第29話 過去より未来に

 お祝いの日から数日が経ち、入寮の日がやって来た。


「バッド……大きな休みには帰ってくるのよ?」


「うん。絶対帰ってくるよ」


「バッド。気をつけるんだぞ。変なやつには絡まれないようにな。あと、お金関係はもっと気をつけろよ……」


「分かったよ、お父さん」


「じゃあ……頑張ってね」


 名残惜しそうに俺を見つめる両親の顔を見て、俺は嬉しかった。


 俺を見届けてくれる人がいる。俺を応援してくれる人がいる。俺を……大切にしてくれる人がここにいる。


 当たり前。一般的には当たり前かもしれない。でも、この幸せは俺にとって当たり前じゃなかったんだ。


「うん。頑張ってくる……」


 堪えていたものが溢れ出してしまう。両親の前で俺は、ただただ泣きじゃくった。

 この涙の意味はなんなのだろうか。家を出る悲しみだろうか。それとも、今目の前に両親がいることへの安堵だろうか。


 正直こんなことどうでもいい。今はたくさん甘えられるのだから。


 静かに見守るお母さん達。俺は2人に向かって飛び込んだ。


「お母さん……! お父さん……!」


 何も言わず抱きしめてくれる2人の身体は、とても暖かかった。


 しばらく経ち、俺の溢れ出る物もおさまり、いよいよ出発の時間となった。


「じゃあ……行ってきます!」


 もう出すもん出しきった。ここに捨てていくものは無い。

 次戻ってきた時、また捨てに来よう。


 両親に見送られ、俺は外への扉を開いた。


 ──────


「ストローグさん。数ヶ月でしたが……お世話になりました!!」


 ここはシュナの住む村。シュナも入寮するらしく、今日は一緒に行く事になった。

 そして、今はストローグさんの家に挨拶に来ていた。


「なんだろうな、まぁ……寂しくなるな」


「なんですか? その顔」


「何でもねぇよ! 弟子って言うのが初めてだったからよ……ちょっと……な?」


 少し悲しそうにするストローグさんを見て、俺は少し笑ってしまった。


「ははは! なんですかそれ!! 俺はずっとストローグさんの弟子ですよ。こっち戻って来たら絶対会いに来ます」


「……そうか! じゃあ早く行け!! 強くなってこい早く!!」


「ちょ! 感動の別れなのに、何催促してるんですか!!」


 こんな会話が俺は大好きだった。初めはちょっと抜けてる人で、ダメダメな人とか思ってたけど。

 今では死ぬほど尊敬できる師匠だ。


 本当にあの時、いきなりのお願いに答えてくれてよかった。そして、あれがストローグさんで本当によかった。


「じゃあ……シュナの所行ってきます」


「あぁ。行ってらっしゃい。気を付けろよ」


 あっさり別れの言葉を告げ、俺もあっさり家を出ていった。

 これでいい。これくらいがちょうどいいんだ。

 また会ってたくさんお話しよう。


 俺はシュナの家へと向かって歩き出した。


 ──────


「シュナをよろしくね。バッド君」


「はい。ゴスイ誘ったからには責任持ちます」


「バッドは責任なんて追わないでいいんだよ。私が行きたかったんだから」


 シュナとリュナさんと話しながら村の出口まで向かっていた。

 リュナさんは「そこまでは」と言って、送ってくれることになった。


 そして、村の出口。


「じゃあ……ここまでね」


「ありがとう、お母さん。行ってくるね」


 意外とあっさりした別れに俺は少し驚いてしまった。俺もすかさず、リュナさんに挨拶する。


「俺もお世話になりました。色々良くしていただいて」


「いえいえ、バッド君こそいろいろとありがとね」


 俺はふと、リュナさんの顔を見ると、目の周りがパンパンに腫れ上がっていた。

 そしてチラッ、とシュナの方も見る。シュナも同じ様に目が腫れていた。


 なるほど……もう出しきった後か。ここは触れないでおこう。


「シュナ……もう大丈夫か?」


「うん……また休み入ったら帰って来れるもんね……! よし! バッド、行こう!」


 こうして俺とシュナは村の外に歩き出した。


 この1年間、色んな人と出会って色んな人にお世話になった。

 この色んな人は、生前会ったことない人も多かった。でも、この出会いのおかげで、俺の最悪の未来を変えることが出来たし、人生に彩りが増えた。


 今、確実に俺は成長している。過去まえの俺よりもしっかり未来さきに進めている。

 後はもう、どの最悪も見ない。そして、俺の最高を現実にする。


 最悪だった俺の編集。これも忘れるな。ケイトは今も頑張ってるんだ。


 でも……これは大きな進歩だ。変わる。これが分かっただけで、俺の目標は否定されていない。


「バッド……いよいよだね」


「うん……これからも頑張るぞ……!」


 目の前にあるゴスイ魔法学校。俺の新しい物語はここからスタートする。


 必ず変えてやる……2つ目の最悪も!!!


 ──────


「久しぶり、ケイト君」


「スペルさん、お久しぶりです」


「警察寮の生活は慣れたかな」


「初めは怖かったですけど……意外といい人ばかりで、思ったより早く慣れました」


「そうか。ならよかったよ。それで、今日はケイト君に話があってね」


「話って……なんですか?」


「非常に言い難いんだが……君の、両親が亡くなった。原因は不明だそうだ」


「……え?」


 未来を変えたい。そう考える者もいれば、そうではない者もいる。

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