第25話 合格発表

「バッド!!! ゴスイから手紙来たわよ!!!」


 試験から1週間が経ち、合否の分かる手紙が家に届いた。

 この一週間、ストローグさんのご好意で修行は休みとなり、変にソワソワしないよう、シュナの村にも行かなかった。


 毎日昼に起きてぐーたらして寝る。それを一週間続けた。

 それはそれで辛かった……


 俺はお母さんの叫び声を聞き、リビングへと向かった。


 ゴスイから届いた手紙は白い封筒の中に入っており、それを開けると中から1枚の紙が出てきた。


 この紙は特殊な魔法で作られており、受験者がこの紙に掌をくっつけると色が浮び上がる。

 赤なら合格、青なら不合格だ。


「バッド……もう……見るのか?」


「うん。焦らしても仕方ないし」


 ……怖い。内心すごく怖い。

 この一週間、結局ソワソワしていた。


 ケアレスミスないとは限らないし、魔力の量だって本当は少ないとか、減ってるとかあるかもしれないし……あーーー! もう怖いよ!!


「バッド。お母さんは落ちても……責めたりしないからね」


「それは落ちてから言ってよお母さん。じゃぁ……行くよ」


 俺は机に置かれたその紙に、右の掌をぺたっとくっつけた。

 魔力の移動を感じる。そして、紙の変化も。


 見るぞ。見るぞ見るぞ。見る……ぞ!!


 俺はゆっくりと手を離した。


「あ……赤」


「バッド!! 合格よ!!」


「よくやったな!! バッド!!」


 赤色。まさにそれは合格の色であった。

 ……良かった。本当に……良かった。


「お母さん、お父さん……ありがとう!!」


 俺は無事、ゴスイ魔法学校の魔法科に合格することが出来た。

 ……やったよ!! やったーだよ!? マジでやったぁ!!! だよ!!!


 しばらく余韻に浸り、家族で会話をした。


「じゃあ……シュナとストローグさんのところに報告に行ってくる」


「ストローグさんによろしく言っといてね。あと、気をつけて」


「うん。行ってきます」


 俺は合格通知書を持ってシュナとストローグさんの住む村へと歩いて向かった。


 ──────


「ち、ちょ、苦しいですよ、ストローグさん」


「うるさい。おめでとうのハグだぞ」


 俺はまず、ストローグさんの家へと向かい、合格を報告した。すると、ストローグさんは間髪入れずに俺を抱きしめた。


 裏でかなり心配していたらしく、この報告は俺と同じくらい喜んでくれた。


 しばらくしてやっと、ストローグさんの包囲から逃れ、一緒にシュナの家まで行くことになった。


 しばらく歩き、俺とストローグさんはシュナの家に着いた。


「すいません。バッドです」


 そう言った瞬間、玄関のドアはガチャ、っと開いた。


「バッド君ね。シュナは今散歩してて……怖くてまだ合否見れてなくてさ」


「そうなんですね……」


「バッド君は……どうだったの?」


「……無事」


 そう伝えるとリュナさんはほっとした表情を見せてくれた。この村の人はみんないい人だ。


「バッド……?」


 その時、ちょうどシュナが家に帰ってきた。


「シュナ。まだ合否見てないんだよ……ね?」


「う、うん。バッドは……まぁ合格だよね」


 なんだか気まずい雰囲気だったが、ちゃんと合格したということを伝え、シュナの合否を一緒に見ることになった。


「い、行くよ。い、行くからね? じ、じゃあ……行くよ?」


 俺もかなり緊張している。シュナの様子を見れば誰でも緊張するだろう。

 彼女はこの二ヶ月間、かなり頑張って勉強していた。


 基本、受験生のみんなは14歳。シュナは15歳。そう言った所も無意識に重荷になっていたのだろう。


 中々紙に手を付けれない彼女の背中をポンっ、と手を置いた。


「大丈夫。シュナの努力は無駄じゃないから」


 こんな無責任なこと言ってもいいのか。そんなこと考えられなかった。

 だって、彼女の努力は本物だったのだから。


「だよ……ね! じゃあ……本当に、行くよ」


 シュナが紙に右の掌をくっつけた。

 シュナの家族とストローグさん。そして俺は静かに見守る。


「離します……」


 シュナは恐る恐る手を紙から離した。

 紙に映し出された色。それは……


「な……に? これ?」


 その紙に映し出されていた色は、赤でもなく青でもなく、紫だった。


「ストローグさん、これって……」


「恐らく魔法印字のミスだな。直接ゴスイまで行って聞くしかねぇな」


 それを聞いたシュナは大きく溜息をつき、首の皮が繋がったような表情を見せた。


「シュナ。ゴスイまで一緒に行こう。1人だとソワソワしちゃうだろ?」


「……うん。そうしてくれると助かるかな。ありがとう」


「リュナさん達は……どうしますか?」


「私は怖くてみてられないから……家で待ってるわ。シュナの事よろしくね、バッド君」


 リュナさんがそう言うと、ストローグさんも無言で頷いた。

 こうして、俺とシュナはゴスイへと向かった。


 向かう途中、会話はかなり少なかった。俺は受かってて、シュナはまだ分からない。この状況、良く考えればまずかった。いや、まずすぎる。


 もし、シュナが受かってなかったら、帰り……いや何考えてんだよ!! バカ!!


 とりあえず、まぁ……静かにしとこう。


 そして1時間、俺とシュナはゴスイに着いた。


「じゃあ……俺はここで待ってるから。受験番号だけしっかり覚えておきなよ」


「うん……行ってくるね」


 俺は門の前で待つ事にして、シュナを送り出した。

 頼む頼む頼む……シュナ……受かってて……くれよ……!!


 30分ほど待っただろうか。遠くからこちらに歩いて来るシュナが見えた。

 その様子はまるでさっきとは変わらず、重たい表情だった。


 何も考えるな……俺……!


 シュナが俺のところまでたどり着き、立ち止まる。


「シュ……シュナ?」


 その瞬間、シュナは後ろに回していた手を解き、俺の目の前に持ってきた。


 シュナの手には紙が持たれていた。

 そして、その紙に彩られていた色は……


「バッド……合格っ!!!」


 シュナはそう言い放ち、俺に飛びついてきた。

 良かった……本当に良かった。


 シュナの右手には赤い色が浮かび上がった紙、合格通知書が握られていた。

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