第6モフリ なんでもありな浴場に湿り浸る尻尾

  俺は体を洗い終え、湯へと浸かりに行く。


「いやーにしてもほんと広いなぁ……どこに浸かろうかな?」


 見渡す限りの室内だけでも広く、サウナ、塩サウナ、ジェットバス、白湯、水風呂、替わり湯、高濃度炭酸泉、岩盤浴などがあり白湯の先にある硝子の向こうの外側には露天風呂があり、シルクバス、壺湯、洞窟風呂、立ち湯、寝湯があった。露天風呂の周りを竹壁で囲われていて、その先に竹林や桜や紅葉等があり下からライトアップされていた。


 因みに露天風呂の硝子扉の付近に「明暗」と書かれたスイッチと「春夏秋冬」と書かれたスイッチがあった。


「ん? 何だこのスイッチ。普通は温泉にこんなのないよなぁ……押しちゃえ!」


 カチッとスイッチを押すと、夜から朝になった。


「え!? 嘘ッ! そういうこと!? じゃあこの春夏秋冬って季節変えれるの!?」


(何だこのとんでもスイッチ! 景観を楽しむってレベルじゃねぇぞおい!)


(まぁでも異空間みたいな場所だし、再現なんだろなぁ)


 そうしていると俺はあるものを見つける。露天の隅にある鳥居を見つけた。その鳥居を潜るところに怪しく光る渦があった。


「何だこれ……もしや絶景風呂とかあるのか?」


 そう思い俺は早速鳥居を潜ることにした。


「!? これは……これは凄く趣深いなぁ」


 そこにはただの一つの露天風呂だけしかない。しかしその時間帯は夜明け頃、大きな泉にぽつりぽつりとある山に島、夜明け頃故かその空気感は新鮮でかすみが巻かれているような心地よさが広がっていた。


「まさしくこれぞニッポンみたいな感じだな。ははは」


 おもわず笑う。それほどこの景色の壮大さを体感したのだ。


「ここは最後にしようかなぁ」


 そうして鳥居を潜ろうとする、が無い。無かったのである。


「え? アレっ? エッ! ア……アレェッ!?」


 と、慌ただしく周りをキョロキョロと見渡すが無い。どこにもないのだ。


(やっちまっったああああああああ!!! 潜らなきゃよかったよ……)


(どうしよう……えぇ。何がどうしてこうなるんだ? なにか打開策は――)


 そうして俺はある妙案を思いつく。


「ヨシッ! 取り敢えず風呂に入ろう! 寒いしッ」


 そうして目の前の温泉に浸かったのだった。


「ふぅ……良き眺めに良き温泉とはこれ如何に。ってね! ははは……は」


「ほんとどうしよう」


 俺はまさしくお手上げ状態で今すぐどうこうするのは半ば諦めていた。

 そうして途方に暮れていると……。


「……ぉ……ぬ……よ……」


 どこからか声が聞こえてくるような気がする。聞き覚えのあるような。


「主よ、そこで何をしておる?」


「!? ビャッ!」


 ザバッと水音を立てビクついた俺は振り返る。


「もしかして狐朱こあけさんですか? いやーなんか鳥居に入ったら出れなく……え!!?」


 振り返ったその先に居たのは間違いなく狐朱こあけではあった。しかし彼女はいつもの服を着ていない。そう……たった一枚のタオルにその身を包んでいたのだ。

 思わず俺は顔を逸らす。


「チョッ! なんで服着てないんですか!」


「急に何を申すかと思えば、主はうつけか? 入浴しに来てるのならば、斯様かような格好をしていて当然じゃろうに」


「それに主も同様じゃろうて。……ほうか、あの鳥居に入ってきたのか。それならば仕方あるまい。閉じ忘れたかのぉ」


 昼とは違い既に風呂に入っていたのか彼女の顔は火照っており、長い後ろ髪をゆっている姿に俺はまた一味違う美を感じる。背丈がほぼ一緒が故によくはえる。

 しかし、呆気にとられた様子で話す彼女に対し俺は恥ずかしさに囚われているため、一刻も早くここから出たかった。


「えーとそれじゃあ、鳥居開けてくれませんかね?」


「まぁなんじゃ、そうくこともなかろう。このまま妾と共に湯に浸かろうではないか」


(うえっ……えぇぇええええぇぇええええぇええええええ!!!)


 俺の心は嬉しさと恥ずかしさと困惑の感情が一気に滝の如く押し寄せてきたため、臨界点を突破した。


「いやいやそんな、わっ悪いですよぉ」


「何気にするでない。元々いつかは主をここに連れてくる予定ではあったからの」


「あ、そーなんですか」


(え、いやいやそれってつまり混浴したかったと!! うぉおおぉおいぃ!!)


「まぁ混浴といえばそうじゃろうな。それよりどうじゃここの景色は?」


(あ、そういえば心読めるんだったわ)


「いやー鳥居に入る前の風呂の広さや充実感も凄く良かったですが、この開放感と溢れ出る渋みは心に染み渡りますねぇ」


「ほっ。いつの間にやら口が上手くなったのぉ。して、主はあの後どうじゃった?」


「あー実はですね……――」


 と。その後の出来事を話したりとしばらく充実した会話を楽しんだ後に彼女はある提案をしてきた。


「そうじゃ。主よ身体は疲れておらんか?」


「え、身体ですか? まぁそうですねぇ……若いからそんなに疲労とかあんまし無いってよくうちの母親が言ってますからね。どうなんでしょ?」


「うーむ、それはいかんのぉ。若いからと言って疲労がなくなるわけではないぞ。しかし、これは丁度良かったかの」


「ん? どういうことです?」


「何ちょっとついてくるが良い」


「あ、はい」


 そうして湯から上がる狐朱さんに続く形で俺も温泉から上がる。そうしてほんの少しの間付いて行くと少し大きめの小屋……いや店があった。


「んん? ここはなんです?」


「まぁまずは入ってみるがよい」


 そうして店に入ると元気いっぱいの大きな声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ! 狐弥弥こみや按摩あんま堂へようこそ!」


 目の前に現れたのは黒の髪と毛並みを持ったロリ狐娘であった。


「あんま? あんまって何スカ?」


 しばし俺は慣れたのか、新たな狐娘の登場に対する激しい嬉々を示すよりも「按摩あんま」という言葉が気になって仕方がなかった。


「主よ、按摩あんまとは所謂マッサージのことじゃよ」


「ああ! ここマッサージ屋なんですね!」


(え? マッサージって……この子が? ……え?)


 自分よりも遥かに背が低く、子供っぽさが目立つ外見からはとてもそうには見えなかった。


「何、そう案ずることはないぞ主よ。此奴は瑚滑こなめと言ってな、酒膳しゅぜんの妹なんじゃよ。此奴の按摩あんまは天下一での、幾千にも渡るこの道の老練家じゃよ」


「えー! あーそうなんですかぁ。……え!? 幾千にも!? 一体おいくつで?」


(しかも酒膳しゅぜんさんの妹さんかぁ……まぁ髪色とかは同じだけど身長差があまりにもありすぎるな)


 中々、年齢差身長差姉妹という稀有なものを噛み締めていると、瑚滑こなめが先の問いに元気よく答える


「今年で二百歳です!」


「oh! すごーい! 予想してたけど全然俺より年上だぁ」


「して瑚滑こなめよ。此奴の身体をほぐしては貰えぬかの?」


「はい! 最近お姉ちゃん達あまり来ないから暇してたので丁度良かったです!」


(……にしても実年齢は遥か年上と分かっていてもこの幼さ故か、罪悪感を感じる)


 そう感じながらも俺は彼女のマッサージを受けることになったのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


少し投稿が遅れちまったぜ!良ければ感想とかレビューやら待ってるぜ!

励みになるからさ!


次回予告 尻尾もドキドキ!初のマッサージ体験!?!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る