第50話:修行の進捗

エアブズの元についてからはや一ヶ月。我ながら異常なスピードで成長してる気がする。


例えば…



「うおらぁぁぁぁぁ!!」



前は一撃アウトだったカークスのご指導。


今は体が耐えれるようになったし、その回転を剣戟に乗せれるようにもなった。


相変わらず視界はぐるぐるだけど、景色も少しずつ見えてきたし。



ここまで一気に強くなれた理由は至ってシンプル。エアブズのおかげだ。


経験値という概念を生み出す魔法とでも言えばいいのだろうか。エアブズが莫大な負荷を身体の成長に変換してくれる魔法を掛けてくれたのだ。


まあ、死ぬほどのダメージを受けないといけないらしいからコスパ悪いんだけど。



とにかくエアブズの魔法とカークスの攻撃で、俺の体は劇的な強化を得られたのだ。



他にも、水以外の魔法が一つ、使えるようになったということがある。



光魔法だ。



今までの俺の光魔法は、ずっと自分に閃光弾を投げてる状態だった。それは今でも変わらないし、いつかどうにかしたい。


結界魔法だって、構築したら腕を貫通して現れて、あとはお察しの通り。



そこじゃなくて、使えるようになったのは幻を見せる魔法、《イルジオ》だ。



「うぐっ…」



ちょうど今、受け流しに失敗したので実演して見せよう。



負傷箇所は、刃に添えた左腕。多分筋繊維の大量断裂。


このままだと痛みで次の行動に支障が出かねない。そんなわけでーー



「ーー光よ・夢を謳えーー


ーー《イルジオ》ーー」



こんな風に、俺自身に幻術を掛ける。するとびっくり、あら不思議。


痛みを一切感じなくなるのだ。



「せえい!!」



息を入れて上弦振り抜き。硬い感触が右手に響いた。



『ふむ、そこまでじゃ』



優しい風に包まれて、回転が止まる。


地面に着地。ふわっと着地。



『治療の時間じゃのぅ』



もう休憩らしい。






部屋移動。食堂でお昼ご飯ターイム。



『しかし、随分と腕を上げたな』



カークスの呟きに顔を上げれば、少し誇らし気なようだった。



『今までは我の一撃の余波にすら耐えられなかったが…』


『その余波に耐えるだけでなく、攻撃に転じることまでできるようになるとはのぅ』



エアブズも感慨に耽っている様子。なんかソワソワする。



『《イルジオ》に関してはやめて欲しいものじゃなぁ』


『回復魔法が使えない枷を超えるための策。実戦的で良い使い方だ。


なぜ規制する必要がある』


『お主のぅ…』



エアブズの呆れたっぷりため息一つ。何がダメなんだろう。


とりあえず手を進める。



(みんなはどうしてるんだろうなぁ)



ふと湧いてきた疑問。


怪我はしてないだろうけど…なんだか心配だなぁ…



『さて、ユウトよ』


「ん?」



いきなり空気がピリッとした。



『お主に大切な話があるのじゃ』







ーーーーーー






『よし、今日からティオナさんも新しい訓練に入ろっか』



昨日、最終目標の一時間にようやく至ったティオナ。これにて第一訓練は合格といったところでしょうか。


ちなみに私は第五訓練に臨んでいるところです。



『第二訓練はこれだよ』


「瞑想…ですか…」



よほど|甘幻の魅惑が堪えたのでしょう。ティエンの実を噛んだくらいの苦い顔です。



『うん。今度は定期的に上げ下げするんだ』


「え…?」



私が言われた時も、ちょうど今のティオナのような呆けた顔をしていました。



『ティオナさんは魔法の出力を調整するとき、どうやってる?』


「それは…なんとなく…でしょうか」


『そうだろうね』



予想通りという顔をするヨトゥンさん。立ち上がって、ペタペタと机の前を行ったり来たりします。



『今まで観察してきた感じ、人間は魔法という概念への理解が随分と浅くなってる』



指を軽く振りながら、ペタペタペタペタと足音を響かせます。



『出力調整はその場任せ。使い方は一辺倒。


魔法に対する分析も乱雑で、それなのに異常なほど属性にこだわる。


ここで質問!』



ビシッと指を立てたヨトゥンさんは、宙に幾つかの球体を浮かべました。


それらは火、水、雷、風と、次々に姿を変えていきます。



『今見せたのは、何属性の魔法?』


「光魔法の幻術ですね。発動した魔法の属性が変わることはありませんから」



こう考えるのはティオナだけではないでしょう。もちろん、私もそう考えました。


実際はーー



「ーー炎、水、雷、風…ですね」


『正解!まあ、人間基準だけどね』


「ええっと…セシリア…様?」



ポカンとした顔をするティオナ。私もあんな風な顔をしていたのでしょうか…



『もう一個質問!魔法ってなに?』


「人の意志で理を造ることです」


『正解!でもそれってどういう意味?』


「意味…?そのままでしょう?」



常識を疑うこと。ヨトゥンさんが今突きつけているのはそれです。



考えたこともなかった。気にしたこともなかった。


それなのに私はユウトさんに…



(随分と…滑稽ですね…)



小さく、本当に小さく笑いが出てきました。


我ながら冷たくて、苦くて、重い…




パンッと乾いた音が響きました。



『じゃあちょっと座学をしようか』



にこりと笑ったヨトゥンさんが、少し誰かに重なった気がしました。






ーーーーー






「ーーなーるほどね」



エアブズから聞かされた王の話。アイオリアが言いたかったのは、これだったのか。



「それで俺はどうすればいいの?」


『王の苦しみを…解いてはくれんじゃろうか』


「…俺が?」



セシリアたち曰く王との力の差は赤ちゃんと俺くらい。


でもみんなの雰囲気を見てた感じ、もっともっと差が大きいように思える。



「正直、俺よりも適任な人ならザラにいる気がするけど…」



強引に拒絶されたら即終了だし、それ以前に王の元まで行けない気がする。



(とはいえ王はいい人だし…それにエアブズのお願いだしなぁ…)



鍛えてもらった恩があるし、どうしたものか


必要な要素を考えてから決めよう。



おそらく王を助けるのに必要なのは二つ。


強さと包容力だ。


それを兼ね備えているとすれば、強くなったセシリアぐらいかな。俺は論外。



それからミッションスタイルだけど、間違いなく暗殺スタイルだ。


どっかで騒ぎ起こして、こそこそ魔王の元まで突入。そのボヤ騒ぎの間に王の治療。その後脱出。


ていうかそもそも魔族は何に動揺するのか。どれくらいの影響があるのか。


全くわからん。



まあいいや。なんとかなるでしょ。


まあいいや。なんとかなるでしょ。



「できる限りはするけど…あんまり期待しないでね」


『ありがとう…のぅ』



ちょっと声が掠れてる。エアブズもしかして…泣いてる?



『我からも感謝を。我が友よ、我らに代わってよろしく頼む』



差し出された手を握れば、少しだけ震えていた。

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