第22話
「!?」
ほら。
さすがにね。
「……藤原さん、あなた……。」
そりゃまぁ、驚くわな。
一応、ライバル事務所所属のアイドルだもの。
「迷子だそうですよ。
東京駅で拾ってきました。」
「……そんな言い訳が通用するとでも?」
「ええ。
ただの事実ですからね。
大学のベンチにずっといたそうです。」
「……。」
って、逃げないのかよ。
原作だと、脱兎の如く逃げるか、暴れるかするはずだけど。
ジェニーが怖いのかな。
「じゃ、今日は僕、電車で行きますから。」
「!?
……あなた、いまのご自分のお立場、分かっておられるんですか。」
「なら、この迷子も乗せて下さい。
本人、嫌がるなら別ですけれど。」
「………。」
わ。
泣きそうになってる。
にしても、なんで原作みたく逃げないんだろうなぁ。
「……。
藤原さん。」
「なんです?」
「……
わかりました。
仕方ありません、本当に。」
「これで共犯ですね?」
「っっ!?」
あぁ、はいはい。
乗ります乗ります。
「……。」
あー、もう。
「ほら。」
「……乗れるわよっ!!」
なんだよ、折角純一みたいなことしてやったのに。
って、断られるやつもセットで純一か。
マジ、辛ぇ奴だな、藤原純一。
*
「……どうされるおつもりですか。」
「どうもしませんが。
警察に届けるわけにもいかないでしょ。」
それこそスキャンダルだ。
とどめの一撃になりかねない。
まぁどっちみち解散するんだけど。
「……っ。」
っていうか、なんでジェニー、御前崎社長を警戒してんのかな。
少女倶楽部なんて、沢埜梨香からすればゴミにもならないだろうに。
あ。
こっちか。
「御前崎社長が、例の絵を売りつけてくるからですか?」
「?!?!」
あ、これほんとクリティカルネタなんだ。
「あ、あなたねっ!!!!
だ、だ、誰の前だと思ってるんですかっ!」
「寝てますよ。」
「!?」
よっぽどベンチ、辛かったんだろうなぁ。
朝から移動ずくめだし、その前からだろうし。
「聞かれてると思ったんですか?
仮に聞かれたって分からないでしょうが。」
「……っ。」
「で。
ご本尊はさすがにまずいですよね?」
「……あなたっ。」
「三日月さんも、こういう子の経験はあるでしょう。
一人にしておくのがいかに危険か。」
元アイドルだからな、雛。
「……。」
「勿論、僕は無理です。
それこそ、由奈に疑われますよ。
こんなナリで、一応、十七歳ですからね。」
見た目だけなら中学一年生ってとこだな。
俺の世界にもいたな、そんなタイプの合法ロリユニット。
「……。」
「御前崎社長に貸しを作れますが。」
「……そう思って頂けるような方ではありません。」
「でしょうね。」
「っ!?
あ、あなたねっ!」
ジェニー、最近沸点低いなぁ。
「と、言いたいところですが、そこそこ気にしてますよ。
新大阪の件、知ってるんでしょ?」
「……たまにですが、あなたを殺めたくなりますよ。」
たまにっていうと
「
「一日十回くらいっ!」
うわ、やっべぇ。
そこまでかよ。発言気をつけよ。ちょっとだけ。
「まぁ、御前崎社長も、気を使うわけですよ。
入りたいっていうから、無理して入れたんでしょうし。」
「……。」
「本人、きっと、入りたくて入ったんじゃない、とか言いそうですけれどもね。
わかるでしょ、三日月さんなら。」
「……あなたが、私の何を知ってるんですか。」
「大企業でも勤まる有能な秘書能力。
にも拘わらず、こんな零細事務所の秘書に甘んじている方。」
「……気味が悪すぎます。」
「事実ですが。
ちょうど、柏木彩音さんが過小評価されたのと似てますね。
会社の規模だけで能力が判断される。」
「……。」
「まぁ一晩、泊めてあげて下さい。
食べ物は適当で。」
「……分かってて。」
「彼女にも、矜持があるでしょ。
オトコにちょっかいだされそうになった日ですしね。」
「……本当にわからない方ですね、あなたは。」
「すみませんね。
由奈の彼氏は、もうちょっと扱いやすい奴であってほしかったでしょう。
いなければ困りますから、三日月さんとしては。」
「……。
藤原、さん。」
「はい。」
「あなたは、由奈さんのことを、どう思っておられるんですか。」
「由奈は僕の彼女です。」
「……あなたの、気持ちです。」
気持ち。
気持ち、か。
「……着きました。
文月真美さんのことは、私が預かります。」
「あ、僕、
最後までその名前、言わないようにしてたんですよ?」
「っ!?!?」
……はは。
ジェニー、わりとこういうとこあるよなぁ。
*
「白川由奈さん、
今週第8位にランクアップですが、まずはご感想を。」
「……嬉しいです。
多くの方に聴いて頂けるのは、本当にありがたいです。」
うーん、理想的なアイドル模範解答。
ちょっとテレビ慣れした?
「柏木彩音さんが第7位にランクアップとなって、
抜かれてしまいましたが。」
こういう時代なんだよな。デリカシー皆無。
8、7位のフラップだけ同時に開けやがったし。演出があざとすぎる。
「彩音さん、カッコいいですよね。」
「同い年ですし、注目のライバル関係といったところですが、
そのへんは。」
「そんな。とんでもない。
キャリアも私なんかよりずっと長いですし。
聴いて下さる方に向けて、精一杯歌うだけです。」
連続模範解答。
これ、ジェニーの指図か、由奈の地か?
「では歌って頂きましょう。
今週第8位。白川由奈さんで、『ordinary』。」
前奏んとこでファンレターのハガキが読まれる体裁は変わらないのな。
あの野郎の折角の編曲が霞むなぁ。
ん。
あ。
これ、由奈の本調子だ。
先週よか、圧倒的に良くなってる。
はじめて聴いた時と同じような感動が蘇ってくる。
当たり前の日常の大切さ、か。
本当にそうだよなぁ…。
この時代のテレビって、こういうとこあるよな。
プレスしたCDよか、テレビのほうが歌がよかったりする。
皆が生歌が歌えて当たり前って時代だから。
あー、〇INEで感想送ってやりたい。
よかった、って。凄くよかったって。
んで。
あ、中継なのな。
「彩音さーん、聞こえますかーっ!」
「はーいっ!」
わりと盛り上がってんなぁ。
え。
あれって。
「いま彩音さんは福岡の公演が終わったところなんですが、
今日は彩音さんの事務所、BWプロの御前崎冬美社長にも
ステージにあがって頂いてます。」
うわ。
こんな絵、ありなのかよ。
「御前崎社長、彩音さんのこの曲ですが、
あちらに行かないようにしながら、
新境地を開かれたと大評判ですが、狙ってのことでしょうか。」
「とんでもない。
本人の才能ですよ。」
なんか普通に受け答えしてんな。
闇属性なんかおくびにも出さないように。
御前崎社長が逮捕されたらこの絵が散々擦られそう。
「少女倶楽部のセンターから鮮やかに脱皮しましたが、
これが先駆けになるのかについては。」
ガッツリ聞かれてんなぁ。
柏木彩音のランクインだっつーのに。
「今後続いてくれると嬉しいですね。」
うわ。さすが、ソツがない。
ない、って言ってるに等しいわ。
「彩音さん、会場大変な熱気ですが、いかがですか。」
内容がなさすぎる繋ぎ質問。
「そうですね。ありがたいです。」
「ライバルの白川由奈さんを超えた感想は。」
こっちでも煽るのかよっ。
構図、勝手に作り込んできてんなぁ。
「由奈ちゃんも言ってましたが、
一曲一曲、魂を込めて歌うだけです。」
「ありがとうございます。
では今週第7位、柏木彩音さんで、『Remorse』。」
……うわ。
迫力、増してんなぁ。
こっちも歌い慣れしてきてるってことか。
確かに構図作りやすいな。対照的すぎる。
……
……
ん?
なんか、ヘンだな。
ライブハウスからの中継なんだけど、
……ん、ん??
彩音がピアノ弾いてて、
バックにドラム、キーボード、トランペットいて、
あぁ。
ベースと、ギターがいない。
って、なんで?
……。
ん??
もしか、して。
彩音の情念溢れる歌唱が終わったのをしおに、
テレビをいったん消して、観葉植物まで歩き、
乗せたままにしてある由奈の「仮歌A」のCDを再生する。
華やかなトランペット、
鮮やかに組まれた多音色のシンセサイザー。
きっちりと細密なリズムを刻むドラム。
それにハーモナイズされてる由奈の歌声。
……。
ない。
ギターが、ない。
ベースもない。
この二つの楽器だけ、綺麗に消去されてる。
いや、なんか、ベースっぽい機能を果たしてる音色はあるけど、
これ、シンセ音だしな。
……なん、だ?
この、違和感は。
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