怪獣ハ-ト
セイン葉山
プロローグ 雄叫び、怪獣たちの進撃
その日、巨大組織の秘密基地では、重要な実験が行われようとしていた。頭巾のような覆面姿の総統は、進み出ると、用意された机上のボタンに手を伸ばした。この模様は動画で世界中に生放送で配信されている。
「もうこれで誰も歯向かう者はいなくなる。銃も爆弾もミサイルも水爆ですら倒すことのできなかった怪獣が、わが組織にひれ伏す。私の思いのままに動く、世界中で唯一、わが組織だけが怪獣をコントロールできる。それが証明されるのだ。私がボタンを押す時刻をしっかりと記録しておくがよい。これから1時間、1時間の間、怪獣たちは動き出し、暴れ出し、破壊の限りをつくすだろう。そして1時間後には再び静かになるだろう。それを見届けたとき、原水爆による世界の均衡は崩壊する。そこには、原水爆では倒せなかった怪獣を頂点とした新しい秩序が生まれるのだ。世界中の支配層は新しい秩序の前にひれ伏すのだよ。ハハハハハ…」
そして総統はボタンを力強く押した。
「進撃しろ怪獣たちよ。破壊の限りを尽くすのだ」
その瞬間世界中に戦慄が走った。
その瞬間モンゴルの大平原では地鳴りが起こり、遊牧民たちはゲルを飛び出し、はるか地平線を見渡した。
「砂煙が上がっている。あの平原のごみ集積場の方だ」
「大変だ、何かが大群で押し寄せてくる。あいつらが一斉にこっちに向かってきたのだ」
悲鳴が起こり、人々が一斉に非難を始める。
「大変だ、あの巨大な怪物たちが、あの肉食の蟲たちがやってくるぞ。みんな、逃げろ、逃げるんだ!」
やがてせまりくる巨大な影がおぼろげに姿を現す。それは10mを越える、凶悪な肉食の甲虫ギガシデムの群れだった…。
同時刻;中国広東省、山間部のダム湖。
ダム湖の岸辺で釣りをしている釣り人たちが悲鳴を上げる。突然ダム湖に大きな水柱が立ち、水が渦巻き始める。
「うわあああ、巨大な蟹の群れが動き出したぞ」
3m以上ある巨大な上海蟹の群れが次々と岸辺に上がって押し寄せてくる。
「た、た、助けてー」
逃げ出す釣り人、だがその背後で渦巻く水面から、ザザザーと水をしたたらせて、甲冑魚怪獣アーマーイールが立ち上がったのである。
「ぎょえええええ!」
銀色のメタルのような鱗とプレートに守られた強固な体から、鋭い歯をギラリと光らせるウツボのような奇怪な頭がグーンと伸びると、大きな雄たけびを上げた。
「ガ、ガガオオオオオオン」
同時刻、シベリア永久凍土地帯冷凍マンモスの発掘場所。ロシアの学術調査隊が、洞窟の中で発掘作業中に大きな揺れを感じて、洞窟の外に走り出す。
1人の男が洞窟の中を見て叫ぶ。
「ありえない、みんな逃げろ、急ぐんだ」
「ガルルルル、グオオオオオン」
なんと、敏捷に飛び出したのは、長い牙を持つサーベルタイガーに似た怪獣タイガニクスであった。全長は優に8mを越えている。さらにその後ろから、もっと大きな古代の怪獣が迫ってきていた。
同時刻、インドネシアのバリ島の海岸では、奇怪な一つ目のヒトデ怪獣パラメキリオがリゾートホテルのプライベートビーチに上陸した。
コテージから砂浜に転げるように飛び出す、水着の若者たち。
「キィーィー!」
甲高い怪獣の唸り声があたりに響き渡る。
同時刻;山火事で燃え盛るカリフォルニアの住宅地。
突然の落雷、燃え上がる森林、うろたえる消防士たち。
「落雷だって?!そんな予報は聞いてないぞ、一体なんだ?」
その時、背の高いドラゴンのような怪獣がゆらりと視界に入ってくる。
「うおお、電撃怪獣ギガボルターだ、退却、退却だあ!」
急いで引き返す消防士たち。ギガボルターは、ときどき電撃を放ちながら近づいてくるのであった。
同時刻アメリカ東海岸、大きな港町。大勢の中高生ほどの少年少女たちが走り出す。
「なんだ、何が起きたんだ?」
「気をつけろ。突然怪獣たちがあちこちで暴れ出したんだ」
なぜ中高生たちがこんな危険なところにいるのか。中にはまだ小学生のような小さな子もいる。
少年少女たちが角を曲がると、鎧をつけたゴリラの怪物テリブルクローと、鋭い牙の3つ首の怪獣ケルベヒドラがすぐ近くで争っている。すごい迫力だ!
「グルルルル。グオオオオーン」
「ギャーウ、ガウ、ガウ、ガウ」
殴り掛かるゴリラ、かみつく3つ首の龍、どちらも負けていない、やがて真ん中の首にパンチをぶち込むと、ゴリラは残りの2本の首をつかんで怪力で締め上げた。
「ギャ、ギャオオオオーン」
だが真ん中の首が再びゴリラの首元にかみつく。なかなか勝負がつかない、だがその時、遠くで恐ろしいうなり声が聞こえる。
身長2~3mくらいの小型の怪物の群れがどどどどっと少年少女たちを追い越して走っていく。
「な、なんだ。ダクトオーガやダクトトロールたちだ。今度は何だと言うんだ」
「あっちの運河沿いの水没エリアの方から何か大きなものが近づいてくる」
するとゴリラと3つ首龍も異変に気付いたのか、そちらをきょろきょろすると、戦いをやめて引き揚げだす。遠くから地鳴りのような足音が近づいてくる。
「やべえ、やつだ。皇帝がきたぞ、早く逃げないと全員食われちまうぞ」
蜘蛛の子をちらすようにばらばらに逃げていく少年たち。やがて巨体が水から上がってうなりながら近づいてくる。この港町エリアの怪獣のボス、動くものなら怪物でも人間でもなんでも食らいつく貪欲な怪獣。巨大なワニの頭と恐竜の体を持つ水辺の王者、カイザーダイルだ。長い尾も入れると30m以上あるこの地区のボスだ。さらにアマゾンでもジャガーの頭を持つ怪獣が雄たけびを上げる。太平洋では海を埋め尽くすような巨大なクラゲの怪獣が大群でひしめきあう…。
その頃世界中に点在している怪獣たちが一斉に活発に動き出していた。あるものは街を破壊し、あるものは、逃げ惑う人々に襲い掛かった、あるものは貪り食い、あるものは気にくわぬものをことごとく破壊しつくした。
そして1時間後、人々が息を殺して怪獣たちを見つめていると、ピッタリ1時間後に怪獣たちの活動は収まり、あるものは引き返し、あるものはおとなしくなり、あるものは寝床に帰っていった。
総統の言うことは本当だった。近代兵器での攻撃は怪物たちの細胞や胞子をまき散らすだけで、さらに恐ろしい結果を生む。ところが、、総統は確かに怪獣たちの進撃を止めた。少なくとも攻撃的な活動を停止させた。何らかの方法で、組織は怪獣をコントロールできるのだ。
「…マット、総統の言っていることは本当だ。どうする?」
ネットテレビからは世界中の怪獣の様子がリアルタイムに映し出されていた。
親友のアレックスリゲルにそう聞かれて、マットマグナスはこう答えた。
「奴らの思い通りにはさせない。怪獣映画は好きだけど、怪獣に支配された世界なんてまっぴらだ。俺は戦う、戦い続けるさ」
アレックスもうなずいた。
「ああ、マット、そうさ、俺たちは負けない、戦い続けるのさ」
そして2人は手をがっしりととりあった。長い戦いの始まりだった。
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