第65話
「……きみ、さ。」
ありゃ、いたのか、楓花。
「……どうして、隠してくれたの?」
え。
「……わかるよ、そりゃ。
何か月、きみと一緒にいると思う?」
そんな長くないだろ。
「……だって、私。」
「迷ってるんでしょ?」
「!」
「どっちが、いや、誰が真実で、
誰が正義か、分からなくなってる。
そんなトコ?」
「……どう、して。」
なんとなく言ってみただけなんだけど。
だって。
「楓花さんは、父上を誇りに思ってる。
だから、父上が護ったものに反することは、できない。」
まだ、ね。
楓花の精神は、まだ、壊されてはいない。
「……。
あーあ。
どうしようかな、私。」
はは。
「撃つなら、ヘッドショット一発にしてね。」
「しないよ、絶対。
なんのためにきみを護ったと思ってるの。」
ん?
「……いいよ、もう。
きみの彼女、あんな娘だと思ってなかった。」
「スケールが大きいでしょ。」
「ノロケ?
あんな娘いるのに、いっぱい手を出して、どういうつもりなの?」
うわ。
この世界の本質を突いて来た。
「これ、楓花さんに言っても、
わかってもらえないと思うけど。」
「……うん。」
聞くんだ。
あーもう、言い方が難しいな。
「藤原純一はね、
断ってはいけない星の元に産まれてるんだよ。」
「……は。」
「ほら、胡散臭いって顔してる。
何言ってるんだって感じでしょ?」
「そりゃそうだよ。
ほんとに何を」
「御崎紗羽さん、いるよね。僕の高校の先輩。
楓花さんのファッションセンスを直してくれた人。」
「う、うん。
もちろんわかるけど。」
「一度ね。
御崎さんとの関係を清算しようとしたんだよ。」
もともとなにもなかったんだけど。
「そしたら、
自殺されそうになった。」
「……は。」
「柏木彩音さんのソロデビュー曲の衣装、
御崎さんが、死に装束の予定で作ったやつ。」
「え。」
「禍々しかったと思わない?」
「……。」
「御前崎社長がね、あの服を気まぐれで採用してなかったら、
御崎さんは、間違いなく自殺してた。
って、本人から言われたからね、僕。」
「!」
「……という観点から、
ひととおり、眺めてみてくれる?」
「……。
…………。
…………………。
あぁ。」
「……でしょ?」
「……ほんのすこしだけ、
きみに、憐憫を感じたよ。」
せめて同情してくれ。
で、
「ひとつだけ聞いておきたいけど。」
「んー?」
「楓花さん、
隼士さんが、勝てないって思ってるね。」
「!」
なんだよ、な。
そう考えると、躊躇う理由がすべて分かる。
と、同時に。
「まさか、こうなってるとも思ってなかった。」
そりゃ、俺だって思ってなかったもの。
「……うん。」
「勝てるほうについちゃうと、父親を裏切ることになる。
そんな感じでしょ?」
「そこまで分かってるなら、どうして。」
「ん?
だって、友達だもの。」
「……あのさ、
私が、きみの彼女を殺さないって、どうして思えるの?」
「お父上の肖像写真の前で言えないから。」
「……っ!?
あー、もおぉぉっ!!」
……はは。
「で、実際的なことを言うと、
知らないフリをするのはやめたほうがいいよ。」
「な、なんで。」
「バレるでしょ、ふつうに。
向こうはプロだよ。」
「……。」
「そうだなぁ。
大して意味を持たない重大な秘密でも言ったら?」
「……たとえば?」
「『白川由奈には、彼氏がいる』。」
「!?
そ、それってっ…」
「御前崎社長が言ってたよ?
業界人は皆知ってるって。」
(私が知ってるってことはね、
業界の連中、貴方のこと、皆、知ってるってことよ。)
「素人が掴むには重大な秘密だけど、
プロからはなんの意味もない情報。
君のランクは下がって、重要なお仕事は来なくなる。」
「……きみ、
私が、何をしてきたか、知ってて。」
なにも知らない。
二次創作だから、そのへんふんわりしてる。
だから。
「伝えてほしい?」
揺さぶってみるだけで。
「……ううん、いい。
きみのことは、わかってるつもりだから。」
なにをどう、分かられてるのか分からないが。
「……きみに言い寄ってくる人の障害にならない限り、
きみが、私を貶めたり、辱めることはない。」
「……。」
まぁ、確かに。
藤原純一のこと、よくおわかりで。
「……ありがたいよ。
それだけで、十分。」
重てぇなぁ……。
まぁ、二次創作の女キャラだもんな。
救いなんて、ない。
……ほっとけるか、そんなの。
「……!?」
え、避けられちゃった。
なんか、俊敏。
「な、なにすんのっ!」
「いやぁ、そうしてほしいのかなって。」
「あ、頭なんで気安く撫でちゃだめっ!
ぜ、ぜ、ぜったいにっ!!」
……あら、
なんかこの展開、原作の純一っぽい。
*
「今週の第3位!
広中華菜、『1969年のマダーナ』、
ツーランクアップっ!」
……出てきた、か。
まぁ、当然なんだけど。
梨香や、由奈、彩音にないもの。
それは、ド直球のセクシー路線。
もちろん、彩音の身体はエロい。
でも、彩音はそれを前面に打ち出すスタイルではない。
梨香は圧倒的な美貌だが、女性支持の多い凜とした存在だし、
由奈はもちろん清純派。中身はともかく。
なので、セクシー枠は十分戦う余地があって、
そこへ、ぶつけてきたのだ。
さすが、放送作家連合。
敵ながら、よくわかっている。
潰すだけのお遊びだった少女倶楽部と違い、
音楽的にも適切な布陣で臨んできている。
広中華菜は、彼らの本命だ。
と、同時に。
なんと、彼女に関しては、
『なにひとつ』、情報がない。
本編は勿論、アニメ版にも、二次創作にも、だ。
俺にとっては、もっとも出方の分からない敵。
だからと言うわけじゃないが。
「まぁまぁよくいらっしゃってくださいました。
今日はちょっと、スタジオが寂しくて。」
カメラマンにお尻をなぞられて平然と笑っていられる度胸を隠し、
いったんは外向けの顔をカメラに、つまり全国へ向ける。
「そうっすね。
先週はみんないたんすけれど。」
「華やかでしたよねぇ。
でもまぁ、相変わらず凄いお召し物でいらして。」
冬だというのに、肩と臍を絶妙な切り口で露出している。
煽情感が半端ないが、単純に寒そうだ。
でもって、
「そうっすか?」
……無事に言葉遣いが悪い。
表の浄化された芸能界の中では、かなりな異端派だ。
「遂に今週第3位まで浮上されましたが、
1、2位のお二人をどうご覧になってますか。」
「あはは。なんか言わせたいんでしょ?
いやー、あたしなんてただの邪道っすからねー。」
このあっけらかんとした感じが、
容姿の可憐さ、衣装のセクシーさとのギャップもあって
男女問わずファンが多い。
ただ。
その歌唱力は本物であり、
梨香はともかく、由奈や彩音であれば、十分比肩する。
非実力派にみせかけて、三人に違和感を持つ層から支持を得つつ、
中身は本物、というやっかいな存在だ。
「もうすぐ春フェスですが、
この曲で勝負なさるのか? という質問も来てますが。」
「あはは、それは言えないっす。
って、言うように言われてますから。」
これだよ。
これは確かに人気出るわなー。
敵ながら。
「それでは歌って頂きましょう。
今週の第3位、
広中華菜さんで『1969年のマダーナ』。」
ぴりりりりりりっ
「はい、Kファクトリーです。
あー、どもども。」
おいこのポンコツ秘書モドキ。
「え?
ええ。
あ、はい。
じゃ、下で手続きして。
一応ですよ、一応。
会長に言って下さいよ、それ。
はい。
お待ちしてます。」
……だれ?
「あ、うん。
待てなかった人、かな?」
は?
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