明日世界が終わる。そして、彼女ができる
フー・クロウ
第1話 そして、彼女ができる
"というわけで、明日の19時ごろ隕石が地球に衝突します。えー、だからまあ……なんか、もういいや。では、皆様最期の24時間をお楽しみください"
テレビに映っていたこの国の一番偉い人物は、そう言い残し画面から消えた。
政府がおふざけで全国民にドッキリなんか仕掛ける訳がない。とても信じられないが、明日世界は終わるらしい。
空気がざわついているのを感じた。
死がすぐそこまで来ている。頭は整理できないまま恐怖だけが身体にまとわりつ――
「あっはっはっは! 聞いた、コウくん? 明日世界滅亡だって!」
「……笑いごとじゃねえよ、小春」
「まあ、そうだねえ。とりあえず、強盗でもしに行く?」
「世界終わるのに、金いらねえだろ」
「それも、確かにそうだねえ。あ、牛乳切れちゃったから買ってきてくんない? あと、お醤油も!」
「……おまえ。状況わかってる?」
小春は普段と変わりない様子でキッチンで夕飯を作っている。いや、変わりないどころか、鼻歌を唄いながらのご機嫌クッキングだ。
「世界滅亡は明日の19時。じゃあ、明日の朝ごはんは必要じゃん。コウくん、牛乳飲むでしょ? 目玉焼きにお醤油かけるでしょ?」
「論理的に返してるつもりだろうが、俺が言いたいことが全く伝わってない」
俺、
小春は家族同然とも言える幼馴染であり、職場は違えど俺達は施設から出る際に同じアパートの隣同士の部屋を選んだ。
料理が苦手な俺は、当たり前のように小春の部屋に転がりこんで食事を共にしていた。そして今日も何も変わらない、いつもの夕食だったはず。
しかし、なんてことのない日常の中、公共電波から唐突に世界の終わりを告げられた。
「にしても、隕石が衝突なんてベタな世界滅亡だねー」
「世界の終わり方にベタも何もねえよ」
「どうせ終わるならもうちょっとひねってくれませんかねー。大魔王が復活しましたとか」
「隕石衝突しますって時に、大魔王のが良かったなーって考えるのお前だけだよ」
「さてさて、ご飯できましたよー。とりあえず、あったかい内に食べよ!」
小春が作りあげた料理達を、テーブルに運んでいく。変わらず美味そうだが、心は弾まない。
「これ、最期の晩餐……になるのか?」
「いや、明日の17時くらいに早めの晩御飯とればギリいける! 最期の晩餐の可能性を捨てないで!」
「何言ってんのか意味わかんねえよ。……とりあえず、食うか」
小柄な体格の小春がちょこんと俺の前に座る。俺の食べている姿を眺めるのが趣味らしく、このポジションは誰にも譲らないらしい。
「小春のハンバーグはやっぱりうまいな」
「ふっふっふ、世界一のハンバーグだと自負しておりますよ」
「……いやいやいや。こんな普通に飯食ってていいのか?」
「んー、世界の終わりらしく、ちょっとパニックになってみる?」
「なろうと思ってなるもんじゃねえだろ。……こういう時何するのが正解なんだ?」
「そうだねー、やり残してること考えてみるとか?」
「悔いが残らないようにってやつか……? なんか、急にそれっぽくなってきたな」
「私もちょっと考えてみよーかな」
小春はなんとも幸せそうにハンバーグを頬張っている。この何も変わらない笑顔を見ていると、日常が終わってしまうだなんてとても信じられない。
食事が進み食器音が響く中、ポツリと小春は口を開いた。
「……あー、コウくん。そういえばさ」
「なんだよ」
「私、ちっちゃな頃からずっとコウくんのこと好きだった」
「……奇遇だな。俺も、ずっと小春のことが好きだったよ」
「そっかー。両想いだったんだね」
「そういうことになるな」
「じゃあさ、晴れてお付き合いが決まりましたかね」
「……あと、一日しかねえけどな」
変わらず食器音が響く日常のワンシーン。ロマンティックのカケラもなく、世間話をするように俺達の交際は始まった。
そして、俺にとって最初で最期の彼女になるのだろう。
「なんでもっと早く、伝えなかったんだろ」
今まで見たことのない表情を浮かべながら、小春が呟く。
世界滅亡の前日、最愛の人と結ばれた俺は幸せ者と言えるのだろうか。
ーーーーー
世界滅亡まで、あと23時間
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