炎の獅子の試練~魔女からの贈り物~
立積 赤柱
プロローグ
女子高生と拳銃
ここは、とある日本の片隅――
「警官が女子高生に拳銃を向けるのかよ!」
そこは、薄暗い繁華街の裏通り。
繁華街の漏れる明かりと、まばらな電灯で、人の顔は認識できないところだ。
そんなところに人がいるのは、何らかの犯罪を行っているに決まりそうなモノだ。
そして、今、ここにはひどい臭いが充満していた。
質の悪い油が焼けたような……髪の毛の焦げたような……生臭いイヤな臭いだ。
その正体は……薄暗いこの路地裏でもなんとか認識できた。
地面に転がっているソレ――これが臭いの元だ。
生きているころは、長い体毛に被われていた。
今は……腕や脚のようなものは認識できるが、あきらかに人間ではないなにか……まるでサルの身体をしたブタのような顔をしている生物だ。
その傍らに人の脚が確認できた。
赤いスニーカーに短い黒い靴下。痩せぎすの脚が伸び、セーラー服と思しき黒いプリーツの下に膝小僧までの長さにしたジャージを穿いている。
そう15、6歳の女子高生がそこに立っていた。
何故、薄暗い路地裏でも彼女の姿を認識できるのか?
それは――彼女が光っていたからだ。正確には、燃えているといった方がいいだろう。
右手にはまさに火の玉を掴んでいる。
それにポニーテールにしている少々癖っ毛は、その黒髪に反して先端が赤く輝いていた。
その明かりで、謎の死体を観察出来る。しかも、その死体を創り出したのは、彼女である。
少々の格闘があったようだ。肌が露出しているところは、擦りむけ、セーラー服も薄汚れていた。
「形勢逆転だな! 魔女っ!!」
男の姿の声がした方に、彼女は目を向ける。
「誰が魔女だッ!」
彼女から少し離れた場所。丁度、光が当たっていないのか、姿はぼんやりとしか見えない。だが、その手にした拳銃の黒光りした銃口だけはハッキリと見えた。
この男が口にした『魔女』という人が忌み嫌いそうな言葉に意味があるかは、この彼女には判らなかった。
しかし、
「あたしを
「お前のように不良の処理は面倒だから、こいつらに処理してもらっていたんだ! お前らなんて、生きていたって価値がないッ!」
「治安を守るのが、警察の役目じゃないのか!」
「うるさい黙れッ!」
警官の指に力が入るのが見えた。
(撃たれる! させるか!)
咄嗟に彼女は、右手にあった火球を拳銃に向けて放った。
ほぼ同時に拳銃に引き金を引かれた。しかし、1発目は投げられた火球の中に突っ込むと、その中に吸い込まれてしまった。
彼女の放った火球はそのまま直進し、狙った拳銃に命中して弾けた。しかも、拳銃は熱で真っ赤に染まり出すと、爆発した。中の火薬が、火球によって爆発したようだ。
「ギャー!」
警官は悲鳴を上げる。拳銃を握り締めていた手が血で真っ赤だ。指を吹き飛ばしたかもしれない。
警官の悲鳴が、拳銃の爆発音が、繁華街の表通りに響いたらしい。
通りで歩く数名が、その音に気が付いたようだ。
「なに? さっきの悲鳴は!」
「爆発した音が聞こえたぞ!」
(ヤバい、ヤバい! 人が集まってくる)
彼女はその場を急いで立ち去るしかなかった。
幸いにも、光っていたか髪の先も落ち着き、いつもの黒髪に戻っていた。
(このまま闇に紛れれば――)
集まってくる足音とは反対方向……慌てて暗い路地の奥へと走って行った。
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