第3話 出会い

「大丈夫……ですか……?」


「大丈夫……だ……よ……」


 俺はヤンキー二人にボコボコにされた。

 襲われると分かった時、咄嗟に右手がヤンキー2人に向いていたが、風ひとつ出すことは出来なかった。


 手を向けられた瞬間、ヤンキー達は少しビビっていたが、魔法が使えないとわかった瞬間、再度走り出しボッコボコにされた。


 少し経つと周りにいた人達が通報してくれて事なきを得た。

 ……いや、事なきを得てはないな。


 あーもう身体中痛い!! 顔も腫れまくって身体はアザだらけ!!

 なんで助けに行っちゃったんだろう……


「とりあえず立てますか?」


「う、うん……」


 俺はボロボロになりなが彼女の手を借り、フラフラと立ち上がった。

 正直意識はほぼなかったが、彼女に手を引かれ人気のないところへと連れていかれていた。


「さっきは本当にありがとうございました」


 礼を言う彼女。俺は返事をする力もなかった。

 弱りきった手を震わせながらハンドサインをする。


 その時だ。

 彼女が両方の手のひらをこちらに向けている。


 そして、なにか詠唱している。

 ……あれ? やばくね? オーバーキル狙われてね!?!?


「あ、ちょ……や、めで……」


「動いちゃダメ!!」


 声が上手く出ず、焦る俺に怒鳴る彼女。

 はぁ……マジかよ……ってあれ?


「なん……で?」


 俺の身体はみるみるうちに良くなり、パンッパンの顔もアザも綺麗に治っていた。


「もしかしてこれ……」


「しーーーっ! 誰かに見られたら捕まっちゃうでしょ!」


 彼女は人差し指を立て、唇の前に持っていきそのまま、俺の顔に近ずいてこう言った。


「え、あ、その、うん。分かってるよ」


 可愛い。マジで可愛い。本気で可愛い。

 俺は心の声を漏らさないので必死だった。


 これはもう間違えない。明らかに俺の元妻だ。

 アイツに寝取られた妻だ。


「本当にさっきはありがとうございました。私の名前はケイト。あなたは?」


「え、あっ。俺はバッドだよ。こちらこそありがとう」


 ケイト。そうだ。もう完全一致だ。

 でも、早すぎる。展開が早すぎる。


 本当ならケイトとの出会いは俺がゴスイ魔法学校を卒業した後だ。


 これってもしかして……未来が変わってる?

 俺が前の人生と違うことしてるから……ちゃんと未来が変わってる!?


「そんな私ができることなんてこれしかないからさ……あ! 今日この後暇?」


「え、あ、うん。暇だけど……」


「じゃぁ助けてくれたお返しにご飯でも奢ってあげる! 行こっ!」


「ちょ! 危ない危ない!」


 彼女は俺の手を取って走り出した。

 そうだ。昔もそうだった。


 俺がダンジョンで助けてあげた次の日。手を取って走り出してくれた。


 彼女のこんなところが大好きだったんだ。


 水を出す魔法を使えない俺は、走りながら涙一滴流してしまった。


 ──────


 ここは近くの居酒屋。


「え!? バッドもゴスイの魔法科受けるの!?」


「しーーっ! 声でかいよ!!」


 ケイトは机から乗り出し、バンッと机を叩いた手をそーっと戻し席についた。


「でも本当なの?」


「うん。受ける予定ではあるよ。受かるかは分からないけど」


「バッドなら絶対受かるよ! 私わかるもん」


「分かるって……なにがだ?」


「魔力量だよ! 今の私の倍くらいはあるんじゃないかな」


 そうなのか。子どもでも人の魔力量って分かるんだな。

 てっきり親とかすごい人とかの特権かと思ってた。


 ……まぁ俺は人の魔力量分からないんですけどね。


「そのネックレス……」


「あ、これ? これこの前お母さんに貰ったの。今は少し体調悪いんだけど、元気になったら色んなところ連れて行ってあげたいの!」


 やっぱりそうだ。この白く綺麗に光るネックレスには見覚えがあった。


「このネックレス綺麗でしょ〜! あ、もしかして欲しいから聞いてきたの? それは無理だな〜」


 それからたわいない会話を数時間続けた。

 この時間は、今までの中でも指三本に入るくらいに楽しかった。


 そして嬉しかった。またこうやってケイトと話せて。


 でも、まだ俺の中のわだかまりは解けていなかった。


 俺は彼女に裏切られる。アイツに寝取られる。

 アイツも悪い。でも、でも。ケイトだって……俺の事なんて……


「ねぇ! 次いつ空いてる!?」


 キラキラした顔でこっちを見つめながら質問する彼女。


 ……ははは。違ぇよ俺。何勘違いしてんだ。

 全部俺が悪いじゃねぇか。俺が彼女助けられなかったんじゃねぇのか。アイツから。


 そうだ。そうだよ。変えるんだ。

 今こうやってここに居れることは奇跡だ。


 だから無駄にするな。絶対に無駄にするな。

 俺は絶対に彼女を幸せにするんだ。


 もうくじけない。前だけを向けバッド。

 たとえどんな事があっても。もう負けちゃダメなんだ。



───あの時の俺みたいに絶対になるな。


「ねぇってば! 聞いてる!?」


「聞いてるよ! 俺は3ヶ月後のゴスイの入学試験以外毎日暇だよ」


「じゃあ、明後日……また……遊ばない……?」


 急にモジモジし始めたケイト。

 なんだよ可愛いじゃんかよ。やめてくれよ俺の中の俺が暴れだしちまいそうだ。


「……いいよ! 俺も遊びたい」


「……やった! じゃぁまた今日出会った場所に同じ時間!」


 こうして俺は初めての友達が出来た。


 ──────


「なんだか今日は気分がいいな〜」


 ケイトと会った日の夜。俺は気分が高まっていた。


 明後日何すんだろうなぁ。ショッピングかな。それとも美味しいものでも食べるのかな。


 ……やっぱり俺ケイトのこと好きだぁぁぁあ!


 これは一目惚れじゃない。完全に普通に前々から惚れていた。


 離婚してから何もかも絶望していた忘れていたけど、やっぱり好きだ。


「……まぁ頑張ろ」


 俺は疲れていたのか、気絶するように眠りについた。


 ──────


 2日後。俺は待ち合わせ場所に来ている。

 この前と同じ時間と言う待ち合わせだったが、かなり曖昧だ。


 ってことで気持ち早めに(1時間前)に到着した。

 まだかな、とウキウキしていると「バッド君!」と後ろから名前を呼ばれた。


「お待たせ! 待った?」


「いや、全然待ってな……」


 振り返った俺は驚愕した。


 へそ出しノースリーブにショートパンツ。

 俺のどタイプ過ぎて驚愕してしまった。

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