【ANY%】架空原作クラス転移トゥルーEND地球帰還姫様酷使無双チャート【RTA】

@Tenzou_Dogeza

Torpedo Hover

 ある日、突然異世界に転移して勇者になったら?


 ……まあ、思春期男子だったら大体誰でもする妄想で、非現実的な話だ。だからこそ俺達はゲームというもんにのめり込み、ハマってしまう。現実にはないファンタジーを、空想を求めてゲームを遊び、楽しみ、そしてその熱狂に現実を忘れようとする。


 ゲームは退屈なリアルを忘れさせてくれる最高のツールだ。現実とかいうクソゲーを忘れさせてくれる唯一の玩具だ。


 そしてその行きつく先は当然決まっている―――そう、RTA廃人だ。


「ふぁーぁ……、眠っ」


 隠す事無く欠伸を漏らしながら頭を机に叩きつける。圧倒的な眠気が脳を支配している。まだホームルーム前だし多少は寝ても大丈夫なんじゃないかと考え目を瞑ろうとするが、


「もう、ユージもうそろそろホームルーム始まるんだから寝ちゃ駄目だよ」


「ん? 先生も気にしないへーきへーき。それよりも俺は今夜のRTAに向けてなるべく脳のリソースを確保しなくてはならないのだ。そっちの方が大事だから許される筈よ」


「許されるかなぁ……?」


 顔を持ち上げて視線を前に向ければ首をこて、と横に倒して悩むような表情を見せる、肩ほどまで伸びる黒髪の少女の姿が見える―――まあ、捻りも何もなく見慣れた幼馴染の姿なのだが。間違いなく美少女カテゴリーに入る顔も何年間も一緒に居れば見慣れてしまうものだ。


 顔を見て、もう一度欠伸を漏らす。


「人の顔を見て欠伸するのは酷くない?」


 怒ってます、という解りやすい表情を浮かべてくるが、本当に怒っている時はもっと視線がジトっとしている。解りやすく表現する辺り本当は構ってもらいたいという意思表示でしかないのは良く解っている。


「酷くない酷くない。ありさの顔ってほら、見慣れてるから見ると安心するというか……そう、そういう感じのアレ」


「そう? そうかなぁ……?」


 うーんと首を傾げる幼馴染の横でクラスメイトがぎょっとした視線を向けてくる。また別の席では急に下敷きを使って互いを扇ぎだす謎の儀式が始まる。そんなに暑いか? 割と過ごしやすい日だと思うけど皆は違うのか? 違うのかもしれない。


「だからほら、眠くなるのもしょうがないというか」


「いや、ユージが眠くなるのは夜遅くまでゲームやってるからでしょ。流石に騙されないよ?」


 幼馴染の追求に両手を上げて降参のサインを出し、溜息を吐く。まあ、確かに夜遅くまでゲームを遊んでいるのは学生の本分……とは言いづらい。まあ、それでもちょっと言い訳させてほしい。


「いいか、ありさ。今夜のRTAは新記録を出せば運営の方から賞金が出るんだ。10万だ、10万。社会人からすればお小遣い程度の金額だけど、俺達学生からすれば大金だ。新しいゲーム機だって買えるし、パソコンだとそこそこのを買える。スマホだって割とイイスペックのを買えるんだぞ?」


「新記録を出せれば、でしょ」


「俺はその為に数日前から固形物を食べるの止めて、胃の中を空っぽにしてゼリー飲料だけで生活してるんだぞ」


「もうちょっと人間らしい生活しない? というかそこまでする必要ある?」


 ある、超ある。滅茶苦茶ある。RTAは遊びじゃないんだ、立派な競技でありたぶんeSportsだから将来的にはオリンピック競技にもなるだろう。だから俺が青春をRTAの為に消費する事は決して、無駄ではないと主張させてほしい。


「……」


「……」


 ジト目で見つめられる。逃げるように視線を逸らすと、その先でクラスの男子が中指を突き立てて朝の挨拶をしてくる。朝から大変元気の挨拶をしてくれるので此方も中指を突き立てて挨拶を返しておく。おはよう、カス死ね。


「いや、藤野さんそいつに関してはもう心配しなくて良いんじゃないかな。本人がそう言ってるんだし」


 そう言って幼馴染との団欒に異物がインストールされる。おぉ、クラスのジョック枠よ、サメ映画なら真っ先に食われて死ぬタイプのクラスメイトよ、どうしてこの神聖な空間に割り込むだけの権利を持っていると思っているのであろうか。


「吉田くん」


「時枝が生活態度改めないのは今更の事だぜ? そんなに構うだけ時間の無駄だって、無駄」


「おい、古来より正論は人を傷つけるだけだと伝えられてきてる筈だろ。そんな単純な事も忘れたのか? 反省しろ、反省を」


 眠りたい気分だったがこうも朝から人に絡まれると流石に脳のエンジンがかかってくる。ふぁーあ、と最後に欠伸を漏らしてから良いか、と我がクラスのジョック君の指差して宣告する。


「良いか、良く聞け俺は割とだいぶダメ人間だ」


「あ、おう」


「今夜のRTAに備えて数日前から固形食糧を止めてゼリー飲料だけで生活してる。これで胃の中は空っぽだからRTA中はトイレに行きたくなることもないだろう」


「お、おう。ちゃ、ちゃんと飯は食った方が良いと思うぞ」


 ジョックに心配された……ちょっと心に来た。


「俺は青春をRTAに費やしているし、ゲームに時間を注ぎ込んでる。俺は見ての通り人間性カスのダメ人間だ。ちょっと言ってて悲しくなってきた。ごめん……ちょっと待って……」


「ね? 見たでしょ? ユージは私がいないとダメなの。可愛いでしょ」


「でも俺、本人の為にはならないと思うぞ……」


 正論は人を傷つけるだけだとさっき言わなかった? 幼馴染によしよしされながら心の傷を癒されていると、教室の扉が開き担任の姿がやってくる。今日も猫背気味の担任がコカ・コーラのペットボトルを片手に入室し、教卓の上に置いてからあー、と声を零す。


「それじゃあホームルームを始めるから席につけー」


「はーい」


 クラス内からまばらに声が上がり散っていた学生たちの姿が席に収まる。その姿にコーラをたっぷりと飲んでから待っていた担任がふぅ、と息を吐く。


「そんじゃ出席取るぞ。返事しなかった奴は容赦なく欠席扱いにするからちゃんと声を出せよ。先生、めんどくさいから後から直すなんて事は絶対にしないから」


 教卓に出席簿を置いた先生があー、と声を零す。何時も通りの朝、退屈なホームルーム。ゲームを遊ぶのはこういう景色がつまらなく、変化が欲しいから。少しでもゲームが見せる夢の中に浸れたら……なんてしょうもない事を考えた瞬間、


 光が教室を満たした。


「うおっ、な、なんだ!?」


「床が光ってる」


「誰の悪戯だよ!」


「寧ろ悪戯でここまで出来たらすげぇよ」


 眩しさに目を細めながらも片手で目元を覆い視線を床に移せば、紋様が描かれるように教室の床が光っている。その光量の凄まじさにやられて足を動かせない中、教卓に立つ担任の姿が動いた。


「はわ、まさか……これは……異世界クラス転移!? 先生スマホに異世界で使えそうなWIKIをページ保存してあるから準備万端だぞおい!!」


「良い歳してなにやってんだよ先生!!」


 怒号が飛び交う教室の中、ふと、俺達が本当に異世界転移するのであれば問題になりそうな事が思い浮かんだ。ゆっくりと手を上げて先生に向かって声を張る。


「先生! でも異世界って絶対ウォシュレットないですよ」


「それはムリだ。耐えられねぇわ!!」


 叫び声と共に窓ガラスへ体当たりし、1人だけ担任が脱出する中でクラスを満たす光はさらに強くなって行く。もはや目を開ける事さえ不可能な光の中、此方へと向かって手を伸ばしてくる気配を感じた。


「ユージ……!」


 聞こえてくる幼馴染の声。反射的に手を伸ばしながら口を開く。


「ひ、ヒロインムーヴ……!」


 実在するんだ、こんなシチュエーション。最後にそんな感想を抱いて全てが光に包まれてから……消えた。


 僅かな浮遊感。落ちるという感触が消え去り、僅かな衝撃に尻餅をつく。ちょっとだけ尻の痛さに腰を擦りながら戻ってくる視界に目を瞬かせながら光を受け入れる。


「一体何がどうなってるんだ……」


 誰かの声が空間に響く。そう、響いた。声が響くくらいには広い空間だった。景色は光に包まれる前とは一変し、石畳大部屋へと変貌していた。それはとてもだが先ほどまで授業を受ける為に待機していたクラスルームとは違う景色で、


「おぉ……!」


「召喚に成功したぞ!」


「しかしこの数は一体……?」


「もしや手違いがあったのかもしれません。皆様、落ち着いてください」


 慄くような声や焦った声、困惑するような声の中に静かだけど確かな力を持った声が響く。口を閉じて回りへと視線を向ければ、不思議な格好の人々が取り囲むように立っており、俺達はその中心で床に座り込んでいた。


 ぎゅ、と腕を掴まれる感触に視線を横に向ければ何時の間にか横にいた幼馴染が腕を掴んでいた。ちょっと怯えているような様子に、反射的にネタに走ろうとするのを抑え込む。ステイ、俺、ステイ。ここでネタに走れば一生ネタ枠から戻って来れないぞ。


「ここは一体どこなんだ? さっきまで教室に居たのに」


「ウォッシュレットの野郎いねえ!」


「アイツマジで脱出しやがったのかよ!」


「ウォッシュレットの野郎マジ許せねぇ……!」


 担任の名前がウォッシュレットで確定した所で妙な既視感を感じ、首を傾げながら視線を回りに巡らせる。どことなく見覚えのある景色の様な気もする。つい最近見た事がある筈だ、そう思って軽くこめかみをとんとんと指で突いて記憶を漁る。


「中世ぽい服装、魔法使いっぽい連中……これはもしや異世界召喚なのでは……?」


「いやいや、そんな馬鹿な」


 未だに騒がしいクラスメイト達の声を頭の中から追いやって考えようとするが、一つの声が耳に届いた。


「むぅ、この部屋……どこか見覚えがあるで御座る。確かゲームのスタート地点の……」


 ぶつぶつと呟くクラスメイトの声に思わず反応し、視線を向ける。眼鏡をかけたクラスメイト、西脇は眼鏡をクイ、と軽く押し上げながらにやりと笑みを浮かべて視線を此方へと向けてきた。


「ユージ氏も見覚えがあるのでは? 異世界召喚からスタートする場所を、ゲームの画面内で……!」


 確信する様な西脇の言葉にふと、自分が感じている既知感の正体を理解する。そう、俺はこの景色と流れを知っているはずだ。何と言ってもここ最近何度も試走の為に爆速で駆け抜けているからだ。


 もしや、もしや。そう思いゆっくりと立ち上がる。


「ユージ……」


「ありさ、ちょっと試したい事があるんだ。見ててくれ」


 俺の視線を受けた幼馴染は頷くと立ち上がり、一歩後ろへと下がる。漸く状況を理解し始めたクラスメイト達も徐々に恐怖、不安、或いは興奮と共に立ち上がり始めていた。その様子を眺めているドレス姿の少女が前に出てくる。


 緩やかなウェーブかかった長い金髪の少女―――気品と風格を兼ね備えた姿は貴族、或いは王族と言っても納得できるだけのオーラを備えている。所作の一つ一つが洗練されている少女に全員の視線が向けられる中で、


 俺は軽く体を解すように体を伸ばし、ねじり、手首を振った。体の調子は悪くない。ここしばらくRTAの為にコンディション調整していたのが良かったようだ。少なくともこの世界が本当に予想通りであり、実行可能であれば問題なく出来るだろう。


 ―――そう、RTAでは絶対に欠かせないアレを。


「申し訳ありません、勇者様方。この度はいきなり呼び出されて大変困惑していると思います。ですが、どうか落ち着いて聞いてください」


 王族っぽい人が喋り出すのを無視し、軽くジャンプする。挑戦する事は初歩も初歩、グリッチの中でも最も簡単なテクニックの一つだ。そしてこれが実行可能であれば俺達の予想は正しいと証明される。


 故に、


「私は―――」


 ジャンプし、ジャンプした状態で、空中でスライディングする。


 体は慣性を無視して急に落下しながら前の方へと向かって空中で滑るが、その動きをスライディング中に前転する事でキャンセルする。スライディングと前転はモーション途中でキャンセルする事が可能なモーションだ、少なくとも【エターナル・ルーラー・オブ・カオス】ではそうだ。


 だからスライディングと前転をジャンプ中に相互でキャンセルしながら動く。


 そうするとどうなる?


 前に進むという慣性を残したまま空中浮遊して魚雷のように移動する。


「私は―――うわぁぁ!? 勇者様が何か凄い事になってるッ!?」


 浮かんだまま、ミサイルか或いは魚雷のように浮かんだまま体を真っすぐに突っ張りながら前に向かって突き進んで行く姿は誰がどこからどう見ても変態の一言。


「やったぁ」


 グリッチに成功したぞぉ。勝ち確です、ありがとうございました。

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