パンドラの記憶【パラレルワールド】


 深海の羽衣の主人公は、まるでパラレルワールドに暮らしている『もう一人のわたし』なのではないかと思うほどに、主人公とわたしは、思考回路も、その経験も、何もかもが似ている。


 魚の話はまさにそうだ。

 母親のセリフまでもピッタリ同じだなんて、奇跡という言葉で片付けられるようなものじゃない。


「それに──、」


 わたしは、深海の羽衣の隣に置いてある、ギリシャ神話にチラリと目をやった。


「パンドラの箱が登場するなんて、なんだかタイミングが良すぎるわね。」


 この本は、予言書か何かなのだろうか。いや、それもおかしい。わたし限定の予言書なんて、存在する理由がわからない。しかも、過去のことが書かれているのに予言、というのも……、なんだか不自然だ。過去、現在、未来が交錯する世界観の本なのだろうか。


「過去、現在、未来が交錯する世界……? なんだかどこかで聞いたことがあるわね。いつ、どこで、だったかしら。」


 それともう一つ、なんだかに落ちないことがある。ギリシャ神話の『パンドラの箱』についてだ。

 パンドラが持っていた入れ物には、ありとあらゆる厄災わざわいがつめこまれていたはずなのに、どうして希望が入っていたのだろう。もし、深海の羽衣の主人公とわたしの思考回路が似ているなら、それについても、いずれ語られるかもしれない。


「……まあ、考えてもしょうがないわね。最後まで読めばわかるでしょう。」


 わたしは、空になったマグカップに、インスタントコーヒーとミルクを入れ、ポットのお湯を注いだ。そこに角砂糖を二つ落とし入れ、スプーンでかきまぜた。

 そして、深海の羽衣を手に取り、続きを読み始めた。

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