第3章

第30話 入寮

「新入生の皆さんはこちらに」


 俺とシュナは入寮の最後の手続きを終わらせ、先生の指示に従い自分の部屋へと向かったいた。


「女子寮は3階らしいから今日はここまでだね」


「うん。明日から新生活頑張ろう」


 ゴスイ魔法学校学生寮。1階は学生の共用スペースで、2階が男子、3階が女子寮となっている。


 学生の半分が入寮するらしいが、魔法科の人数は少なく、ほとんどが剣士科が占めている。


 1階の共用スペースには、大浴場や図書室。その他生活に必要なお店など様々な物が揃っている。

 さすが、最大の魔法学校って感じの揃いっぷりだ。


「俺の部屋は……218……ここか」


 2階の廊下を歩き、自分の部屋を見つける。

 基本、2人1部屋の生活だ。


 これが何を意味しているかと言うと……


「優しい人だといいな……」


 そう。こんなところであのいじめっ子何かと同じ部屋になってしまったら……あぁ。考えるだけでゾッとする。

 何をされたか覚えてすらいないのに、身体が強ばる。


「……よし。行くぞ」


 俺は大きく深呼吸をし、自分の部屋のドアを開けた。

 目の前には二段ベッドが備え付けられており、勉強机もふたつあった。部屋は実家の自室よりも全然広く、快適な部屋であった。


 そして、相方の入寮はまだ完了しておらず、誰が一緒の部屋かは分からなかった。


「はぁ……とりあえず片付けるか」


 俺は持ってきた洋服をクローゼットにしまい、制服を掛けた。

 その他生活に必要な物をしまい、片付けるは終わった。


 最小限にって思ってたけど……さすがに少なすぎたかな。暇だな……


 二段ベッドに先に寝っ転がるのは申し訳ないと思い、床に体育座りしていた、その時だった。


 ガチャ


 き、来た……!

 ドクンドクンと心臓が脈を打つ。


「お、お前が同室なのか。よろしくな……ってお前なんで床に座ってんだ?」


 入ってきた相手のその言葉に対して、俺は声が出なかった。

 その理由はそう。もちろんみんなが考えてるそれだ。


 目の前にいるその男。そいつはまさに俺をいじめていた男であった。


「荷物とかって……あ、ここか。こっちのやつ借りるぞ」


 何も話さない俺に一方的に言葉をかける彼に、俺は完全に脅えてしまっていた。

 一旦作戦立てなきゃ……!!!


「ご、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」


「あ、あぁ……」


 俺は足早に外に逃げ出し、トイレへと向かって走って行った。

 空いている個室に逃げ込み、便器に座る。


 俺はこれからどうするのが正解だ?

 まずは変に怖がらないで話すところからなのだが……怖い。


 なんでか分からないけど言葉が出せない。

 このままじゃ……同じじゃないか。


 俺の目標はいじめられないこと。彼と仲良くなる必要は無い。でも……仲良いに超したことはないか。


 考えてみれば俺と彼はまだ初対面だ。ここから関係性を築く仲だ。

 ……よし。とりあえず頑張るぞ……!!

 頑張れ……俺……!!


 俺はトイレの個室から意を決して出て行き、部屋へと向かった。


 ガチャ


 自分の部屋のドアをゆっくりと開ける。

 すると、目の前には床に座っている彼の姿があった。


「あ! お前名前も言わずに出て行くなよ!」


「え、あ……ごめんね。えっと……俺の名前はバッド。君は?」


 部屋に入りながらそう訪ね、俺も床に座る。


「俺の名前はグルドだ。これからよろしくな」


 グルド。全く変わらないその名前を聞いた時、彼は手を伸ばし、握手を求めてきた。

 恐る恐る手を伸ばし、伸ばしきる前に俺の手は捕まり、ニコっ、と微笑まれた。


 なんだろうこの感覚は。本当に俺はいじめられていたのだろうか。しかも彼に。分からない。もう……分からないよ。


「んで、バッド。お前がいないから机とベッドの場所決めれなかったんだ。どっちがいいとかあるか?」


「あ、えっと……別に俺はどっちでも……」


「じゃあ俺が上な!! 机も奥!!」


 そう言った瞬間にグルドはベッドに飛び乗り、寝っ転がった。


 グルドの印象は180度変わった。完成しつくされた完璧な人間だ。


 まぁ……いっか。もう違う人生なんだ。変化くらいあるだろう。普通に接しよう。怯えるのはやめよう。


「グルドは……どこから来たの?」


「イリト大陸だ。海渡ってからまた2日歩いてやっと着いたよ。でもセトラ大陸は涼しくて過ごしやすいな」


 床から立ち上がり、先程決まった机の椅子に座りながらそんな質問をした。


「バッドはどこから来たんだ?」


「俺はセトラ大陸出身だよ。ゴスイも歩いて1時間くらいで着くんだよね……」


「近っ!!! なんで入寮したんだよ!!」


「なんでって言われても……気分?」


「ははは! 気分ってなんだよ! 結構学費高くなるだろ?」


 普通に会話し、普通に笑いあった。前の出来事が嘘のように、俺はグルドと仲良くなった。


「バッドは魔法科……だよな?」


「そうだよ。グルドは?」


「もちろん魔法科だ。よかった〜聞いて魔法科じゃないとか言われたらどうなるかと思ったよ」


「でも……剣士科もすごいと思うよ」


「違ぇよ。剣士科がダメなんて言ってねぇだろ。俺バカでアホだから上手いこと言えねぇし出来ねぇんだ。すぐ気に触ること言っちまうし」


 ちゃんと考えて話しているんだ。

 なんか……意外だ。


「しかも俺は多分受かったのはたまたまだ。魔力量とかは分からねぇけど、筆記は全然わかんなかった」


「俺もたまたまだよ。でもさ……受かったならいいじゃん」


「……そうだよな。俺たち受かったもんな!!」


 初めての男友達。グルド。俺は彼のことを見間違えていたみたいだ。


 でも、そう簡単に未来が変わるなんてことは無いと、まだ俺は知らなかった。



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