43. メデューサ・ゴルゴン

 ふはははは!


 ようやく決勝戦か!


 相手は生徒会長のメデューサだ。


 たしか石の魔法を使うやつだったな。


 まあオレの敵ではないが!


 一瞬で終わらしてやろう。


 が、早く終わりすぎてもつまらん。


 メデューサにはせいぜい頑張ってもらいところだ。


「ふふっ。やはりアーク様が相手になるのですね」


「なにを当たり前なことを。オレ以外がこの場に立つことなどありえん。そしてオレ以外が優勝旗を掲げることも許されん」


 オレが参加した時点で、この大会はオレのためのものと決まっている。


 オレが負けるはずがなかろう。


「大言壮語と言いたいところですが、事実なので否定のしようもありません。

しかし、僭越ながら私も生徒会長を任されている身。簡単に負けては面目が立ちません」


「安心しろ。オレが相手だ。負けたところで誰も文句は言うまい」


「ふふっ。そうでしょうね」


 まあだから、いい感じで負けてくれよ?


 オレを際立たせる名脇役としてな。


◇ ◇ ◇


 生徒会長であるメデューサ・ゴルゴン。


 彼女の実力は魔法学園の中では頭一つ抜けていた。


 メデューサの扱う石魔法は、攻守ともに優れた魔法であり、攻撃時には他者を圧倒する威力を誇り、防御時には鉄壁の守りへとなる。


 そもそも生徒会長という地位は安くない。


 特に現学園長になってからは、家柄だけで生徒会長になることはできなくなっている。


 いわゆる実力主義というやつだ。


 もちろん、実力主義とは言っても、完全に実力ですべてが決まるわけではない。


 というよりも、決められないというのが実情である。


 と、それはさておき。


 メデューサは生徒会長という地位を得るために、人一倍努力を重ねてきた。


 努力をしなければ認められない立場にいた。


 彼女は由緒正しくゴルゴン家の生まれである。


 しかし、ここゴルゴン家は「呪われた一族」と揶揄されてきた。


 すべては十数年前に王都で起きた変死事件のせいである。


 変死した人々はみな、石に形を変えられており、真っ先にゴルゴン家が疑われた。


 疑われただけなら問題はなかった。


 実際に犯人がゴルゴン家の者であったのだ。


 異常者として家を追い出されたゴルゴン家の者が、快楽のために王都で何十人もの人間を殺した。


 それによって、ゴルゴン家は呪われた一族として恐れられるようになった。


 そのせいで、メデューサは今まで白い目を向けられてきた。


「努力をすれば報わることもある。もちろん、すべてが報われるとは限らない。

しかし、努力やそこから生じる結果に対して、我が学園は正しく評価しよう。

励め、少年少女よ。この学園の、ひいてはこの国の将来は君たちにかかっている」


 この学園に入学した際に、学園長が新入生に向けて放った言葉だ。


 メデューサは学園長の言葉を信じ、努力を続けた。


 そして、その努力が実り、生徒会長になることができた。


 今でもメデューサを口悪くいう者はいる。


 だが、それ以上にメデューサを慕ってくれている者のほうが多い。


 家柄に関係なく、平等に評価されるこの環境がメデューサは好きだった。


 自分を慕ってくれる生徒たちが好きだった。


 この学園が好きだった。


 そして、今まで積み上げてきた努力に誇りを抱いていた。


 しかし、そんなメデューサでもアークには勝てないと考えていた。


 アークは明らかに別格である。


 なにしろ無詠唱魔法を使いこなし、圧倒的な成績で大会を勝ち進めてきたのだ。


 そしてバレット戦では驚異的な反射速度を見せていることから、おそらく接近戦も得意としている。


 まったく隙がない。


「それでこそ、決勝戦の相手には相応しいわ」


 メデューサは今まで学園最強の地位を守り続けてきた。


 生徒会長としてのプライドがある。


 たとえ相手がアークであろうと負けるつもりは微塵もなかった。


「一年に最強を譲るほど最強の地位は甘くないわ」


 メデューサはアークを見つけると、口の端を吊り上げた。


「初っ端から全力で行きますわよ」


 今回用意されたフィールドは、乾燥地形の中でも岩が多いフィールドだ。


 視界があまり良くないが、メデューサにとってそれは些細なことだ。


 すべてを吹き飛ばしてしまえばいい、と彼女は考えていた。


 メデューサはアークの大まかな位置だけ把握すると、詠唱を始めた。


 メデューサが最強と言われる理由。


 それは彼女が最上級魔法を会得しているからだ。


 それも最上級魔法の中でも、圧倒的な威力を誇る魔法――隕石メテオ


 学生どころか、一級の魔法使いでも扱えるものが少ない魔法だ。


「――隕石メテオ


 フィールドの空を覆うように、巨大な岩が出現した。

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