ファンタジー狂いの元いじめられっ子
@ginkyo
第1話:落ちて知る勘違い
「消えろ化け物!」
「化け物!うちの子に近づくんじゃないよ!」
どこへ行っても、俺の元にはそんな言葉が飛んでくる。
学校然り、スーパー然り、家然り。耳にタコができるんじゃないかってほど聞いてきた。まあ、特に気にしてはいないんだが。
俺こと、久城悠人がこんな扱いを受けるようになったきっかけは、確か小学二年の頃だった。
ある晴れた日の体育の時間、校庭で俺達のクラスはサッカーをしていた。小さい子らがボールに向かってわちゃわちゃするお団子サッカー。
全員が夢中になってボールを追いかけているとき、ふと俺の視界に、ゴールにぶら下がっているキーパーの姿が映った。
刹那、俺はゴール目掛けて飛び出していた。傾くゴールが地に伏す直前、俺はキーパーを突き飛ばした。
結果、キーパーは擦り傷で済んだのだが、俺はゴールの下敷きになった。脳天直撃、一撃必死。普通の人間にとってはそうだろう。だけど、俺は普通じゃなかった。
生きていたのだ。
多少の出血こそしていたものの、骨にも脳にも異常なし。俺の体は、化け物と呼ばれるにふさわしい強靭さを持っていたのだ。
それからだった。俺を見る目が変わったのは。
恐怖、嫌悪、その他もろもろの負の感情に晒され続ける毎日。
最初は学校、次にその保護者、さらに保護者の知り合い…徐々に徐々に俺への敵意は広がって行き、最終的には街全体が俺を敵とみなすようになった。もちろん、両親も親戚も例外ではない。
それでも俺は学校に通えていた。最低限高卒までは、県が支援をしてくるのだ。街の役人も、嫌そうな顔をしてはいるのだが、お金を渡してくれる。
家は追い出されたので、森から通っているが、一応学生である。
さて、そんな人生を送っている俺だが、高一の時から絡んでくれる連中が現れた。
「よお、相変わらずボッチか?化け物」
それがこいつら六人組。名前は知らない。
「可哀想だな。今日も俺達が遊んでやるよ」
リーダー格のやつの言葉に、五人が腹を抱えて笑う。いや、どこが面白いんだ?
こいつらはいつもヒーローごっこをして遊んでいる。ほんのちょっと
俺はいつも悪役なので、負ける分には構わんのだが、蹴ったり踏んだりするのはやめて欲しい。服洗うの大変なんだぞ。
「いつも同じ場所ってんのも飽きるから、今日は違うとこいこーぜ、ボス」
「それなら丁度いいとこ知ってるぜ。ついてこいお前ら」
取り巻きの一人の進言に、リーダーは快諾。というわけで場所移動。
ーーーー
しばらくボスの後に続いて森を歩いていると、少し開けた場所に出た。どうやらここは崖の上らしく、眼下には、どこまでも続いていそうな樹海が広がっていた。
「おお!さすがボスっすね!綺麗な所です!」
「そうだろそうだろ」
「おい化け物!ここに立て!」
「へいへい」
リーダーの指示に面倒くさそうに答える。いっつも偉そうにしやがって。まあ、俺に絡んでくれる唯一の奴らだし、少しは多めに見てやろう。いや、何様だよ俺。
リーダーが立っている場所は、岬の
テレビなんて見れる環境にいない俺だが、実はアニメ、特撮に関しては少し知識がある。
まあ、クラスの奴らが話しているのを盗み聞きしたからなんだが。いつか見てみたいものである。
俺は指示通り、リーダーの隣に立った。おお、なかなかの絶景。ここには6年間住んでたけど、全然気が付かなかった…。
「てか、高いなここ。落ちたら…は?」
下を見た瞬間、背中に衝撃を受けた。自分が落ちていくのが随分と遅く感じる。
上を見上げると、そこには手を突き出したリーダーがいた。ダチだと思ってたんだけどなぁ…。
風を切る音がやけに大きい。頭の中では今までの記憶が湧き出てくる。
ああ、これが走馬灯ってやつなのか。
てか、ダチだと思ってたの俺だけじゃん。あのごっこ遊びって、側からみたらただのいじめだし。
「やったぞ、お前ら!大成功だ!」
「よくやった息子達!」
「私達は勝ったのよぉぉ!」
妙な実感で満たされたと同時、熱が俺の全身を駆けた。暗くなっていく世界の中、狂った歓喜が俺を包んでいた。
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