女の闘い

そうざ

Woman's Fight

 ◆さかしらの第1回戦――疑心硬直編◆


 セリカとアイラは、オープンテラスで対面して座っている。

 昼食時、セリカが澄まし顔でテラスに腰掛けていると、偶々アイラが来店したのだ。セリカが同席を勧めるのと同時に、アイラも同席を求めた。

 二人共、心の底では相手と同じ空気を吸うのも嫌だと思っているが、自分からそそくさと店を出るのは尻尾を巻いて逃げるようで、表面上、相手を無視したまま、それでいて内心は激しく意識しながら同じ空間に居続けるるというのは、苦痛に苦痛を倍掛けするような愚考そのものの行為だった。

 寧ろ、職場の同僚として当然の振る舞いであるところの同席は、己の心の余裕を見せ付ける事になり、引いては、私はアンタを上から見ているのよ的な自己顕示に繋がる賢明な判断であると考えるに至り、二人は呉越同舟の状態で食す羽目になってしまった。

 アイラはペペロンチーノ・スパゲッティをオーダーした。

 セリカはペペロンチーノ・スパゲッティをオーダー

 二人は、互いの顔に何とも言えない微妙なニュアンスが漂っている事に気が付かない振りをした。

 セリカは、自分のお気に入りの一品をアイラがわざと注文したのではないかと思い、イライラした。

 アイラは、自分の大好きな料理をセリカが先に注文しているのではないかと思い、ムカムカした。



 ◆響動どよめきの第2回戦――回転暴食編◆


「ペペロンチーノスパゲッティでございます」

 フリル付きの制服を着た年嵩ウェイトレスが二つの皿を同時に置いた。

 ほぼ同時にフォークを取った二人。

 巻く、巻く、巻く、巻く、麺を巻く。

 アイラが3回巻けばセリカは4回、と思えばアイラは更にプラス2回、負けじとセリカが更にプラス3回。

 巻き巻き巻き巻き巻き巻き巻き、巻き、巻き巻き巻き巻き巻き巻き巻き巻き、巻き、回転するフォークは皿上の全ての麺を巻き捲くるも、麺神に取り憑かれた二人は一向に捲きを止めず、まるで一つの塊と化した麺はトルネード宜しく旋風を巻き起こし、オリーブオイルの雨とガーリックへんひょうを撒き散らした。

 やがて、巻き巻き合戦は早食い競争へ展開し、うに冷め切った麺にがっつく、がっつく、がっつく。

 最早、すする対象ではなくなった麺を掻っ込む、かっこむ、カッコム、ズルズル、ズルズル、ズズルズル、ズズーズズルッズ、ズルルルルと掻っ込む。

 皿まで綺麗に舐め尽くした後、同時にお冷やに手を伸ばし、口内洗浄とばかりにブクブクすると一気に飲み込み、コップを叩き置く。

 ゲップ。

 負けじとゲップ。

 ゲップの数まで争う二人である。



 ◆たけりの第3回戦――水煙飛翔編◆


「お冷やのお代わりは如何ですか?」

 年嵩ウェイトレスの小皺くっきり微笑を合図にレディ・ゴーッ。

 注がれた冷水を片手に北叟笑ほくそむ両者。コップを振り被り、一撃必殺飛沫砲、同時発砲、空中相殺。

「ドリンクバー追加ーっ、更に追加ーっ」

「私がドリンクバーッ、私の名はドリンクバーッ」

 叫ぶや否や、二人の女はセルフサービスのドリンクバーへ猛ダッシュ。先客を押し退け、セリカはメロンソーダをコップに注入するも機械の愚鈍さに歯軋り&貧乏揺すり。同じくその場で足踏み運動宜しく焦燥しながらアイスティーにガムシロップをぶち込むアイラ。

 二人は互いの顔面目掛けて液体を放つ。

 メロンソーダの炭酸が眼球に繰り出すシュワシュワ感。

 アイスティーのガムシロップが鼻穴を封じるヌチャヌチャ感。

 アセロラドリンクの酸味痛、野菜ジュースの青菜痛。

 仕舞いには機械を抉じ開けて直にコップで汲み出し、乱水、狂水、激烈水。ばっちりキメたメイキャップは見るも無残に流れ溶け、これがホントの化粧水。



 ◆恍惚の最終戦――最強自虐編◆


 二人は、マッチョな店長に襟首を抓まれて店外へ。

 セリカが頭を六十度まで下げて詫びれば、アイラは腰を直角に折って詫びる。

 セリカは前屈、アイラは後屈。

 セリカ前転、アイラ後転。腕立、倒立、腹筋、背筋。

 ムーンウォークにモンローウォーク、ロボットダンスにブレイクダンス。

 やがて二人は高速回転、勢い余って大空へ。うっかり互いの目が合えば、ニッコリ愛想の微笑みバトル。

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