せっかくTSしたのに王子様役を押し付けられた僕は、女としての幸せをつかめますか?

金賀早紀

第一章 TSの王子様

第一節 『朝おん』で『TS』

第一話

 僕が通っている高校には、都市伝説というか、奇妙な噂があった。


――ある男子生徒が突然女に性転換してしまい、そのまま女子として卒業していった――


「……つまりそいつは、何の前触れもなく、朝起きたら女になってたわけ?」

 マンガみたいな話だと僕は思った。噂を教えてくれたクラスメイトが意味ありげにうなずく。

「そういうことらしい。だから、そういうのを『朝おん』と言って、それで女になった人を『TSティーエス』とか呼ぶんだってさ」

「うちは共学だから、女子の制服を着せられたのかな?」

「だろうな。女の体じゃ詰め襟なんて着られないし」

「実は女になったんじゃなくて、男のになっていた……だったりして」

「それじゃ性転換じゃないだろ。まあ、この噂だって十何年以上も前の話みたいだし、事実かどうか確かめようもないけど」

「そんな昔じゃ、誰も覚えてないよな」

 話半分に聞いていたから、それは全くの他人事であるとしか、当時の僕はとらえられなかった。


 それから一年後、ある晴れ渡った日の夕方近く。


 ここは大学病院にある産婦人科の診察室、女性の医師は僕と付添の母に対し、落ち着いた口調で説明を始める。

徳田柚希とくだゆずきさん、今のあなたの体は男性的な特徴が失われ、性器だけでなく性染色体レベルでも女性的なものへと変化しています」

「……もしかしてこれは、『朝おん』なんですか?」

「世間一般的にはそう呼ばれていますが、正式な名称は『突発型後天性女性化症候群とっぱつがたこうてんせいじょせいかしょうこうぐん』と言う症例に当たります」

「やっぱりそうなんだ……」

 自分の声から力が抜けていくのを自覚せざるをえない。

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