ばりーん、がっしゃーん。

mackey_monkey

あ。

それは、ふとした瞬間。

なにかが弾けるようだった。


駅、その時私は駅にいた。

都会の、人が行き交う。

活気のある駅だ。

私はそこの通路を歩いていた。

地下にあるその通路は、外に比べて多少涼しかった。


いつも通り改札を通って、人の波にもまれながら歩いていた。

ぐちゃぐちゃと人にぶつかったり、ぶつかられたりしながら歩いていた。


それは、広告の中の誰かの笑顔と目が合った時だったか、それとも誰かの楽し気な会話が聞こえた時だったか。

なんだかわけもわからず自分がみじめに感じられてしまった。

すると今度は、まるで自分が自分でなく、誰か他人の中に入って、そこから映画でも眺めているような気分になった。


見慣れた風景がいつもよりいっそう無機質に感じられた。

周りの人間たちが、ただの人形のように思えてきた。

何もかもが、おかしくなった。

なんだかおかしい、それでも何がおかしいのかわからない。


そんなとき、誰かの肩がぶつかったような_そんな気がした。

それで私の中でギリギリで収まっていた何かが静かに弾けて飛んだ。

周囲の人間の目が一斉にこっちを向いた。

その目は敵意を含んでいて、私を非難しているかのようであった。

いくつもの見開かれた目が私を責める。

指をさして私を笑っている。


_敵だ。

_全部、全部、敵なんだ。


私は途端に怖くなった。

足は震えて、立っていることさえ難しい。


恐怖をこらえてじっとしていると、それはじりじりと怒りへと変わっていった。

何もかも、壁も柱も、人も、自分もすべてが敵に見えた。

気が付いた時には、私はもう自分の肩から下げていたカバンを力いっぱいに地面にたたきつけようと上に掲げていた。

それはボスンという音を立てて、地面にたたきつけられる。

それはあたりの音にかき消さてそれほど大きなものでもなかったけれども、私の近くの人には届いたようで、今度こそ本当の人の視線が私に向いた。


でもとうの私はそんなことはどうでもよくなって、ただそのかばんを蹴りつけていた。

中に何が入っていたかも忘れて、ただ蹴っていた。

そして、叫んだ。

心のままに叫んだ。

声と一緒に、胸のどこかにあった突っかかりが吐き出されていく。


_心地が良かった。


叫びながら、壁を殴った。

柱を殴った。

床をたたいた。

その場のなにもかもを傷つけた。

そのたびに、戻れない道を進んでいるような気がしたがどうでもよかった。

指は赤くはれ血が流れ、視界もだんだん暗くなって、それでも不思議と痛くもなんともなかった。


_ただ心地が良い。


何も分からなくなった私は、もう掠れて声にもならない声で叫びながら笑っていた。

_笑いながら、泣いていた。


心地がいいのに、泣いていた。

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