お腹……空いたな……」
「1食分なら※魔力飯あるけど……一緒に食べる?」
「……いいのか?」
「もちろん」
「マジで助かる!!」
俺は魔力飯に魔力を流し、温めた。
「「いただきます」」
魔力飯は簡単に作れる代わりに味はあんまりだ。でも、2人で食べるこの魔力飯は段違いに美味しかった。
※魔力飯……魔力を流すことによって温め解凍できるご飯のことである。
──────
キーンコーンカーンコーン
「えっと、今日から授業が始まるが……もう既に校則を破ったヤツらがいる」
ギクッ
俺とグルドは瞬時に目を合わせ、2人で焦った。でも許すって言ってたよね……? あれ……もしかして嘘?
「でも、理由を聞いたら、まぁ、友達の為にって訳だったから許した。嘘バレバレだけどな」
……嘘なのバレてたぁ。終わった……公開処刑だ……どうしよう……
「だけどな。お前らよく聞け」
サラン先生の声色が明るく変わる。今までの先生とは違ったその声色に、みんなが驚き話を聞き入った。
「学生のうちはたくさんルール破れ。ルール破ったって死にやしない。でも、何もなしに破っていいってわけじゃぁねぇぞ」
教壇を行ったり来たりしながら、サラン先生の話は続く。
「例え校則を守ったとしても、誰かが傷付いたり、悲しんだり、最悪死んだり。そんなことするくらいなら破った方がマシだ。この世界こんなことゴロゴロ出てくる」
教卓の前に戻ってきた先生はバンッ! っとその教卓を叩き、最後にこう言い放った。
「仲間を見捨てる人間にだけはなるな。いいな」
その言葉に教室にいる生徒みんなが「はい!」と答えた。
サラン先生。初めは少し怖くて、気難しい人だなと思ったけど……全然違った。
俺はこの先生が担任でよかった。
そして、ごめんなさい。先生の望む人間に俺はなれずに死んだ。だから、これからは先生の望む人間に。
多分、そんな人間が俺の求める俺だ。
よし……頑張ろう。
こうして、初日の授業が始まった。
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