幽霊部長の雨宮さん~イラスト部の美少女部長が絵を描けない理由~

川上 とむ

第1部 目指せ、イラスト部復活!

プロローグ

「――キミ、私が見えるの!?」


 ……少女の第一声がそれだった。


 彼女はマリンブルーの瞳を輝かせると、椅子を倒しそうな勢いで立ち上がる。


 その拍子に、ショートボブに切り揃えられた髪がふわりと揺れた。


「え、ええ。見えますけど」


「本当に見えるんだ! 嬉しい!」


 跳ねるように近づいてきた少女は俺の手を取ると、満面の笑みを向けてくる。


 紺色のブレザーにチェック柄のスカートという制服姿で、胸元のリボンの色からして三年生のようだ。


「あの、イラスト部ってここですよね? 入部希望なんですけど」


「うう……苦節三年、長かった……やっと私を見える人が現れた……!」


 彼女は手を握ったまま、涙を流していた。俺の話なんて聞いちゃいない。


「状況が飲み込めないんですけど。見える……って、どういうことです?」


「あ、私、こうみえて幽霊なの!」


「ゆ、幽霊?」


 思わず聞き返し、少女の全身を見る。


 大きなマリンブルーの瞳は生命力に満ち溢れ、唇はきれいなピンク色だ。


 肌も血色がよく、俺の手を握るその手は温かくて柔らかい。


 真っ白い肌に冷たい手……という、俺の知る幽霊のイメージとは程遠い。正直言って、美少女だ。


「あんまり見つめられたら、恥ずかしいかな」


「あ、す、すみません」


 頬を赤らめながら上目遣いで言われ、思わず視線をそらす。


「と、ところで、幽霊さんはどうしてこんな場所に? ここ、イラスト部の部室ですよね?」


「そうだよー。私、イラスト部の幽霊部長なの」


 俺の手を離してから、彼女は室内を見渡す。


 長い間使われていないのか、床や机、乱雑に積まれた画材には、どれも埃が積もっている。


 現状、絵の具の匂いより、カビ臭さのほうが勝っているような気さえした。


「幽霊部員という言葉は聞いたことがありますが、幽霊部長ってなんです?」


「そのままの意味だよー。部長さんなんだけど、幽霊なの。絶賛部員募集中」


 自称幽霊部長さんはそう口にしながら、近くの机の上を指でなぞる。


 その動作は生きている人のそれと全く同じだったけど、一切あとがつくことはなかった。


「あ、もう長いこと人が来た覚えがないし、今は同好会に格下げされてるかも」


 その動作に違和感を覚えていると、彼女は顔を上げて続けた。


「そうなんですか?」


「たぶんだけどねー。まぁ、なにはともあれ、キミは久しぶりの入部希望者というわけです! では、お名前をどうぞ!」


 彼女は再び顔をほころばせると、まるでマイクを向けるような仕草をする。


「お、俺ですか? 内川護うちかわ まもるです」


「内川くん……ね。よし、覚えたぞっ」


 自身の胸に手を当てながら、うんうんと頷いている。


 よくわからないが、彼女なりの儀式なのかもしれない。


「それじゃあ、改めて……内川くん、イラスト部(仮)へようこそ! 幽霊部長の雨宮あまみやみやこが歓迎しよう!」


 そして彼女は俺を真正面から見つめ、幽霊とは思えない眩しい笑顔を向けてきた。


 それが俺と幽霊部長――雨宮みやこさんとの出会いだった。

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