第1話
7月24日月曜日。
休日が終わり、気怠さを覚える月曜日が始まった。
だが、俺が通っている高校の制服を着ている生徒たちは、そんな陰を見せることなく活き活きとしている。
それは、意識の高い生徒がたくさんいるというわけではなく明後日から夏休みに入るからだ。
夏休みどこ行く?とか、海行きたいとか、浮足立っているようだ。
うだるような暑さの下、皆学校へ向かう。
午前の授業が終わり、休み時間に入った。
俺は、今読み途中の本を弁当袋にいれ教室を出た。
教室は騒がしすぎて落ち着かないのもあるが、もし事故で能力が発動してしまったらめんどくさいからだ。
こういうときは図書室の隣りにある、資料準備室に行く。
そこは図書員しか使えず、そしてその図書委員のほとんどが資料準備室には立ち入ることはない。
なぜなら、その教室の扉の立て付けが悪く廊下側にある扉は開かず図書室には繋がる扉がないため図書委員はそもそも資料準備室があることすら知らない。
それに資料準備室はもう使われていないので、俺はここを利用していいる人を見たことがない。
まあ、この部屋がいつまで使えるかはわからない。
夏休みが終わると扉が直っていて別の教室になっているかも知れない。
だが、今はそんな事は考えず人がいないこの教室を使うだけ。
隣の元々文芸部があった教室から、隠しておいた鍵を取り指すと昨日鍵をかけ忘れたからか回ることなはなかった。
「あれ?開けっぱだったか」
俺は気にすることなく、ドアノブに手をかけ回した。
すると、中にはよく知っている女子生徒がいた。
「あ」
黒い短めの髪に、大きな目をぱっちりと開け口をぽかんと開けている。
「沖前」
沖前ミライは、俺と同じの図書委員でよく当番が同じになる。
かと言って仲が良いかと言われれば、そうでもない。
当番のときは最低限の会話しかしないし、俺は誰かと仲良くする気もなかったからだ。
「よく、この教室知ってたな」
俺が話しかけると、「え、あっ」と少しキョドりながら。
「この前、
「いや別にいいよ、俺だけの部屋ってわけじゃないし」
部屋の隅に積まれた椅子を取り沖前が座っている長机の反対側の一番離れた場所に座って俺も弁当を食べ始める。
あまり話さないのもあってか、なんだかそわそわしている沖前。
気にしないようにするがどうしても気になってしまう。
「今日当番一緒だったよな」
この空気が嫌になり話しかける。
「うん」
会話がもたない、まあ沖前が話すつもりがないのだろう。
少し埃っぽい教室に二人、壁に掛かった時計の音と箸が弁当箱のそこに当たる小さな音。
騒がしい教室がいやでここに来たが、どうも静かすぎるのも嫌いみたいだ。
沖前も明らかにひと口が小さくなっている。そんなに、ちまちま食べてたら昼休みが終わってしまうだろう。
きっと沖前は、委員会活動以外での接点がない俺がいるから落ち着かないのだろう。
なので、俺は急いで食べて自分の教室に戻ることにした。
食べ終わって弁当を仕舞立ち上がると。
「え?もう行くの?」
立ち上がった俺を見上げながら沖前は言った。
「ああ、食べ終わったし」
「読書しに来たんじゃないの?」
「え?」
確かに、いつもは食べ終わったら休み時間が終わるギリギリまでここで読書してるが、いま本も机に出すことなく見えない位置に本は置いってあったが知っていたらしい。
「そうだが、いいのか?」
「え?何が?」
沖前は大きな目をこちらに向けパチパチしながら、首を傾げる。
「いやだって、気まずいだろう。あまり話したこともないし」
「そうだけど、私は気にしないよ」
「そうか」
先程までは、そうではなかったように見えたが本人が言うなら良いだろう。
それにここを出たら俺も居場所がない。
俺は座り直し、本を弁当袋から取り出し開く。
「何読んでるの?」
今度は沖前から話しかけてきた。
「これは、
「あ、私も読んだ」
「そうなのか」
この本はつい一週間ほど前に発売された本で、野人先生の5年ぶりの最新作。
内容は、街のマドンナに恋した二重人格の男の話。
鋭い書き口でスパスパ書き進んでいき、少しクセが強く心に濁りを残すような作品が多い先生だ。
「うん、好きなんだ野人先生の本、特に私は」
先程の静寂が嘘かと思えるほど話に花が咲いた。
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