第30話 大迷路
―訓練場ひっろ…
「皆、ちゃんと訓練してるな…」
「ですね。初めてのスケルトン以外との訓練ですから、皆張り切っているようです」
「ああ、なるほどな。スケルトン以外と接すること自体、ソウイツとの戦闘を除けばこれが初めてだもんな…」
「ええ。正直、私も少し高揚しております」
「行ってくるか?」
「よろしいのですか?」
「ああ。好きにしなさい。私は観に来ただけだから、もう一度城に戻って散策してくるつもりだしな」
「かしこまりました。では、行ってまいります。何かありましたらご連絡いたします」
「ああ」
そう言い、ポーンと訓練場に別れを告げた。
そのまま後ろを振り返り、今下って来た階段に再び足をかける。
数分経ち、階段の始まりにある扉の前に立つ。
それを押し開け、次はどこに行こうかと思案する。
確か、魔王の言っていた内容によれば、残りは「食堂」「大迷路」「大広間」くらいか?
…ああ、そういえば倉庫もあったな。まぁ、上って来たばかりだし今はいいか。
近い所からで言うと、食堂を通って寮にもどって大広間に入り、大迷路を軽く見回る感じにするか。
外が赤と黒しかないせいで時間がよくわからないが、恐らくまだ昼~夕方くらいの時間帯のはず。
流石に夜にはなっていないはずだし、見回る時間はそこそこあるだろうさ。
数分後、食堂前
ついたわけだが…とりあえず、この城階段の上り下りが凄いな…
…食堂を見に来たはいいけど、そういえばスケルトンだから食べられないんだよな…
…お、ラズがいる。食べてるのは…なんだアレ?
カレーのようにも見えるが、それにしては赤黒すぎるような?
まさか食材まであの色なのか…?
そういう意味で言うと、むしろスケルトンで助かったかもしれんな。
スケルトンで良かったと思ったのは、この1年間で初めてだ…
まぁいいや。さっさと部屋に向かおう。
そう思った、次の瞬間。
「ミ~ナちゃんっ♡」
…この声は。
「やっほ~♡さっきぶりね、覚えてる?ベルよ♡」
やっぱりか。
「んふふ、ふらふらしてたら見つけちゃってね♡ミナちゃんは…もしかして見学中なのかしら?」
よくわかったな…?とりあえず頷いておくとしよう。
「あらあら♡じゃあ、私が案内してあ・げ・る♡」
別にいらない…が、まぁ変に気を悪くされても面倒だし受け入れておくか…
「そうねぇ…食堂に居たみたいだし、訓練場はもう行ったのかしら?…じゃああとは大迷路くらいかしら?」
ああ。
「おっけぇ♡じゃあ、私の部屋に一緒にイきましょうか♡」
…ないはずの背筋がゾクゾクしたぞ?
やはり断るべきだろうか…?
「大丈夫よ~♡確かにミナちゃんは私の好みだけどぉ、さすがに同意もなしに襲ったりしないわ♡」
…そもそも好みじゃない相手がいるんだろうか?
「さてさて、それじゃあイきましょうか♡」
数分後。
…ふぅ、ようやく部屋の前についたな。
「んふふ、私の部屋にようこそ~♡」
…予想はしていたが、随分と甘い色というか…
この部屋にずっといると胃もないのに気持ち悪くなりそうだ。
「カワイイでしょ~♡そ・れ・よ・りぃ…コレコレ~ここよぉ」
そういいながらベルが指さす先には、黒い何かで床に描かれた丸。
そして、その中に描かれた三角や文字のようなものたち。
もしかして、これがいわゆる魔法陣とかいうあれか?
「これに乗れば大迷路までひとっとびよぉ♡さぁさぁ、乗ってみましょ?」
…とりあえず、乗ってみるとしよう。
さすがに何か罠があるわけでもないだろうし。
恐る恐る乗った瞬間魔法陣が光り出し、景色が一変する。
―そこは、赤黒い空間だった。
壁を見てみると、それは前世でよく見たレンガで出来ているようだ。
その色はレンガと思えないほど赤黒いが。
その壁たちの前には、少し太めの柱が何本か立っている。
それらには、なにやら手錠のようなものがあったり、人をかたどったような…檻?鳥かご?のような何かがあったりする。
…あと、そこかしこに白いナニかと赤黒いナニか。
…ここも中々に気持ち悪くなってきそうな場所だ。
そう思いつつ更に部屋を見渡すと、部屋の壁の一部に人間サイズの扉と、その反対側にもう一つ扉が存在している。
「んふふ♡ここもいい感じでしょう?私の好みに変えてるのよ♡」
どうやら随分と趣味が悪いらしい。
「まずは大迷路の方からイきましょうか♡この扉は、本来ならソウイツちゃんやラズちゃんの部屋に繋がってるんだけど…まぁ、難しいことはとりあえずいいわよね♡」
そういいながら扉の前に向かっていったのでついていく。
ゆっくりと押し開けられたその奥には、真っ黒な壁と、それより少し薄い色の階段が見える。
その階段は、右にカーブを描き、徐々に下の階層へと沈んでいく。
その姿はまるで、龍か何かのよう。あるいはDNAの螺旋構造か。
手すりから身を乗り出して下をのぞき見れば、先ほど訓練場で見たゴブリンたちが縦に数十匹は入りそうなほど高い。
それに、とても暗く、仮にここで転びでもすればおおよそ助かる可能性はないだろう。
そう思わせるような、異質な雰囲気が漂っていた。
「んふふ♡ここが我らが魔王城の誇る大迷路よぉ♡とりあえず、下までイきましょう?」
一体の悪魔と一体のスケルトン・クイーンが、階段に沿ってぐるぐると下降していく。
外から見れば、まるで地獄への階段のようなのだろうな。
…そういえば、罠はどうなっているんだろうか?
魔王の話によれば、確か岩を転がしたりするなんて話もあったはずだが…
少なくともこの辺りにそんなものはないし、どこか階段の途中にでも隠されているんだろうか?
そう思いつつ、壁、ひいては罠を確かめていく。
しばらく進むと、一部が凹んでいる場所を発見。
ここが罠を発動させるためのスイッチだろうか?
下手に押して何かが作動しても困るので、さすがに今は押さないでおこう。
…そういえば、こういった罠の手入れとかは誰が行っているんだろうか?
下級や中級の魔物がやっているのか?あるいはこの城自体がダンジョン的な扱いで、こういうのが自動で補われるとかそういう感じなんだろうか?
ふむ、まったくもってわからん…後でソウイツにでも聞いてみよう。
そう考えていると、ベルが声をかけてくる。
「はい、ここが大迷路の出口よ♡侵入者はここから今私たちが下って来た階段を上って私たちの部屋までクるってわけ♡」
前を見ると、真っ黒な壁によく馴染む岩のようなものが縦に連なっている。
それが横にいくつも連続して行われており、まさしく「迷路」というのにふさわしい様相を呈していた。
少し迷路の内部を楽しんだ後、ベルの案内で迷路の入り口に到着。
確かに、これだけ視認性が悪く複雑なうえに魔物まで出てきて、しかも罠もあるんじゃあ侵入者は大分厳しそうだな。
今回はベルの案内があったから楽にここまで来られたが、それがなかったら迷路だけで大分苦労しそうだ。
「…さて、そろそろ戻りましょうか♡」
そうベルが言った、次の瞬間。
『塔内の全魔物に告ぐ!!侵入者が魔王城に接近しておる!!猶予はおよそ10分!!今すぐ持ち場に着け!!』
「あらあらぁ…」
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