第10話
底なしダンジョンの60階層より下は、殆ど人がいない。まぁ、そもそも60階層までしかエレベーターが繋がっていないということからもわかる通り、殆ど未開拓領域のようなものなんだ。60階層より下は安全性を確保することもままならない状態で、ここから下に挑む探索者はまさしく開拓者と言えるだろう。まぁ、俺もそっち側の人間になった訳なんだけども……俺はまだ初挑戦なのだ。
殆ど人がいないとは言ったが、別に全く人がいない訳でもない。俺と同じ様にSランクである探索者は普通に出入りできるし、60階層付近までだったらAランクでも立ち入りが許可されている。実力者しかいないのは本当だが。
「底なしダンジョンの60階層……初めて来ました。今日はここから更に下へ20階層ほど目指して行きますよ」
:80階層に行ってる配信とかちょくちょく見るけど、何回見ても怖い
:マジで底なしなんだなって思うから嫌い
:こういうの見ると逆に探索者なりたくないなって思う
:こんな深い所まで人間が来ていいのかって思うから好きじゃない
:マジで見てるだけで鳥肌立ってくるわ
やっぱり、探索者ではない一般人から見ても、底なしダンジョンの深い場所と言うのは恐怖の象徴として扱われているんだなと、コメントを見て思った。まぁ、悪魔の巣窟に潜ったりしているから俺もダンジョンには慣れているけど、流石に60階層とか80階層って考えると、途方もない深さだと思う。俺だって探索者やってなかったら怖い。
まぁ、モテたいと思う心の前には全てが無価値なんだけども。俺はモテる為ならなんだってやってやるぞ……それこそ、100階層まで潜ってドラゴンをひたすら探すことだって!
「……なんか、他の探索者が戦った痕跡がありますね」
60階層を少し歩いていたら、地面に自然にできたものではない魔法による破壊跡が残されていた。ダンジョンは不思議な構造で、いつの間にか元通りに戻っていることが多いから……破壊跡が残っていると言うことは最近、ここで戦った探索者がいるということだ。
:そんなん見てわかるもんなの?
:知らん
:結構わかるよ
:分かり易いのは滅茶苦茶分かり易いけど、オーク君が言ってる痕跡は全くわからん
:そもそも暗くてよく見えない
「あ、すいません」
非常用に持って来ていたライトを点灯させて、地面を照らす。こうすれば配信を見ている人にも分かり易いと思う。
「どうですか?」
:いやわからん
:どれだよ
:目がいいのか、勘がいいのか
:もしかして専門家か?
:いや、探索者なんてダンジョンの専門家みたいなもんだろ
「これですよ。多分……槍かなんかで地面を削ったんですかね……こっちは鋭利ななにかで切り裂いた感じです」
:えぇ……
:探偵やった方がいいよ
:ダンジョン探偵!
:ダンジョン探偵ってなんだよ
:見てわかってなにがあるの?
:近くにいるモンスターの種類とかじゃないの?
「いえ、モンスターの痕跡はないので探索者が一方的に蹂躙していますね」
60階層なら……Sランクの探索者なら一方的に蹂躙できるはずだ。そう考えると、この痕跡はSランクの探索者が残したものだと思われる。それにしても、探索者の痕跡が残っているのにモンスターの痕跡が一つも残っていないなら、Sランク探索者の中でもかなりの実力者だと思う。
まぁ、誰がいるとかわかったところで俺には関係ないんだけど。俺の目的はただ一つ……ドラゴンを倒すことだからな。
ドラゴンを求めてひたすらにダンジョンを降りていく。道中で何人かとすれ違ったが、75階層を超えた当たりから誰とも出会わなくなった。既にAランクの探索者では辿り着けないキツイ場所までやってきている自覚はある。
:最近はドラゴンスレイヤーがおすすめだよ
:ドラスレってオーク君と同じことしてる人でしょ
:今のオーク君と同じことをずっとしてる狂人だな
:つまりオーク君の次のコラボ相手と言う訳か
:ドラスレは変人だからなぁ
:Sランクで変人じゃない奴誰だよ
:相対的にオーク君やろ
:草
:相対的なのか
:普通に見たらモテたいからって理由だけでSランクになっただけで充分変人だからな
:視聴者に慈悲の心はないんですか?
:いや、オーク君の自業自得な部分が大きいのでは?
:それはそうなんだよなぁ
「……コメント欄を雑談掲示板代わりににするのはいいですけど、俺のこと変人とか見る目無いですね」
:ダンジョンに鏡はないから仕方ない
:自分を見ることができない状態だからな
:ちょっと何言ってるのかわからない
:自分の姿すら見えないとはお労しいな
:視聴者からの評価はボロボロ
:ボロボロなのは視聴者にぼこぼこ言われてるオーク君なんだよなぁ
「そうですよ。まだ21歳なんですから、もっと若者を大切にしてください。少子高齢化社会の闇ですよ」
:しれっと社会問題に繋げるな
:いや草
:自分の問題を社会の問題にする大袈裟な若者
:これだから最近の若者は
:もっと老人を敬え
:このコメント欄加齢臭が凄いぞ
:少子高齢化は動画配信のコメント欄もだったのかたまげたな
:勝手にたまげてろ定期
全く……そもそもSランクが変人ぞろいっていうのも偏見……偏見のはず。モテたいからって探索者になるような人も、きっとそれなりの数がいると俺は思っているのでノーカウント。ほら、俺は変人じゃない。
いや……筋肉狂の変態にあったばかりだからSランクが変人ではないっていうのは、否定できないかもしれないのが悔しい。
:ドラスレとコラボ、しよう
:ドラスレ君はよく休日に配信してるぞ
:あの人底なしダンジョンだっけ?
:色んなダンジョンに浮気してる
:浮気は草
:だからドラゴンに会えないんだよ
:オーク君もドラスレみたいにドラゴンを追い求め続ける変人になるのか……大変だな
:モテたいからだぞ
「いや、流石に一週間ぐらい探していなかったら諦めようかなぐらいには思ってますよ。普通に考えて、そんな何か月もドラゴンを探し求めるようにダンジョンを歩く配信したくないですし」
:しれっとドラスレを罵倒するな
:してないけどしてるのが草
:笑えるか?
:笑えるぞ
:草
:ドラスレはみんなの愛するネタ系配信者だから
:オーク君もそうなるのかな
「ならない! 俺はちゃんとした有名配信者になって、女性にモテるんだ!」
:力強く宣言する姿がかっこいいぞオーク君
:かっこよく宣言しているが、中身が俗っぽい
:俗な方が民衆受けはいいからw
:笑い堪えきれてないぞwwww
:こんなん草生える
:がんばえー
:まぁ……諦めなければなんとかなるでしょ
くそ……視聴者め、今に見てろよ。
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