第2話 ⑤

 赤々と熟れた果肉のような落日は背後の雑木林に隠れ、私が立つ裏門にはすでに夕陽すら射さずに宵闇の絨毯が一面に敷き詰められ、空気も暖かみを掃き出し、冷気だけが渦巻いている。

 私は手袋で覆われた掌に、それでも冷え冷えと指先がかじかむのを耐えられず、息を吐きかける。湯気のような白い息が毛糸の縫い目から指に触れ、残りは仄かに上昇し、赤い残光で燃える校舎の壁面を背景に消えていく。何度も何度も同じことを繰り返し、私はひとりで最終下校時刻が近付きつつある夕闇の中で、図書室の窓を見上げていた。


 網辺愛梨は図書室を訪れたことを否定し、森との関係を一笑に付した。しかし、福家だけでなく、私も彼女が逢引きをしている可能性を疑ったことがあるくらいに、その醜聞は誰もが気になるところだ。今はまだ、ドッペルゲンガーという怪綺談として密かに語られているが、悪意が入り込めば、噂は網辺を傷付ける刃に豹変するかもしれない。

 ならば、そうなる前に真実を突き止めればいい。

 そのために、私は冷え込む冬の夕空の下、数日にわたって裏門から図書室の窓を見上げていた。しかし、中々ドッペルゲンガーの姿を見ることは叶わなかった。


「まりちゃん、どうしたのこんなところで。」

 薄闇がゆっくりと募る校舎裏に、場違いな明るい声が響く。弾むような軽い足取りで、手を小さく振りながら歩み寄ってきたのは三品林檎だ。ウェーブのかかった髪をシニヨンに結い、ふわふわとした人形のような可愛らしい印象から、すっきりとした上品な印象を受ける。

「ドッペルゲンガーの監視をしているの。」

 私は視線で図書室を示すが、まだ窓には何ものの影も映っていない。

「そっか、中で監視するんじゃあなくて、外からならば相手も油断するかもしれないもんね。すごい。」

「なかなか上手くはいかないけれども、」

 連日張り詰めているが、怪異譚の端緒すら私は掴めていないのだから、褒められる点などない。


「でも、今日は森先輩が図書当番だから、愛梨ちゃんが逢引きしに来る可能性はあると思うよ。」

 網辺の気持ちに関しては林檎に伝えたのだが、いまだに森と網辺が密かに付き合っている説を彼女は疑念として抱いているようだ。むしろ、先日覗いてしまった図書室の悶着を見る限りだと、森と付き合っているのは鈴宮で、それを林檎が知ったらどう思うのだろうか。

「林檎はどうしてここに?」

 彼女の帰宅通路は正門から続く坂道を下って、駅で電車に乗る手順で、裏門には用事はないはずだ。それに、手荷物は何も持っておらず、下校姿とも思えない。


「教室のゴミ捨てに来たの。掃除しながら、友達とお喋りしていたらゴミを捨てに行くの忘れてて、遅くなっちゃった。」

 小振りな口から舌先をチラリと覗かせ、握り拳で自分の側頭部を軽く殴る。私なんかがしたら許されることのないお茶目な仕草が、林檎には様になって可愛らしく映る。

「ゴミはもう捨ててきたの?」

 手ぶらの姿に私は首を傾げた。裏門がある校舎裏からぐるりと校舎の角を曲がり、荒涼とした雑草も生えていない花壇の隣にゴミ捨て場があるのだが、放課後になってずっと校舎裏で図書室を観察していた私の前を林檎が通りかかった記憶はない。

 見た記憶があるのは、裏門から下校する生徒数人と、校舎寄りの裏庭を駆けていく運動部員たちのランニングする姿だけだ。


「うん。反対側から回って、同じ路を戻るのが嫌だからこっちに回り込んでみたの。そしたら、まりちゃんが見えて、声かけたの。」

 林檎の教室を考えれば、反対側の経路を戻った方が近くて合理的だ。私ならば迷わずその道程を選ぶ。でも、林檎はそうした理性とは違う価値観で、選択し、道を選ぶ。背丈は同じで、見えている風景は同じアングルのはずなのに、どうしてこのような違いが生まれるのだろうか。

 可愛くいても、誰からも愛される三品林檎という存在が、網辺愛梨とは違う理由で羨ましく思う。もしも私が林檎と同じように服装や佇まいから可愛らしくあろうとすれば、それはおそらく――。


 記憶の片隅から、黒い腕が私にそっと伸ばされてくる。節くれ立った手が私に触れた瞬間、ぞくりと寒気が背筋に走った。


「あんまり無理しないようにね。」

 気遣う言葉を残して、林檎は手を振って去っていった。夕暮れの帳の中へと消えていく彼女の背中を見送りながら、私はコートの襟を掻き合わせる。

 連日夕暮れの寒空の下に数時間も立ち呆けているせいか、実は昨日から咳と洟が間断的にではあるが、零れるようになっている。この小さな身体を支える足にも、どこか平時の力はなく、浮遊感のような覚束なさを覚えていた。

 風邪どころか、熱も出ているかもしれない。


 ゴホゴホっ。肺から競り上がってくる淀んだ息を吐き出し、私は手足の寒気とは裏腹にぼんやりとする頭を鉄門に預ける。ひんやりとした感触が霞む思考回路を冷却し、にわかに意識が研ぎ澄まされる。

 ふう、と溜息を深くひとつ吐いて、私はしばし逸らしていた図書室へと視線を持ち上げた。そして、そこに女子生徒の姿を見かけた。


 骨川のように視力に優れているわけではないし、すでに周囲は墨汁を滴らせたかのように夜が波紋を描いて広がっている。距離の離れた建屋の窓に佇む人間を見紛うことなく判別するのはむつかしいが、それでもその艶のある鴉の濡れ羽色をした長い髪は網辺愛梨のそれだし、わずかに覗く横顔の輪郭も、彼女にとても良く似ているように感じる。

 本当に、網辺愛梨ではないのだろうか?

 何度目かの疑念が脳裏を過る。

 いいや、彼女が否定していたのだから、私はその言葉を信じるだけだ。

 正義を貫く彼女を信じなくて、何を信じるというのだ。

 ドッペルゲンガーの正体を確かめるため、私は図書室へと向かうために浮付いて力の入らない足を強引に前へと突き出した、その瞬間――

 頭上の図書室の窓に異変が生じた。


 黒髪を有する女子に、カーテンに隠れた黒いシルエットがゆらりと歩み寄ってきた。女生徒はその影に気が付くことなく、優雅に本棚を見詰めて本を探している様子だ。

 本棚の位置からすると、以前私が借りた網辺愛梨の名前が記された貸し出しカードが挟まっていた書籍が並んでいる棚だ。一冊一冊、彼女は選定をするように落ち着いた穏やかな仕草で背表紙を見回していた。

 その間も、影はのそりと歩み寄る。そして、窓際の背の低い棚の上に置かれていた花瓶へと手が伸びる。カーテンの合間から覗いた手は、シルエットよりも一層黒々としており、まるで悪意から湧き出てきた悪魔の手だった。


 その悪魔の手は花瓶の握りを掴むと、高々と振り上げて一気に振り翳す。狙ったのは網辺愛梨のドッペルゲンガーの頭部。

 音は聞こえぬはずなのに、私の脳内では鈍い音が響いた。


 殴られてはじめて不審者に気が付いたドッペルゲンガーは振り返り、相手の姿を認めると、何かを叫ぶように口許を大きく動かし、やがて不審者へと飛び掛かり、カーテンの陰で同じくらいの背丈のふたつのシルエットが縺れ合う。

 花瓶を振り回す手。身を防ぐために縮こまるかいな。掌と掌がぶつかり、隙を衝いて首へと伸びる腕。人を絞め殺す影絵が、まるで映画の一場面のように切り取られた図書室の窓に描き出される。


「早く向かわなくちゃあ、」

 怖ろしい暴力の現場を目撃し、私は力の入らない足を叱咤する。ぐるりと校舎を回り、立ち話をする生徒がたむろする昇降口へと向かうと、上履きに履き替えるのももどかしく、靴下のまま氷のように冷え切ったリノリウムの床を蹴る。

 昇降口から直接上昇することが出来れば図書室へ早く辿り着くのだが、校舎の構造上、Hの縦棒に当たる一号棟か二号棟に一度出なければ、階段はない。わずかに図書室への距離が短い二号棟へと私の足は自然と向かう。

 横棒と縦棒の接続点に、体育館へとつながる回廊があるが、そこに塚田の横に広い背中が見えたが、声を掛けずに素通りする。

職員室の前を抜け、階段を上る足がもつれそうになるのを懸命に堪えて、図書室のある階まで辿り着く。一階や昇降口には人の気配がいくつもあったが、特別教室が並ぶ廊下は水に付け込んだように静かで、床を這うように流れる空気の音が耳に付く。

節電のために部分的に蛍光灯が外され、壁際や物陰に渦巻く黒溜まりが目に付く。

 今しがた、黒いシルエットが人を襲う場面を目撃してしまったせいか、余所見をしている内に黒溜まりが襲い掛かって来るのではという恐怖が心臓の表面を冷え冷えとする感触で撫で上げていく。


 私には苦手なものがいくつかある。正義から逸脱する行為はもちろんだが、人を舐り嬲るような視線、そして物陰に潜む人の気配。

 今、視線や気配を感じることはないが、こちらを狙い定めているのではと考えるだけで、怖ろしさが這い上がってくる。しかし、図書室では今にも生命の危機に瀕しているかもしれない重大事が起きている可能性が高い。人助け以上に正しい行いがあるわけがない。

 身体の内と外に絡み付いてくる寒気と恐怖心を振り払いながら、図書室の扉の前に駆け寄る。心臓が激しく鼓動を打つのは、急いでやって来たからか、それとも怖ろしさからか。私は大きく深呼吸をひとつして、教室の扉を開けた。


 しんっ。


 音が聞こえてくるような静寂が、薄暗い室内を支配していた。窓から射し込む、残り僅かの夕日が沈めば、この活字の森もインクの黒に染められるだろう。

「電気を点けないと、」

 私は出入り口付近の壁を探り、電灯のスイッチを探す。しかし、今まで図書室の電源など気にしたことがなかったので、中々それは見つからない。

「何処にあるの、」

 焦る気持ちをなだめながら、自分の背が低い所為で見付からないのか、視線を持ち上げるがしかし見当たらない。


 仕方がない、と諦めかけたその瞬間、視界の端の本棚から黒い影が猛然と躍り出てきた。影は一直線に私へと向かい、身を強張らせる私の横をすり抜けて図書室を抜け出していく。

 しまったと思い、慌てて図書室を飛び出すと、廊下の奥に黒髪を靡かせて走る制服姿の女子生徒が見えた。

 ドッペルゲンガーだ。


 私は一号棟へと走る背中を追い、駆け出した。

 しかし、元々運動が苦手な上に、体調の優れない現状ではスカートの裾から覗く力強いふくらはぎの彼女に追い付けるわけもなく、その距離は瞬く間に広がっていく。それでも後を追い、廊下の角を曲がり、階段を降る。反響する足音が階下から木霊し、姿は見えないがその音を目印に私は脚を前へと進める。


「どっちに行ったの?」

 しかし、一階まで階段を駆け下りた時には、後ろ姿も足音も感知することは出来なくなっていた。左右に伸びる廊下を見回すが、染みのように点在する黒い影のほか、生徒や教師の気配はない。


 ギッ……、

 背後で、金属の軋む音が微かに耳を撫でた。地下に続く階段がないので気にしなかったが、振り返るとコンクリートの広い土間の先にある非常口の鉄扉が微かに揺れていた。

 弾かれるように私は扉の冷たいノブを握り、扉を押し開ける。すると、疾風が目の前をいくつも通り過ぎて行った。

 ネックウォーマーや手袋をして防寒対策をしたジャージ姿の疾風は、校舎回りをランニングする運動部の部員たちであった。校庭や体育館も面積には上限があり、割当てがない日は筋トレや体力作りのランニングなどが多くの運動部で共通の活動となっていた。

 本来訪れることの少ない校舎裏の一角で、ぼんやりと目の前を走り去っていく運動部員を見遣っていると、見知った顔と遭遇する。


「あら、どうしたのこんなところで、」

 それは網辺愛梨だった。

 私の頭は俄かに混乱し、現実がくらくら安定感を失う。網辺愛梨のドッペルゲンガーを追い駆けてやってきた場所で、本物の彼女に遭遇するのは偶然なのだろうか。それとも、やはり彼女こそが――。

「何で網辺さんこそ、こんなところに?」

「生徒会室のゴミ捨てよ。」細い顎で、彼女は校舎の角を曲がったその先にゴミ捨て場の方角を示す。「そしたら、こんなものがあったの、」

 彼女は手に持っていたそれを掲げ、私の前へと突き出す。

「制服?」


 それはブレザーとスカートの制服一式と、地面に向かって流れるようにしな垂れる艶やかな黒は鬘だった。

「ゴミ捨て場に捨ててあったの?」

「ゴミ捨て場横の焼却炉に入っていたの。あれはもう使われていないから、使用禁止札が貼ってあるのだけれども、誰かが無視したようね。」

 校舎裏にあるゴミ捨て場の横に年季のある焼却炉が設置されているが、数年前から使用は禁止されている。鉄で出来ている戸口は重く、筋力のない私では開けることも叶わないが、網辺はそれをわざわざ開けて中を確認したというのだろうか。


「戸口に鬘の毛髪がはみ出ていたの。それでなければ、重い扉を開ける面倒なんてしないわ。」

 なるほど、私はひとつ頷いた。人目に晒されるような形で鬘が焼却炉に放り込まれていたのならば、確かに気になってしまう。しかし、そうなるとひとつ気になる点が浮上する。


いつ、制服と鬘は焼却炉に捨てられたのか?

もしも、放課後直後や日中に捨てられたのならば、網辺ではなく他の誰かがすでに見付けていたはずだ。先程、ゴミ捨てを終えた林檎と立ち話をしたが、好奇心旺盛な彼女が見かけていれば、間違いなくその話になっていたはずだ。だが、彼女の口から焼却炉に挟まった毛髪の話は出なかった。つまり、林檎がゴミを捨てた後に制服や鬘が焼却炉に投げ込まれたことになる。


「ところで、貴女はここで何をしているの?」

 網辺の問いに、私の思索は断ち切られた。

「実は――、」

 裏門付近で図書室を監視していたこと、ドッペルゲンガーが現れたこと、そして、何ものかがそのドッペルゲンガーに襲い掛かったことを話し、その後急いで図書室に向かったところ、逃げ出すドッペルゲンガーと遭遇し、彼女を追い駆けるうちに非常口から校舎裏の隅に出てきたのだと伝えた。


「それで、ドッペルゲンガーを襲った人間はどうなったの?」

「え?」

 指摘されるまで、頭の中からそのシルエットはすっぽりと抜け落ちていた。

 そうだ、ドッペルゲンガーが図書室から逃げ去ったということは、襲い掛かってきた人間は、私が訪れた時、図書室の中にいたことになる。強襲者がいないのであれば、ドッペルゲンガーは逃げる必要がないのだから。


 そこまで考え、ぞくりと悪寒が走る。もしも、私がドッペルゲンガーを追い駆けなければ、私も潜んでいた何者かに襲われていたかもしれない。

「大丈夫?」

 怖ろしさにふらつく私を見遣り、網辺は心配を寄せてくれる。

「うん、大丈夫でも、」ちょっと怖い。

 最後の言葉は喉の奥で飲み込んだ。彼女には弱い人間と思われたくない。

「なら、図書室に付いてきてくれる?」

 何で、という気弱な言葉が思わず漏れ出そうになるが、その言葉も飲み込み、わだかまった言葉がむかむかと胃の辺りで炎症を引き起こす。

「最悪の事態になっていなければ良いのだけれども、」

 網辺はぽつりと漏らし、私が校舎裏に出た非常口から校舎の中へと上がり込む。土間でローファーを脱いだ彼女は冷たい床を踏み、二人でぺたぺたと静かな廊下に足音を響かせる。


 網辺愛梨は脚が長く、背の低い私なんかとは歩幅に大きな差があり、気が付くと彼女は遥か前方を突き進んでいる。いや、違う。私の遠近感が狂っているのだ。発熱か恐怖か悪寒が背筋を撫で回し、足下も視界もふらふらとする。

 ああ、ダメだ。追い付こうとしても、私は網辺愛梨には追い付けない。身体から力が一気に抜け、私は階段の途中で頽れていくつもの段差を転げ落ちる――ことはなかった。


「ごめんなさい。貴女の体調が悪いことに気が付かなかったわ。」

 網辺は白く冷ややかな掌で私の腕を掴み、その華奢な腕の何処にその力が隠れているのか倒れそうな私を引き上げる。

「でも、申し訳ないのだけれども、もう少しだけ付き合って。」

 彼女に頼まれて、断る選択肢を選べる人間が果たしているのだろうか。小さく頷くと、網辺は私の手を強く握り、引き連れるように図書室への廊下を進む。

 火照った身体に彼女の手の感触は気持ちが良く、掌に対する恐怖心がにわかに薄まる。

 猿渡に毛髪を鷲摑まれた時もそうだったが、他人の掌が肉体に触れてくることに私は嫌悪感と恐怖を覚える。あの時も痛みと恐怖で混乱し、手足を我武者羅に振り回してしまった。それなのに、不思議と網辺愛梨の掌は不思議と心地好かった。


「電気のスイッチは何処かしらね、」

 図書室に辿り着いた網辺は照明の電源を探すが、見当たらず、先程の私と同じように諦めて部屋の奥へと進む。違うのは、ドッペルゲンガーが飛び出してこないことだ。

 まるで訪問者の行く手を防ぐ城壁のように立ち並ぶ本棚は、灯りのない暗い教室内では格好の隠れ場所だ。棚の後ろや角には黒溜まりが渦を巻き、こちらの動向を窺っている。

 鋭い眼差しで周囲を警戒しながら、網辺は図書室の奥へと視線を向ける。

「あの窓辺がドッペルゲンガーのいた場所?」

「ええ。正確には、もう少し奥の、大きな書架の死角になっている場所。」

「なるほど、」

 頷きつつ、彼女はゆっくりとテーブルや本棚を迂回して、部屋の中からは死角となっている窓際に歩み寄っていく。


 窓の外は既に夕陽は沈み切っていた。代わりに蒼白い月が煌々と夜空を照らし、仄明るい月光が窓硝子から射し、本棚の陰に隠れた暗闇を裂く。

「やっぱり、」

 足を止め、月明かりに照らされた窓辺を見下ろしながら網辺は呟いた。私もその背中の脇から覗き込み、一瞬息が止まった。

 白い裸体が、月の光に染められてまるで光沢のある蝋細工のように輝いていた。

ワイシャツとネクタイは投げ出されるように周囲に散らばり、蒼白い肉体からは血の気は感じない。さながら人形のようであったが、顔は私の良く知っている人物のものだった。メガネは掛けていなかったが、森大地だ。

 そこで、私の意識は暗い奈落へ落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る