第4話 平然と鼓動
「さて、夜通し耐久トランプ大会の始まりとしますか!」
「しねえよ。何で最期の夜にポーカーとかやんなきゃいけねえんだよ」
「ババ抜きだよ?」
「二人でやってもクソつまんねえやつチョイスすんな」
コンビニから帰宅した俺達は、火照りを冷ますようにアイスを貪った。
クールダウンされた身体と頭で改めてこの夜の過ごし方を考えていたのだが、何が正解なのかは全くわからずにいた。
「じゃあさー、私コウくん家行きたい」
「俺ん家? 行くも何も、隣じゃねえか」
「でも、コウくんがご飯食べに来るからあんまりそっち行かないもん」
「まあ、いいけど……」
小春は満面の笑みを浮かべながら、立ち上がり玄関から颯爽と出て行く。仕方なく俺は小春のあとを追う。
「コウくん、早く鍵あけてー」
「ったく、別に面白いもんなんかねえからな。……ほらよ、開けたぞ」
「よっしゃ、宝探しだ! えっちな本はどこだー!」
「お前……まじ、やめろ」
一層とテンションをあげながら、小春はバタバタと家にあがりこむ。
「わー、これがコウくん家かあ。へー、意外に 小綺麗にしてるんだね?」
「何度も来てんだろ」
「彼女として来たのは初めてだもん。小芝居くらいしてもいいじゃん。それにコウくんは、彼女を自分の家に連れ込んだということを自覚しなさい」
「へえ、じゃあ小春はノコノコ連れ込まれた訳だ。押し倒されても文句ねえな。抵抗しても、やめねえぞ?」
「あはは、コウくんは抵抗したらやらないじゃん」
「わかんねえぞ、俺だって男――」
「コウくんはやらないよ」
微笑みながら、小春は見透かしたような瞳を俺に向ける。
「コウくんが、私の嫌がることする訳ない。何年一緒にいると思ってるのさ」
「……お互い知り尽くしてるってのもつまんねえな」
「まあ、私は嫌でもないし抵抗もしないけどね」
小春の発言に、一瞬時が止まる。
これは誘われてるのか? OKなのか? どこまで本気で、どこまで冗談で言ってるのかわからない。そもそも、何も考えず発言している可能性だってある。
「……前言撤回。知り尽くしてるなんて全然思い違いだった」
「なんで?」
「俺達はもう幼馴染じゃなくて、彼氏彼女だってことだよ。……と、とりあえず風呂でも沸かすか?」
「私、シャワーでいいけどコウくん入りたいなら沸かせば?」
「そ、そーか。お、俺ももじゃあシャワーでいいいかな」
「何、キョドってんの?」
普段通りすぎる小春の反応を見て、ふと我に帰る。自分だけがまごまごしているこの状況が急に恥ずかしくなってきた。
「……なんでもねえよ。シャワー浴びてくる」
「いってらー! この夜何して遊ぶか考えとくね!」
「あんまくだらないこと考えんなよ」
小春をリビングに残し、早々に頭を冷まそうと俺は浴室へと向かった。
「……ふう。何ともないフリするのも、大変だ」
◇◇◇
小春のシャワーが長い。
俺が風呂場から出た後、小春も続けて浴室へと入って行った。小春のシャワータイムは、普段であれば5分だ。年頃の女の子とは思えない程ガサツに済ましてくる。
ただ、今日は30分以上出てこない。この時間俺はソワソワしていることしか出来なかった。貴重な時間を無駄に使っている気がする。
「ただいまー! よきお湯でしたっ!」
「……随分、長かったな」
「色々考えごとしながらシャワー浴びてたら、長くなっちゃった! 水道代気にしなくていいって、世界の終わりも悪くないね!」
「悪いに決まってんだろ。どんなポジティブシンキングだよ」
「さてさて、では私が悩み抜いた末に決めた、完璧な最期の夜の過ごし方を発表します!」
小春はドヤ顔で腕を組んでいる。
とりあえず、申し訳程度に小さく拍手をした。
「なんと、今日の夜の過ごし方は……寝るです!」
「普通じゃねえか」
「チッチッチッ、甘いねコウくん。ただの寝るじゃないのですよ」
「特別な睡眠なんてねえだろ」
小春は少し顔を俯かせる。その行動が、赤く染まった頬を隠す行為だと気づくのに時間はかからなかった。
「あるよ。好きな人と同じベッドで寝たら……特別でしょ?」
ーーーー
世界滅亡まで、あと19時間
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます