65. ヴェニス観光
ルインには一つの悩みがあった。
玉手箱のことだ。
アークから聞かされた話が気になって仕方がなかった。
ルインの知っている歴史とは大きく異なる。
天才と持て囃されるルインといえども、知らないことはたくさんある。
しかし、さすがに自身の街の歴史くらいは知っていると思っていた。
それこそ
人一倍の知識を持っていると自負していた。
だが、その歴史の中で「ヴェニス人が実は侵略者だった」という記述は一つもなかった。
アークはヴェニスの観光名所でもある時計塔を古代文明人が造ったものだと言った。
しかし、ルインは時計塔を造ったのはヴェニス人だと教わった。
ルインの知る歴史とアークの語る歴史はまったく異なっていた。
つまり、それは意図的に消された歴史ということだ。
誰が歴史を消したのか?
おそらく過去の先祖たちだろう。
それ自体はよくあることだ。
しかし、アークはどこからその情報を仕入れたのだろうか?
いや、彼女にはもっと気になることがあった。
アークは玉手箱を”パンドラの箱”と言った。
「パンドラの箱は秘宝なんかじゃない。あれは呪いだ。古代文明人がヴェニス人に残した呪いだ」
アークはそう言っていた。
ルインはアークを信用している。
アークが嘘をつくようには思えなかった。
そしてわざわざルインにその情報を教えてくれたのには、何らかの意味があると考えていた。
玉手箱――否、パンドラの箱。
ルインは何か良からぬことが動いているような気がしてならなかった。
そして寝る間も惜しんで資料を探った。
しかし、どの資料にもパンドラの箱の記述はなかった。
だが、それならアークはどこでその情報を手に入れた?
わからない。
「アークに聞くしかない」
ルインは胸騒ぎがしてならなかった。
◇ ◇ ◇
ふははは!
今日は観光だ!
リフレッシュすると決めたぜ!
せっかくヴェニスに来たなら、遊びまくらなければ損だろう!
「アーク。この街をどう思ってる?」
なぜかルインと一緒に観光に来ていた。
ていうか、質問が漠然としすぎているだろ。
適当に答えておこう。
「ああ、いい景色だな」
「そう……じゃない」
じゃあ、なんなんだよ。
今日のルインはやけに無口だ。
いつもはオレに質問しまくるくせに。
まあいい。
「ねえアーク――」
「お兄ちゃん! あれ食べたい!」
ルインの言葉を遮るようにグレーテルが現れた。
こいつ、オレのことをお兄ちゃんと呼ぶがオレは貴様の兄ではないぞ?
妹はエリザベート一人で十分だ。
グレーテルのやつ、なぜかオレについてきたがる。
まあそれ自体は別にどうでもいい。
だが、こいつ大食いなんだよな。
食費がかかる。
まあ屋台のものをどれだけ食べようが、オレの懐は傷まないのだがな。
この程度痛くも痒くもない。
なぜならオレは金持ちだからな!
鉱山バンザイだぜ!
オレがこうして遊んでいる間にも領民がオレのためにせっせと働き、ウェポン商会が魔石を買い取ってくれている。
不労所得最高だぜ!
ふははは!
グレーテルに餌つけしてたら、いつの間にかルインがいなくなっていた。
まあいいか。
ふと露天が目に入った。
仮面が並んでいる。
そういえばフントのやつ、未だにピエロの仮面つけてるな。
こいつまだ仮面を買っていなかったのか?
はあ……。
仕方ない。
せっかくここまで連れてきてやったんだ。
オレが代わりに買ってやろう。
この程度でオレの懐は傷まないからな。
犬の仮面を買った。
「新しい仮面だ。貴様にやろう」
これでフントは名実ともにオレのポチということになる。
ふははは!
気分がいい!
「そっちのほうが似合う」
ポチにはお似合いの仮面だな!
「ありがとうございます」
フントが頭を下げた。
「今後も精一杯オレに仕えよ」
「もちろんです。アーク様に救われたこの身、生涯アーク様のもとで仕えましょう」
ふははは!
その忠誠心、嫌いじゃないぞ?
死ぬまでオレのもとで働くんだな!
そういえば、グレーテルはマギサとも仲良くなっていた。
マギサのやつ、駐屯地で会って以降、妙に機嫌が良い。
何かいいことでもあったか?
というか、なんぜオレの観光に他の奴らがついてくるんだよ。
赤髪野郎も一緒にいるし。
「ところでアーク――」
赤髪野郎が話しかけてくる。
こいつ、むさ苦しいんだよな。
ていうか、強くなる方法を教えてくれ? だと?
知らんがな。
剣のことを聞かれてもオレが答えられるわけがなかろう。
オレは剣なんて重いものは扱わないんだ。
オレが持てるのは、せいぜいペンくらいだぜ!
まあ嘘だがな。
赤髪野郎がうざいから、ちょっときついことを言っておいた。
「そも貴様は気づいていないのか?
貴様には剣の才能がない。
剣聖をみてみろ。貴様がどれほど努力しようが、あれにはなれまい。
ならば、貴様が目指すのは剣の高みか?
己を見極めよ」
つまり、無駄な努力したって無駄だということだ。
「常に全力であるのが正しいとは限らん。力を抜け。熱くなるのは一瞬で良い。
貴様の心にある熱を開放するのは一瞬で良い。最後の一振りだけに込めろ。
でなければ貴様程度の熱では、火を燃やすこともできまい」
スルトが黙って去っていった。
ちょっと言い過ぎたか?
まあこのぐらい突き放せば、当分は話しかけてこないだろう。
赤髪と話していたら、グレーテルとマギサがいなくなった。
あいつらどこ行ったんだ?
まああいつらが迷子になろうとオレには関係ない。
気がつけばオレはフントと二人きりになっていた。
犬との散歩だぜ!
ゆっくりとヴェニス観光できた。
しばらくすると、グレーテルが一人で戻ってきた。
「お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「
は?
何いってんだ?
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