第15話 絶望、再来

ポーンとの勝負。それは訓練であり、本番でもある。

つまり、相手の腕を落とすなどして戦闘不能にするか、どちらかが「降参」というまでは試合が続くのだ。

その上、魔法、剣、スキル、何を使っても良い。

つまりは「なんでもありバーリトゥード/Vale tudo」である。

そのため、普通に死にかねない。


―静まり返っている室内。

その中央で、椅子を背に立つ【女王クイーン】たるミナ

それと相対するは、我が最初にして最も信頼する配下、ポーン。

お互いにらみ合いが続く。

なぜなら、最初に動いた方が殴られると分かっているから。

しかし、動かなければ勝敗が付かないのもまた分かっている。

…つまり、動くのは同時。


ポーンの肩が動いた。そのまま腕が動きだす。

それに合わせ、こちらも全く同じ形で拳を突き出す。

その瞬間、二人の拳はお互いの眼前でピタリと静止する。

―そう。

お互い、「これから本気を出しますよ」という合図。

つまり、ここからが本番だ。

二人とも少しだけ距離を取り、自分の武器を手にする。

私は腰の「不壊刀」を、ポーンは自分の魔力で強化した肉体を用いて、再度走り出す。

ポーンがまっすぐ突き出してきたその拳を、横に躱しつつ刀で切り付ける。

しかし流石に魔力を強く込めていたらしく、刀が滑ってしまう。

「ならば」と今度は胴に狙いを定め、手を返して一文字に打ち込む。

今度は効いたらしく、肋骨が何本か折れた手ごたえを感じる。

とはいえ咄嗟に身を引いて被害を最小限に抑えている辺りは流石だ。

下手に動かれると倒されかねないので速攻で仕留めに行こうとするが、ほんの少し距離が空いた瞬間ポーンの魔法が撃ち込まれる。

不懐刀であれば壊れる心配もないので魔法に突っ込んでそのまま切れるが、とはいえ一瞬手間を取られてしまう。

その隙に急接近するポーン。

魔法を切っている最中のため手が離せず、そのまま殴られて後方にぶっ飛ぶ。

とはいえそこは意地で耐え、後ずさりする程度に抑えて見せる。

更にそのまま左手で刀を持って、右手で裏拳を一発。

流石に予想していなかったのか、普通に食らってよろめいている。

そんな隙を逃すほど甘くはないので、そのまま一文字に切って追い打ちをかける。

ポーンが急いで顔を戻そうとするがもう遅い。

首元に刀を添えて静止する。

「…参りました」

「何とかなって良かった。やはり強くなったな、ポーン」

「いえ。終始押されておりました」

「そう謙遜するな。だが、そこが良い所でもある」

「ありがとうございます。良い試合でした」

「こちらこそ。またやろう」

疲れた…【直属骨騎士コマンダー】の中でも、ポーンを相手にする時だけは本気でいかないと普通に倒されるからなぁ…

それに、ポーンはまだ奥の手を隠している。

それに対し、私はもうステータスでゴリ押すしかない状態だ。

もちろん、敵対する相手には【盤上骨棋チェス】を総動員して戦うという選択肢があるが、私個人の力としては、やはり魔法が使えないというのが痛い所だ。

というか、本当に何故魔法が使えないんだ…?

スケルトン・ナイトが使えないのはまぁ分かる。

実際うちの「ロイヤル・ナイト」であるナイトも、魔法は使えないしな。

とはいえMIN自体はそこそこ高いので、正直納得しづらい所もあるが。

それは一旦置いとくとしても、その進化先である「スケルトン・キング」なんかは普通にINTもMPもあったし、そもそもスケルトンだってINTとMPとMINが0や1の個体なんて1体も居ないというのに…

まぁいい。ないものねだりをしても仕方がない。

…そうだ、久しぶりに2階の宝箱を見てみるとしよう。

前回の時に不懐刀を見つけたっきり、そういえば行っていなかったもんな。

【体術】のスキルオーブなんかもあったんだし、新しいスキルオーブがあってもおかしくないんじゃないか?

それに、2階では研究していることもあるし、それがどうなったかも見ておきたい。

そう思い、2階へ降りた。

…だが、そこには、予想だにしない光景が広がっていたのだった。



階段を降りた先、その光景にまず驚いた。

なぜなら、「スケルトンたちが1匹も居なかった」のだ。

3階の部屋をメインにしてからというもの、スケルトンという種族について研究しようと思い、「支配状態」でなくとも争わせることはできないかと思い、2階を利用していたのだ。

結果から言えば実験は成功で、「スケルトン・ナイト」や「スケルトン・ウィザード」、「セイント・スケルトン」へと人工的に進化させられた。

因みに、今の【直属骨騎士コマンダー】に居るナイト、ルーク、ビショップはその最初の個体だ。

一応「スケルトン・キューショナー」も作れたのだが、敵性生物がほとんど存在しない上に構造を知り尽くしているこのダンジョンではアサシンの役割がほぼなく、作るだけ作って皆の経験値になってもらった。

また、【支配状態】にすると必ず「ロイヤル・スケルトン」になるわけではなく、進化後の姿の場合はその姿から更に特殊進化するようだ。

ちなみに、その副産物として生まれたのが【盤上骨棋チェス】だ。

ちょっとテンションが上がって、変なことをしてしまったと後悔している…

ああ、それと。

「特殊進化」についても一定の研究結果が出ている。

まず、「特殊進化した個体には格上・格下という概念が存在しない」ということ。

どういうことかというと、特殊進化した後は例え格下だろうと経験値が得られたのだ。

まぁ、その辺の研究に没頭しすぎてレベル上げを忘れていたのでそろそろ真面目に上げようと思う。

…と、大体こんなところだろうか。

つまりこの1年間の粋を集めたと言っても過言ではない場所が2階だったのだ。

当然研究のためのスケルトンが大勢いたし、無駄に狩り過ぎないよう注意していた。

しかし、そのスケルトンが綺麗さっぱり消えている。一体、何が…?

もしも敵性生物が現れたなら早めに倒さないと…

そう考え、【ピース】と【直属骨騎士コマンダー】も連れて【盤上骨棋チェス】総動員で2階を探索。

ピース】の一体が私に2階の入り口で異常が起きていると伝えに来たので皆を連れて急いで向かってみる。

するとそこには、




あの「ゴブリンキング」が居たのだ。

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